時々刻々現社的学習2009

「現代社会」の授業用ブログ

オバマ政権と医療保険改革

2009-10-30 13:10:12 | 日記
オバマ政権が掲げる医療保険改革が重要な局面を迎えている。周知の通り、アメリカには日本のような国民皆保険制度がない。企業の団体保険に6割が加入しているが、民間保険会社の保険料が高く、低所得者や失業者は無保険で、昨年の金融危機以来失業者が増加し、いまでは無保険者が5000万人を超えるのではないかといわれている。こうした無保険者の解消を最優先課題とするオバマ政権だが、巨額の政府支出を伴うことから国民の支持を得ることに苦労している。

政府が介入することを嫌う保守層を中心に、9月、首都ワシントンで医療保険改革に反対する大規模なデモがあった。先頃、上院財政委員会を通過した法案は、「公的保険の創設は盛り込まず、非営利の協同組合方式を導入し、保険業界の競争力を高める」というような、反対派に配慮した不十分な改革案だった。その一方で、民主党が多数の下院では「公的保険の導入」を明記する法案提出で固まりつつある。



■下院法案、公的保険の導入明記=医療保険改革で-米議会民主党

10月30日1時36分配信 時事通信配信記事から

 【ワシントン時事】米下院民主党は29日、オバマ大統領が内政の最重要課題に掲げる医療保険制度改革の実現に向け、下院本会議に提案する法案を発表した。最大の焦点である公的保険制度の導入を明記。政府が「妥当な価格」で加入できる保険を提供することで、全米で約4600万人の無保険者の解消を目指す。11月上旬にも本会議で審議入り、早期可決の上で上院との一本化を加速させる考えだ。
 法案では、医療保険改革に掛かる費用を今後10年間で8940億ドル(約81兆円)程度と試算。その財源は夫婦で年収100万ドルを超える高所得層や医療器具企業を対象とした増税などで賄う。また、民間保険会社に対し、既往症などを理由とした加入拒否や不当な保険料引き上げを厳しく禁じた。 


■公的保険が“復活” 米医療改革 リベラル派巻き返し

10月28日7時56分配信 産経新聞記事から

 【ワシントン=渡辺浩生】米上院が本会議に提出する医療保険改革法案に、政府が運営する公的保険の新設方針が盛り込まれる見通しとなった。民主党のリード上院院内総務が26日、記者会見で明らかにした。財政委員会で先に可決された案では、政府の介入強化に反対する保守派に配慮して導入が見送られたが、導入を強く主張する民主党リベラル派の巻き返しで“復活”した形だ。

 オバマ米政権が年内の法案成立を目指す医療保険改革は、約4600万人いる無保険者の大幅削減を目指すもので、公的保険新設の是非が最大の焦点。「保険市場の政府支配につながる」と共和党だけでなく、民主党の財政保守派も反対し、上院財政委員会が作成した法案は新設導入を見送った。13日の採決では、共和党でただ一人スノー上院議員が賛成を投じていた。

 しかし、約2週間にわたる法案一本化作業で、民主党多数派のリベラル派が「大手が独占する市場の競争促進には、公的保険の新設が不可欠」と強硬に主張。公的保険導入にこだわらない態度を示してきたオバマ大統領への不満や、スノー議員の影響力拡大を警戒する声も広がっていた。

 民主党指導部やホワイトハウスは今回、「超党派合意」を目指すあまり、リベラル派の反発を招くよりも、党内の結束を優先させるべきだと判断し、新設を盛り込むことにしたとみられる。下院も、ペロシ議長の主導で公的保険新設を柱に法案一本化を急いでいる。

 リード院内総務によると、法案は各州に対し、新設の公的保険に参加しない権利を与えている。しかしスノー議員は26日、「失望した」と述べ、今後の採決で反対する考えを示唆した。

 上院(定数100人)で独立系2議席を含む60議席を有する民主党が今後、財政保守派の支持も得て、議事妨害の阻止に必要な60議席以上の賛成を確保できるかどうかはなお不透明だ。


<コメント>

医療保険改革はオバマ政権にとって重要な試金石であり、政権の命運がかかっているといっても過言ではない。だからといって反対派に妥協して、中途半端な形で医療保険改革案を通してしまうと、オバマ大統領の求心力は失われかねないだろう。
しかし、反対派の抵抗も激しく、アメリカの世論を二分している問題である。民間保険会社や医薬品・医療器具メーカーなど既得権益を代表する反対勢力の巻き返しも予想される。
アメリカの国民医療費が対GDP比率で16.0%(07年)に上り、OECD諸国の中で突出している。<図録▽高齢化とともに高まる医療費(各国比較)>
米国より高齢化率が高い日本の対GDP比が8%台なのに比べると、いかに国民の所得が医療費に消えているかということを示している。このままでは、企業の保険料負担がますます増加して、医療保険の問題が企業経営の足かせになってしまうだろう。



■病院の赤字、1院当たり195万円 報酬改定でやや改善
2009年10月30日朝日新聞記事から

 厚生労働省は30日、病院や診療所の経営状況を調べた医療経済実態調査をまとめた。09年の1病院当たりの収支は、前回調査時(07年)より改善したものの、195万円の赤字。診療所は128万円の黒字だった。月額給料は、開業医の平均約207万円に対して、介護収益2%未満の病院の勤務医は約107万円で、倍近い差となった。

 中央社会保険医療協議会(中医協)で公表した。調査は、原則として2年ごとの診療報酬改定にあわせて実施される。長妻昭厚労相は来年4月改定で病院の報酬を手厚くしていく方針を示しており、この日は病院勤務者を増やした中医協の体制に変更して初めての会合だった。

 調査結果によると、民間や国公立の病院全体の利益率はマイナス0.8%。08年度診療報酬改定の効果で前回より0.9ポイント改善したが、依然として厳しい経営状況にある。とりわけ収益に占める介護の割合が2%未満の病院では、1249万円の赤字になる。

 一方、診療所の利益率は、12.5%の黒字。前回より4.9ポイント悪化したが、病院と比べると格差は歴然としている。

 調査は今年6月時点で、全国の1619病院と2378診療所を対象に実施。有効回答率は病院が56.6%、診療所が44.0%だった。


■開業医の平均月収、勤務医の1・7倍の208万円 厚労省調査

10月30日19時31分配信 産経新聞記事から引用

 厚生労働省は30日、今年6月時点の医療機関の経営状況などを調べた「医療経済実態調査」の結果を中央社会保険医療協議会(中医協)に報告した。給料に賞与分を加えた平均月収をみると、開業医は208万円で、病院勤務医123万円の1・7倍となり、開業医と勤務医の格差が改めて浮き彫りとなった。

 長妻昭厚労相は同日の会合から中医協委員に病院関係者を増やすなど勤務医対策を重視する方針で、平成22年度の診療報酬改定では勤務医への配分を手厚くする方針だ。

 1医療機関あたりの収支では、開業医の利益率が12・5%の黒字なのに対し、病院は1・2%の赤字だった。20年度の診療報酬改定で病院への報酬を増やしたため、2年前の前回調査と比べると開業医と病院の格差は5・9ポイント縮小したが、依然として病院は厳しい経営状況にある。



■中医協人事、医師会指定ポストを撤廃 厚労相方針
2009年10月26日朝日新聞記事から

長妻昭厚生労働相は26日、医療行為や薬代の公定価格である診療報酬を決める中央社会保険医療協議会(中医協)の委員のうち、日本医師会(日医)役員の指定ポストを撤廃する方針を明らかにした。任期切れの3人を再任せず、地域の医師会代表の2人に置きかえ、病院代表を1人増やす。長妻氏は「病院については、もう少し手厚い対応が必要だ」と説明。開業医の意向が強く反映されがちな日医の影響力をそぎ、勤務医の待遇改善を図る狙いがある。

 中医協は厚労相の諮問機関で、健康保険組合などの「支払い側」7人、医師らによる「診療側」7人、有識者による「公益側」6人という3者で構成される。企業役員ら専門委員も含めて計30人で、長妻氏はこのうち任期満了による改選や補充となる16人を公表した。このほとんどは今月1日に任期が満了。後任の選考が遅れたことで、従来なら10月中旬に始まっていた診療報酬改定論議はずれ込んでいるが、長妻氏は「遅れはない、というタイミングで決定した」と強調した。

 診療側のうち3人は、これまで日医の副会長や常任理事といった役員の指定ポストだった。今回は京都府医師会の安達秀樹副会長と茨城県医師会の鈴木邦彦理事を医師会枠として内定した。減らした1枠は病院代表に充て、山形大の嘉山孝正医学部長を任命。残る2人の病院代表枠は再任される。

 民主党は、来年度の診療報酬改定で、病院の勤務医の就業環境の改善に重点を置く。医師不足の中でとりわけ勤務状況が厳しいとされるためだ。こうした政策の具体化に向け、自民党寄りだった日医の発言力を低下させる必要があると判断した。


■診療報酬改定、厚労相直属の検討会設置へ

 長妻厚生労働相は30日、診療報酬改定の基本方針などを策定する直属の検討会を11月にも設置する方針を固めた。

 厚労相の諮問機関「中央社会保険医療協議会」(中医協)を中心とした診療報酬決定の仕組みを改め、政治の関与を強めるのが狙いだ。

 検討会は厚労相ら政務三役のほか、医療従事者、有識者らで構成する。2010年度改定に向け、改定率や報酬を重点配分する診療科などを決めることになる。

 診療報酬は従来、厚労相の諮問機関「社会保障審議会」が改定の基本方針を秋までに打ち出し、政府が予算編成過程で改定率を決定した後、中医協が入院基本料などの個別単価を決めていた。
(2009年10月31日03時18分 読売新聞)

(引用終わり)


<コメント>

こちらは日本の医療制度をめぐる記事。地方の医師不足や医療崩壊といわれる現象の背景になにがあるのか。勤務医と開業医の所得格差にあらわれているのは、現行の診療報酬基準が開業医に手厚く、病院の勤務医に不利な実態が浮かび上がってくるようだ。(あるいは、それを意図的に明示した厚労省の情報操作かもしれないが)地方の公立病院の赤字経営が増え続け、医師不足から廃止に追い込まれた地方病院が続出しているという原因の一端に、病院経営にダイレクトに影響する診療報酬の問題があるということだ。(これは看護報酬や介護報酬などの問題も同様である)

疲弊する勤務医

医師の偏在 変貌する医療

看護師:過酷な実態

現場から悲鳴 足りない介護の担い手

マイケル・ムーア監督映画「シッコ(SICKO)」予告編


(設問1)オバマ政権の医療保険改革に反対する立場の主張はどのようなものか。

(設問2)日本の特に地方で医療が崩壊していると言われるのはなぜか。

(設問3)医療過疎や医師不足問題の原因と背景について述べなさい。

格差と貧困の問題

2009-10-25 14:44:35 | 日記
昨年の金融危機以来、わが国では「格差」よりも「貧困」が喫緊の課題になっているようにも見える。もともと「ワーキングプア」とよばれる人たちの問題は金融危機以前にも顕著になっていた現象である。日本には「貧困問題」は存在しないと政府は強弁してきたが、政権交代で「格差」や「貧困」についての扱いが変わろうとしている。

長妻厚労相の指示で、厚労省は直近の「相対的貧困率」のデータを発表した。(しかし、このデータはもともと厚労省内の統計「国民生活基礎調査」にあるものだ。)


■<貧困率>日本15.7% 先進国で際立つ高水準
10月20日13時2分配信 毎日新聞記事から

長妻昭厚生労働相は20日、国民の貧困層の割合を示す指標である「相対的貧困率」が、06年時点で15.7%だったと発表した。日本政府として貧困率を算出したのは初めて。経済協力開発機構(OECD)が報告した03年のデータでは、日本は加盟30カ国中4番目に悪い27位の14.9%で状況は悪化している。日本の貧困が先進諸国で際立っていることが浮き彫りとなった。

 相対的貧困率は、国民の所得分布の中央値と比較して、半分に満たない国民の割合。今回はOECDの算出方法を踏襲した。06年の子供(17歳以下)の相対的貧困率も14.2%で、03年のOECDデータの13.7%(30カ国中19位)より悪化している。

 03年OECDデータで貧困率が最も高いのは、メキシコの18.4%で、トルコ17.5%、米国17.1%と続く。最も低いのはデンマークとスウェーデンの5.3%。

 長妻厚労相は「OECDの中でもワーストの範ちゅうに入っており、ナショナルミニマム(国が保障する最低限度の生活)と連動して考えたい。来年度から支給する子ども手当で貧困率がどう変化するかもシミュレーションしていく」と述べた。


■貧困率、19年は15.7% 世界ワースト4位
10月21日7時56分配信 産経新聞記事から

厚生労働省は20日、国民の経済格差を表す指標である「相対的貧困率」を初めて発表した。平成19年は15・7%で、7人に1人が貧困状態という結果。算出を行った10年以降で最悪となった。18歳未満の子供が低所得家庭で育てられている割合「子供の貧困率」は14・2%だった。経済協力開発機構(OECD)が昨年に公表した加盟30カ国の比較では、日本は4番目に悪かったが、国はこれまで数値を出しておらず、労働者団体から「現状把握のために調査をすべきだ」との声が上がっていた。

 政権交代で就任した長妻昭厚労相が今月上旬に算出を指示、この日の会見で「来年度から支給する『子ども手当』などの政策を実行に移し、数値を改善していきたい」と説明した。

 相対的貧困率は、一家の収入から税金やローンなどを除いた自由に使える「可処分所得」を1人当たりに換算し、高い人から順に並べた場合の中央値の半分に満たない人の割合を出したもの。子供の相対的貧困率は、全体の中央値の半分に満たない子供の割合を示している。今回の調査は、3年に1度実施している国民生活基礎調査の結果の数値を使い、10年にさかのぼって3年ごとの値を算出。OECDが採用している計算方法を用いた。

 最悪の水準となった19年は、年間所得の中央値が228万円で、相対的貧困率の対象となるのは所得が114万円未満の人。この比率が15・7%を占めた。

 OECDが公表した2000年代半ばの各国の相対的貧困率の比較によれば、日本はメキシコ(18・4%)、トルコ(17・5%)、米国(17・1%)に次いで4番目に高かった。

<参考>

「相対的貧困率の年次推移」


<コメント>

OECDが公表している「相対的貧困率」とは、(厚生省の資料によると)等価可処分所得の中央値の半分に満たない世帯員の割合となっている。だから、厚労省の統計資料「国民生活基礎調査」の年間所得の中央値(H18年、458万円)とは異なるはずだ。しかし、上の記事にある「年間所得の中央値が228万円」というのはどこから持ってきた数字なのか不明である。同じように「相対的貧困率」15.7%というのも何を示しているのかよくわからない。新聞記事にあるように、「7人に1人が貧困状態という結果」と素直に理解していいものかどうか。
また、世界ワースト4位という国際比較も「相対的」なものだから、あくまでも国内での貧富の格差が広がっている度合の比較と考えるべきだ。
それより、10年前(H08)の所得の中央値が約550万円だから、中央値でおよそ100万円の所得減少になっている点である。この間、名目GDPは約500兆円でほとんど変わらない。高齢化が進み、平均所得が減少しているのがひとつの原因だとしても、GDPから比べると、所得分配にゆがみがあるのではないか気になるところである。


■母子加算58億円閣議決定=高校就学費、来年度廃止も-長妻厚労相

10月23日11時27分配信 時事通信配信記事から

 政府は23日の閣議で、2008年度末で全廃された生活保護の母子加算を12月から全額復活させるため、今年度の予備費から約58億円拠出することを決定した。母子加算は、18歳以下の子どもがいる一人親世帯の生活保護費に月約2万円を上乗せ支給する制度で、支給対象は約10万世帯。
 長妻昭厚生労働相は同日、記者団に対し、来年度以降の関連施策の扱いについて、「高校の授業料無償化などが始まるので、重複する部分の調整は必要だ」と述べ、母子加算とともに支給される生活保護世帯向け高校就学費の廃止を検討する考えを示した。 


■<母子加算>復活めぐり「首相裁定」予算圧縮厳しさ浮き彫り

10月22日21時42分配信 毎日新聞記事から

 厚生労働省と財務省は22日、生活保護の母子加算の年内復活に58億円の予備費を活用することで正式合意した。しかし、復活までの両省の政務三役による交渉は難航を極め、鳩山由紀夫首相による「裁定」に持ち込まれた。政府は同日、行政刷新会議の初会合を開催。「事項要求」を含め、実質98兆円に上る概算要求の削り込みに入ったが、母子加算を巡る攻防劇は、予算圧縮の難しさを浮かび上がらせた。

 「厚労省の要求通り母子加算復活は満額が実現した。藤井裕久財務相の英断と、鳩山首相の理解に心から感謝したい」。22日昼前、財務省内で藤井氏との会談を終えた長妻昭厚労相は、記者団に満足げに語った。

 一人親の生活保護世帯に支給する母子加算は、04年度まで月約2万3000円支給していたが、今年3月に廃止された。民主党は衆院選マニフェスト(政権公約)に復活を掲げており、長妻氏は年内の支給再開を目指し財務省と調整していた。しかし、復活時の小中高生への学習支援費など3事業の扱いを巡り両省は対立。3事業は母子加算廃止の「代替」と主張する財務省は、復活後の支給をやめるよう求めた。母子加算に、学習支援費などを上乗せすると、支給額が廃止前より膨らんでしまうためだ。

 一方、厚労省は3事業のうち二つは「廃止の代替ではない」として、存続を求め、議論は平行線をたどる。長妻氏は21日夜、鳩山首相に「満額復活」を直訴。「全力でやってください」と理解を示した鳩山首相は藤井氏に電話で解決を促した。結局、同日中に藤井氏が、厚労省案をのむことで決着。財務省側の政務三役の一人は「官邸に持ち込めば何とかなるということでいいのか」と不満を漏らす。

 
<コメント>

民主党の公約であった「母子加算復活」はなんとか実現することになったようだ。その間、財務省と厚労省との間で予算をめぐる駆け引きがあったようだ。「貧困」問題がひとつの政策的なテーマに上ってきているのにわずか58億円程度の予算措置がすんなり通らないのはどういうことだろうか。(それも昨年まで、自公政権で実施されてきたものの復活なのだ)


(設問1)「相対的貧困」と「絶対的貧困」とはどうちがうのか。

(設問2)「相対的貧困率」が上昇している理由はなにか。

(設問3)「貧困」対策として政府はどのような政策的手段を講じているのか。

(設問4)「貧困」が拡大している原因で経済不況以外に考えられることをあげなさい。

雇用情勢と派遣労働者問題

2009-10-14 14:16:38 | 日記
 昨年末、不況の影響で派遣切りに会い、住居をなくした派遣労働者の困窮が問題となったが、その時点から、雇用情勢に何か変化はあったのだろうか。たとえば、失業率の増加、有効求人倍率の悪化はもう知られるところであるけれど、昨年末のような「派遣労働者」の困窮問題はどうにかなったのだろうか。

 こうした派遣労働者の困窮をなくすには「労働者派遣法」の抜本的な改正が必要なのだろうが、一方で、いまの雇用情勢では「派遣法改正」はかえって労働者の失業を増やしてしまうばかりだという主張も聞こえる。実態はどうなのかを考えてみたい。


■派遣制度見直しを諮問=製造業禁止が焦点-長妻厚労相

 長妻昭厚生労働相は7日午前、労働者派遣制度のあり方に関し、労働政策審議会に諮問した。民主党は衆院選マニフェスト(政権公約)で製造業派遣の原則禁止や派遣社員と正社員の均等待遇原則の確立などを明記し、与党3党合意は労働者派遣法の抜本的見直しと「派遣労働者保護法」への改称を求めている。今後、これらを中心に議論することになる。
 長妻厚労相は来年の通常国会への同法改正案提出を目指す意向で、審議会は年内をめどに結論を出したい考え。同相は「雇用情勢は急激に悪化し、派遣切りが多く発生し社会問題化するなど、派遣労働者をめぐる雇用環境に大きな変化が生じた」と指摘しているが、労使代表の見解は大きく隔たり、審議の難航が予想される。(2009/10/07-12:59 時事通信記事から)


■派遣法見直し、審議始まる 使用者側、規制強化に猛反発
(2009年10月8日20時0分 アサヒ・コム記事から)

 労働者派遣法の抜本改正に向けた労使の議論が7日、厚生労働省の審議会で始まった。鳩山政権は、仕事がある時だけ雇用契約を結ぶ「登録型派遣」や製造業への派遣を原則禁止し、安定雇用への転換を目指す。厚労省は年内にも労使の合意を得たい考えだが、規制の強化に使用者側の反発は強い。

 派遣法の見直しでは、民主、社民、国民新党が9月9日、法律名を「派遣労働者保護法」に改めるとともに、日雇い派遣や登録型派遣、製造業派遣を原則として禁止することで合意し、連立政権の政策合意に盛り込んだ。厚労省の集計では、昨年10月から今年12月までに失職する非正社員23万9千人のうち、約6割にあたる14万2千人が派遣社員。不安定な働き方への批判の強まりを受け、3党は大幅な規制の強化を打ち出した。

 7日の審議会で、長妻昭厚労相は「派遣切りが多く発生し、社会問題化するなど雇用環境に大きな変化が生じた」と指摘し、派遣労働者の雇用の安定のために必要な事項の検討を求めた。今後は3党の合意内容を踏まえて議論が進む見通しだ。

<中 略>

 ただ、労使の隔たりは大きい。労使は昨年9月、派遣法の改正は日雇い派遣の原則禁止にとどめ、登録型派遣の規制などは引き続き議論することで合意した経緯がある。麻生政権は昨年11月、日雇い派遣禁止を柱とする改正案を国会に提出したが、衆議院の解散で今年7月に廃案になった。雇用情勢の変化や政権交代があったとはいえ、使用者側には一足飛びに「禁止」に踏み込むこと自体に異論がある。
企業経営への影響を懸念する声も強い。この日の審議で、使用者側からは「コスト増で国際競争力が失われれば、製造拠点の海外移転に拍車がかかる」「地方の製造業は自前での人集めが難しい。製造派遣が禁止されると人を雇えなくなる」といった意見が相次いだ。

(引用終わり)


<コメント>

「製造業への労働者派遣」が禁止されると国内の製造メーカーの経営が立ちゆかなくなり、製造拠点を海外に移転せざるえなくなり、結果的に国内での雇用機会が縮小し、労働者の首を絞めることになる、という説明はよく聞かされる。しかし、だからといって「労働者派遣」のような非正規雇用の形態をこれからも続けていっていいという理由にはならないだろう。使用者側・企業側の論理を正当化してしまうと、労働者は企業が生き残るための手段だということになってしまう。

派遣労働を禁止にすれば、いま派遣で働いている労働者は失業し路頭に迷うし、企業はグローバル時代に適応できなくなるから、海外につぎつぎと移転することになる。だから「労働者派遣」は必要だという理屈はどこか本末が転倒していないだろうか。



NHKスペシャル「セーフティネット・クライシスⅡ」

NHKスペシャル「セーフティネット・クライシスⅢ」





■8月の失業率、5.5% 7カ月ぶり低下、求人倍率最悪続く

 総務省が2日発表した8月の完全失業率(季節調整値)は5.5%と過去最悪だった前月に比べ、0.2ポイント低下した。失業率の低下は7カ月ぶり。昨秋のリーマン・ショック以降の急激な雇用悪化にひとまず、歯止めがかかった格好だが、失業率の水準はなお過去最悪圏にある。厚生労働省が同日発表した8月の有効求人倍率(同)も0.42倍と前月と変わらず、2カ月連続で過去最低を記録、企業は採用に消極的だ。雇用の先行きには、なお慎重な見方が多い。

 完全失業率は15歳以上の働く意欲のある人のうち、職に就いていない人の割合。男女別にみると、男性は5.8%、女性は5.0%だった。

 就業者数は6296万人で、前年同月に比べ109万人減った。完全失業者数は361万人と同89万人増えた。ただ前月との比較では就業者の減少幅、失業者の増加幅がともに縮小。特に医療、福祉分野の就業者が前年同月比40万人増えたことなどが影響し失業率改善につながった。一方、製造業は112万人減と大幅なマイナスが続いており、足元の雇用環境は業種別にばらつきがみられる。

 過去最低が続く有効求人倍率は公共職業安定所(ハローワーク)で職を探している人1人当たりに何件の求人があるかを示す。8月は有効求人数が前月比0.2%増と15カ月ぶりに増加に転じたものの、職を探している有効求職者が同1.3%増加。景気の先行指標といわれる新規求人数は同1.1%減っており、人員の余剰解消にはなお時間がかかりそうだ。

[10月2日/日本経済新聞 夕刊]



■8月の景気一致指数、5ヵ月連続上昇 先行指数は伸び鈍化

 内閣府が7日発表した8月の景気動向指数(2005年=100)によると、景気の現状を示す一致指数は91.4となり、前月比1.6ポイント上昇した。5カ月連続の改善で、03年10月以来の大幅な伸びを記録した。生産や出荷の改善が景気の持ち直しを支えている。ただ数カ月先の景気動向を示す先行指数の伸びが前月より縮小し、日本経済の先行きに不安を残した。


 内閣府は景気の基調判断を据え置き、4カ月連続で「下げ止まりを示している」と指摘した。一致指数は判断の変更が必要な水準に近づいており、8月の改定値か9月の速報値で上方修正する可能性が出てきた。


 一致指数の内訳をみると、鉱工業生産指数が1.8%上昇、設備投資の動向を示す投資財出荷指数(輸送機械を除く)が41%上昇となった。小売業や卸売業の販売額も改善した。

 単月のぶれを除いた2月から8月までの7カ月間の移動平均値は0.49ポイント上昇し、18カ月ぶりに改善した。だが8月の一致指数の水準は、金融危機が深刻化する前の昨年8月の9割程度にとどまる。


 先行指数は83.3となり、0.8ポイント上昇した。6カ月連続で改善したものの、前月の1.6ポイントより伸びが縮小した。最終需要財の在庫率や消費者心理が改善し、雇用の先行指標である新規求人数が悪化した。中小企業の売り上げ見通しDIはマイナスに転じた。

<中略>

 景気の現状に数カ月遅れて動く遅行指数は83.8で、1.0ポイント改善した。遅行指数の改善は18カ月ぶり。8月の完全失業率が5.5%と7カ月ぶりに低下した影響が大きい。ただ企業の収益環境はなお厳しく、失業率の低下は一時的との見方も出ている。


 遅行指数のほかの構成指標をみても、個人消費などは改善したが、法人税収は悪化した。6月から8月までの3カ月間の移動平均値、2月から8月までの7カ月間の移動平均値も低下しており、遅行指数の上昇が続くかどうか予断を許さない。


[10月8日/日本経済新聞 朝刊]


<コメント>

 戦後最悪を記録した7月の完全失業率(5.7%)は、8月に入って2ポイント改善し、景気動向指数も上向きを示している。ここへ来て、どうにか景気は持ち直しつつあるようにも見えるが、有効求人倍率は0.42倍と2ヶ月連続で過去最低を記録している。つまり景気の状態は下げ止まりを示しているが、それが雇用や新規採用の求人増にまで波及していないということである。
 その理由を考えてみると、就業者の内訳で、製造業の就業者が大幅に減っていること、一方で医療・福祉の分野の就業者が前年同月比で約40万人増加している。つまり、製造業での生産や受注が改善し始めても、製造現場での人員過剰感はまだぬぐい去られていない状態ということであろう。反対に、医療・介護福祉分野の人手不足が続いていてこの分野へ求職者が流れていることを示している。
 したがってここで考えなければいけないのは、景気動向に左右される製造業の求人が改善するのを待つのか、それとも景気に左右されない医療・介護などの分野への就業転換を図るかということになるのではないか。いまの求人情勢では、「製造業派遣」の原則禁止を打ち出しても大きな影響はないかもしれない。むしろ製造業派遣の禁止が他の分野への就業転換を促す契機になるかもしれない。


(設問1)派遣労働者の問題がなぜ「格差」や「貧困」の問題に関係しているのか。

(設問2)「格差」や「貧困」などの生活問題以外にどのような問題が派生的に関係していると考えるか。

(設問3)「労働者派遣法」の改正で「日雇い派遣」や「登録型派遣」を禁止するとどのような問題があると考えるか。

(設問4)「労働者派遣」について、どのような法律改正が望ましいと考えるか。