時々刻々現社的学習2009

「現代社会」の授業用ブログ

新政権と環境政策

2009-09-17 16:39:09 | 日記
鳩山民主党政権の誕生で日本の環境政策は大きく変わろうとしている。
鳩山民主党代表が国会で首班指名を受ける前の7日、都内で開かれた「地球環境フォーラム」で、2020年までの中期目標として、温室効果ガス排出削減を1990年比、25%減とすることを表明した。この排出量削減目標は、民主党が衆院選のマニフェスト(政権公約)の中でも明示している。政権が変われば、当然こうなることはわかっていたはずであるが、メディアや産業界の反応は相変わらずなのである。



■<鳩山代表>「政策を総動員」…公約の温室ガス25%削減
9月7日13時10分配信 毎日新聞

民主党の鳩山由紀夫代表は7日午後、東京都内で開かれた地球環境問題のシンポジウムであいさつし、マニフェスト(政権公約)で掲げた温室効果ガス削減目標「2020年までに90年比で25%減」について「あらゆる政策を総動員して実現を目指していかなければならない」と表明した。

 また、温室効果ガス削減に努める途上国に対して先進国が資金的・技術的に支援するための具体策を「鳩山イニシアチブ」と位置づけ、新内閣発足後にただちに検討を開始する意向を表明。米国ニューヨークで22日に開かれる国連気候変動ハイレベル会合について「首相指名を受けたらぜひ出席し、具体的に国際社会に問うていきたい」と語った。【佐藤丈一】




■温室ガス25%削減は「非常に厳しい」=電事連会長
9月11日18時41分配信 ロイター

 [東京 11日 ロイター] 電気事業連合会の森詳介会長(関西電力<9503.T>社長)は11日の記者会見で、民主党新政権が2020年までの温室効果ガス排出量を1990年比で25%削減する方針であることについて、「非常に厳しい目標。将来にわたり国民生活、産業に非常に大きな影響を与える」と指摘した。
 同会長は「国際交渉では、世界で最もエネルギー効率が高い日本の実情を踏まえ、慎重な対応をしていただきたい」と注文を付けた。
 民主党の政権公約(マニフェスト)では、温暖化対策の一環として、太陽光や風力など再生可能エネルギーを全量固定価格で買い取ることを掲げている。自民党政権下で決まった11月開始の固定価格買い取り制度では、太陽光発電に限り家庭などで発電し余剰となった分について電力会社に売ることができる。コストは電気料金に上乗せされ、利用者が負担する。民主党がマニフェストを実行した場合、11月からの制度が拡大する形となる。
 森会長はこの点について、利益追求を目的に電力卸売り業者などの参入も予想されるとして、「一般の電気利用者が負担することは、なかなか理解されないのではないか」と疑問を呈した。同マニフェストで「地球温暖化対策税の導入検討」や「実効性のある国内排出量取引の創設」を盛り込んだことについも同会長は「慎重な議論をお願いしたい」と要望した。
 また森会長は、民主党が、「脱原発」を掲げる社民党と連立政権を組むことについて「(原子力に関して)民主党と社民党はマニフェストが全く違うが、政権与党としてその辺は調整されると思う。その中でわれわれは対応していく」と語った。
 (ロイター日本語ニュース、浜田健太郎)


■家庭で温室ガス25%削減…家計負担は最大650万円
9月8日23時21分配信 産経新聞

 二酸化炭素(CO2)など、温室効果ガスの排出を2020(平成32)年までに1990年比25%削減するため、民主党は「政策を総動員する」方針だ。だが、政府試算では、今ある技術を一つの家庭で「総動員」すると、最大で650万円程度の負担増になる。

 金銭的な負担は別にして、最も効果が大きいのは、住宅用の太陽光発電設備だ。一般的な出力3・5キロワットのタイプで2200キログラムを削減できる。設置費用は約185万円だが、国の補助制度(1キロワット7万円)で、約160万円になる。

 ただ、全国約4900万世帯のうち戸建て住宅は約2650万戸で、屋根などに設置するのに必要な耐震性と広さを備えるのは、約1000万戸だけ。太陽光がだめでも、100万円かけて断熱工事をすれば、800キログラムの削減ができる。

 住宅以外でも、従来型のガソリン車から、ハイブリッド車や電気自動車といった次世代エコカーに買い替えれば、800キログラム削減できる。40万~300万円高くなるが、最大139万円の購入補助制度がある。さらに、大気中の熱を利用するヒートポンプ方式の高効率給湯器「エコキュート」や最新の省エネ家電導入で、計1250キログラムの削減が見込める。

 ただ、1世帯あたりのCO2排出量は増えており、25%減達成には、現在よりも約1700キログラムの削減が必要だ。家屋の構造に加え、家計負担を考えれば、一般家庭で25%削減を達成するのは簡単ではない。

<引用終わり>


◆大手メディアの論調はこの最後の新聞記事にある「政府試算」を根拠にしたものがほとんどである。要するに「温室効果ガス25%削減」するにはたいへんな家計負担が避けられないというものである。だから、(仮に国民が負担を受け入れても)25%削減は容易ではない、ということを印象づける情報操作のように感じられる。

国民の大部分がハイブリット車に乗り替え、エコキュートを導入し、太陽光発電住宅に住むようになれば、当然ながら買い換え負担が増える。そんな負担がなければCO2削減がうまくいかないというのなら25%削減は絶望的に困難だというしかない。

しかし、イギリスやドイツなどは、国民負担を増やさずに、むしろ国民負担を減らす方向で温室効果ガス削減を実現している。それはどういう方法なのかは、日本の大手マスコミ(新聞・テレビ)はけっして報道しないし、そういう情報を持っている経産省などの官庁も公表することはない。

政権交代でいままで隠されてきた情報が明るみされるのもそう遠くない。あらたな「政府試算」が大手メディアに発表されるようになると思う。

◆家庭やオフィスから排出される温室効果ガスの大半は電気である。いや、電気製品がCO2を排出するのではなくて、電力消費が増えて、発電量が増えることで、発電で排出される温室効果ガスが増大する。だから、電力消費が少ない家電がエコなのである。要するに、家庭の電力消費の増大が温室効果ガス排出量の増大になっているが、電力供給の一次エネルギーを化石燃料に依存しているから排出量が減らないのである。イギリスやドイツは電力や石油などの化石燃料に直接課税することでCO2排出量の削減を図った。

日本がイギリスやドイツのようにできないのは産業界、とりわけ電力会社に政府(あるいは大手メディア)が配慮しているからだ。そのことが一次エネルギーに再生可能エネルギー(すなわち太陽光発電や風力発電など)を拡大することを妨げてきたのである。

◆温室効果ガス削減の決め手は三点セットにある、というのが、EU諸国では常識になっている。その三点とは、①炭素税(環境税)②固定価格買取制度③排出量取引である。実は、昨年の洞爺湖サミットで当時の福田首相が「排出量取引」を国内でも創設すると言明している。(実際には、企業の自主参加方式だったために取引は進んでいない。EUは、「キャップアンドトレード方式」である)また、経産省は、従来のRPS法(電力会社に一定割合の再生可能エネルギー買取を義務づけるもの)に変わり、太陽光発電拡大を目指す「固定価格買取制度」を年内に実施すると8月はじめに発表している。

 ※キャップアンドトレード方式
 
 キャップアンドトレードは、政府が温室効果ガスの総排出量(総排出枠)を定め、それを個々の主体(企業)に排出枠として配分し、個々の主体間の排出枠の一部の移転(または獲得)を認める制度のこと。
 イギリスでは政府と産業界の議論の末に2002年4月から「キャップ・アンド・トレード」方式に基づく「気候変動税」を導入した。これは政府が決めた各企業の排出削減量(キャップ)に対し、目標を達成できたら税の8割を減免し、さらにあまった分を売る(トレード)ことができるというものである。



<太陽光発電>買い取り年内開始へ、未設置の家庭は負担増に

8月1日19時44分配信 毎日新聞
 家庭で余った太陽光発電による電力を、電力会社が現在の2倍の価格で買い取る新制度が年内に始まる。太陽光発電導入にかかる費用を軽減し、普及を図るのが狙いだが、電力会社が買い取る費用は、すべての利用者に転嫁されるため、太陽光発電設備がない家庭でも、電気料金が月最大100円程度アップする。制度開始までに国民の理解を得ることが課題となりそうだ。【柳原美砂子】

 買い取り制度は、7月1日に成立したエネルギー供給構造高度化法に盛り込まれた。政府は太陽光発電を20年に05年の20倍(2800万キロワット)まで拡大する目標を掲げている。政府は、環境戦略の一環として今年1月に住宅用の補助金制度を復活させており、同制度とともに、太陽光発電の普及を後押しし、温室効果ガス排出削減の中期目標(20年までに05年比15%減)達成につなげる。同時に、すそ野の広い関連産業の生産拡大と雇用創出を狙う。

 電力会社はこれまでも、太陽光発電の余剰電力を、通常の電気価格である1キロワット時当たり24円程度で自主的に買い取ってきた。新制度では買い取りが義務化され、価格も倍の48円に引き上げられる。買い取り期間は10年間。今後、太陽光発電設備の価格が下落すれば、買い取り価格も順次引き下げられるが、10年間は利用者が設置した年の価格で電力会社に買い取ってもらえる仕組みだ。

 経済産業省の試算によると、新築住宅に185万円の太陽光発電設備を設置した場合、現状では国や自治体の補助金を使っても10年では元がとれない。新制度により売電収入が増え、10年で費用が回収できるという。

 ただ、電力会社が買い取る費用はすべての利用者に転嫁される。1年分の費用を翌年度に回すため、電気料金への上乗せは来年4月から始まる。今年は買い取り量が少ないため、来年度の上乗せ額は少額にとどまるとみられるが、11年度からは標準家庭で月約30円増える。太陽光発電が普及し買い取り量が増える5~10年目は月約50~100円増える見通しだ。

 太陽光発電設備を設置できる経済的余裕のある家庭をすべての利用者が支える形となり、低所得者層や産業界からは負担増に対する不満が出ることも予想される。

 制度設計を決める経産省の買い取り制度小委員会では、委員から「電気使用量の多い企業は、家庭とケタ違いの負担になる」「国主導の説明が不可欠」との指摘が相次いだ。経産省は「温暖化対策は全員参加で取り組むことが重要。電気使用量に応じて上乗せが増えるため、省エネに努めれば大きな不公平感は生じない」と理解を求めている。

 一方、民主党は政府の買い取り制度を「不十分」と批判している。総選挙の結果、政権交代が実現すれば、制度が大きく変わる可能性もある。

 民主党はマニフェスト(政権公約)で、温室効果ガス削減の中期目標を「20年までに90年比25%減(05年比30%減)」と明記した。再生可能エネルギーを爆発的に普及させるため、太陽光だけではなく、風力や地熱などすべての再生可能エネルギーの買い取り制度導入を掲げている。買い取り量も、政府が余剰電力に限定しているのに対し、民主党は全量を電力会社に買い取らせる方針だ。電気料金への転嫁額の増加は避けられないが、低所得者層には負担軽減策を講じるという。

 民主党の公約について、二階俊博経産相は7月28日の閣議後会見で「家庭や産業への影響は計り知れない。具体的なプロセスも示しておらず、実現性を見極めてから発表すべきだ」と批判した。衆院選で争点の一つになりそうだ。


<引用おわり>

三点セットの残りひとつ①炭素税(環境税)については、日本政府も環境省が検討してきた。しかし、産業界の激しい反対で実現されずにきたのである。
さっそく、鳩山内閣の小沢環境相から環境税について発言があった。


「環境税」4年以内に導入 小沢環境相が明言
(asahi.com 2009.9.17)

 小沢鋭仁環境相は17日未明の就任会見で、二酸化炭素(CO2)の排出量などに応じて課税する「地球温暖化対策税」を4年以内に導入する方針を明らかにした。「(地球温暖化対策税導入は)マニフェストで、総選挙で掲げた。そういう思いでやっていきたい」と語った。

 税率については「今後の課題」と明確にしなかった。導入の手順としては、ガソリン税などの暫定税率廃止後に新たに温暖化対策税を創設する方法と、暫定税率を温暖化対策税に「衣替え」する考え方が民主党内にあり、「(方針を党内で)詰め切れていない」ことを明らかにした。

 暫定税率について、藤井裕久財務相は10年度に廃止する方針を明言しており、衣替えをする考え方をとれば、早ければ10年度にも温暖化対策税を導入する可能性がある。

 暫定税率廃止は「CO2の排出にはプラスになる」と認めたうえで、「総合的な対応でまかなっていきたい」と述べ、暫定税率廃止で排出量が増える分を、税制全体を見直して排出量を削減へ向かわせる必要性を示した。

 また、国内排出量取引制度については、民主党が先の通常国会に提出した地球温暖化対策基本法案に「2011年度導入」と明記したことから、「11年度の導入にこだわっていきたい」と語った。


<引用終わり>


この記事からは、廃止されるガソリンにかかる「暫定税率」を「温暖化対策税」として衣替えしようとする話があるということだ。ただしEU諸国の環境税はガソリンのみならず、おもに電力会社(の化石燃料によるCO2排出量)に課税される点で、そのことに言及がない。
民主党はドイツなどの環境政策を基本としているはずだから、当然電力課税への言及があっていいし、国内排出量取引についても「キャップアンドトレード方式」を採用するかどうか言及があっていい。マスコミがネグレクトしているのかわからないが、温暖化対策三点セットをどのように実施するのか明らかにすべきだろう。

一方、日本の新政権が新たな削減目標を提示したことをEU諸国は歓迎している。

■EU、民主の「温室ガス25%削減」絶賛
9月13日21時5分配信 読売新聞

 【ブリュッセル=尾関航也】日本で新政権を担う民主党が掲げる温室効果ガス排出削減目標が、欧州連合(EU)で「絶賛」を浴びている。

 排出削減をめぐる国際交渉で、最も急進的な目標を唱えてきたEUの立場を後押しする効果が期待されるためだ。

 日本の産業界が目標に反対して新政権への働きかけを強めることも予測し、最大限の賛辞を送って、新政権の退路をふさぐ狙いもありそうだ。

 民主党の鳩山代表が「2020年までに1990年比で25%の排出量削減を目指す」と表明した7日、デンマークのヘデゴー気候変動・エネルギー相は「日本は勇気ある一歩を踏み出し、指導力を示した」との声明を発表した。

 デンマークは、12月にコペンハーゲンで開かれる気候変動枠組み条約締約国会議の議長国。京都議定書の効力が切れる13年以降の国際的な排出削減の枠組みを定める「コペンハーゲン議定書」の取りまとめを目指している。

 EU議長国スウェーデンのカールグレン環境相も日本の総選挙後、民主党の公約について「欧州の野心的目標に非常に近い」と称賛。「米国にも大胆な削減を期待したい」と語った。


【追加】

■鳩山首相、温室ガス25%削減目標を国際公約として明言
9月23日3時37分配信 ロイター

[国連 22日 ロイター] 鳩山由紀夫首相は22日、国連気候変動サミットで演説し、温室効果ガスの排出量を2020年までに1990年比で25%削減すると明言した。
 「世界のすべての主要国による、公平かつ実効性のある国際枠組みの構築が不可欠」と述べ、主要国による目標の合意が前提との考えを示した。
 さらに途上国も「温室効果ガスの削減に努める必要がある」とした上で、途上国向け支援に関する原則として「鳩山イニシアチブ」を提唱した。
 先進国が「相当の新規で追加的な官民の資金」で貢献すべきとしたほか、排出削減の検証可能なルールづくりを提案した。また、技術移転を促進するために、知的所有権の保護と両立する枠組みが必要と指摘した。
(引用終わり)




(問 1)「温暖化対策の三点セット」といわれる環境政策の特徴をまとめなさい。また、なぜ、その政策が温室効果ガス削減に有効なのか説明しなさい。

(問 2)「25%削減」で家計負担が大幅に増えるという記事が、情報操作と思えるのはなぜか?

(問 3)政府が8月に発表した「固定価格買取制度」と民主党が主張する制度とのちがいをまとめなさい。

(問 4)民主党の他の政策(暫定税率廃止・高速道路無料化)と温暖化対策が一致していないのではないかという人がいる。それについてどう考えるか?