時々刻々現社的学習2009

「現代社会」の授業用ブログ

雇用情勢と派遣労働者問題

2009-10-14 14:16:38 | 日記
 昨年末、不況の影響で派遣切りに会い、住居をなくした派遣労働者の困窮が問題となったが、その時点から、雇用情勢に何か変化はあったのだろうか。たとえば、失業率の増加、有効求人倍率の悪化はもう知られるところであるけれど、昨年末のような「派遣労働者」の困窮問題はどうにかなったのだろうか。

 こうした派遣労働者の困窮をなくすには「労働者派遣法」の抜本的な改正が必要なのだろうが、一方で、いまの雇用情勢では「派遣法改正」はかえって労働者の失業を増やしてしまうばかりだという主張も聞こえる。実態はどうなのかを考えてみたい。


■派遣制度見直しを諮問=製造業禁止が焦点-長妻厚労相

 長妻昭厚生労働相は7日午前、労働者派遣制度のあり方に関し、労働政策審議会に諮問した。民主党は衆院選マニフェスト(政権公約)で製造業派遣の原則禁止や派遣社員と正社員の均等待遇原則の確立などを明記し、与党3党合意は労働者派遣法の抜本的見直しと「派遣労働者保護法」への改称を求めている。今後、これらを中心に議論することになる。
 長妻厚労相は来年の通常国会への同法改正案提出を目指す意向で、審議会は年内をめどに結論を出したい考え。同相は「雇用情勢は急激に悪化し、派遣切りが多く発生し社会問題化するなど、派遣労働者をめぐる雇用環境に大きな変化が生じた」と指摘しているが、労使代表の見解は大きく隔たり、審議の難航が予想される。(2009/10/07-12:59 時事通信記事から)


■派遣法見直し、審議始まる 使用者側、規制強化に猛反発
(2009年10月8日20時0分 アサヒ・コム記事から)

 労働者派遣法の抜本改正に向けた労使の議論が7日、厚生労働省の審議会で始まった。鳩山政権は、仕事がある時だけ雇用契約を結ぶ「登録型派遣」や製造業への派遣を原則禁止し、安定雇用への転換を目指す。厚労省は年内にも労使の合意を得たい考えだが、規制の強化に使用者側の反発は強い。

 派遣法の見直しでは、民主、社民、国民新党が9月9日、法律名を「派遣労働者保護法」に改めるとともに、日雇い派遣や登録型派遣、製造業派遣を原則として禁止することで合意し、連立政権の政策合意に盛り込んだ。厚労省の集計では、昨年10月から今年12月までに失職する非正社員23万9千人のうち、約6割にあたる14万2千人が派遣社員。不安定な働き方への批判の強まりを受け、3党は大幅な規制の強化を打ち出した。

 7日の審議会で、長妻昭厚労相は「派遣切りが多く発生し、社会問題化するなど雇用環境に大きな変化が生じた」と指摘し、派遣労働者の雇用の安定のために必要な事項の検討を求めた。今後は3党の合意内容を踏まえて議論が進む見通しだ。

<中 略>

 ただ、労使の隔たりは大きい。労使は昨年9月、派遣法の改正は日雇い派遣の原則禁止にとどめ、登録型派遣の規制などは引き続き議論することで合意した経緯がある。麻生政権は昨年11月、日雇い派遣禁止を柱とする改正案を国会に提出したが、衆議院の解散で今年7月に廃案になった。雇用情勢の変化や政権交代があったとはいえ、使用者側には一足飛びに「禁止」に踏み込むこと自体に異論がある。
企業経営への影響を懸念する声も強い。この日の審議で、使用者側からは「コスト増で国際競争力が失われれば、製造拠点の海外移転に拍車がかかる」「地方の製造業は自前での人集めが難しい。製造派遣が禁止されると人を雇えなくなる」といった意見が相次いだ。

(引用終わり)


<コメント>

「製造業への労働者派遣」が禁止されると国内の製造メーカーの経営が立ちゆかなくなり、製造拠点を海外に移転せざるえなくなり、結果的に国内での雇用機会が縮小し、労働者の首を絞めることになる、という説明はよく聞かされる。しかし、だからといって「労働者派遣」のような非正規雇用の形態をこれからも続けていっていいという理由にはならないだろう。使用者側・企業側の論理を正当化してしまうと、労働者は企業が生き残るための手段だということになってしまう。

派遣労働を禁止にすれば、いま派遣で働いている労働者は失業し路頭に迷うし、企業はグローバル時代に適応できなくなるから、海外につぎつぎと移転することになる。だから「労働者派遣」は必要だという理屈はどこか本末が転倒していないだろうか。



NHKスペシャル「セーフティネット・クライシスⅡ」

NHKスペシャル「セーフティネット・クライシスⅢ」





■8月の失業率、5.5% 7カ月ぶり低下、求人倍率最悪続く

 総務省が2日発表した8月の完全失業率(季節調整値)は5.5%と過去最悪だった前月に比べ、0.2ポイント低下した。失業率の低下は7カ月ぶり。昨秋のリーマン・ショック以降の急激な雇用悪化にひとまず、歯止めがかかった格好だが、失業率の水準はなお過去最悪圏にある。厚生労働省が同日発表した8月の有効求人倍率(同)も0.42倍と前月と変わらず、2カ月連続で過去最低を記録、企業は採用に消極的だ。雇用の先行きには、なお慎重な見方が多い。

 完全失業率は15歳以上の働く意欲のある人のうち、職に就いていない人の割合。男女別にみると、男性は5.8%、女性は5.0%だった。

 就業者数は6296万人で、前年同月に比べ109万人減った。完全失業者数は361万人と同89万人増えた。ただ前月との比較では就業者の減少幅、失業者の増加幅がともに縮小。特に医療、福祉分野の就業者が前年同月比40万人増えたことなどが影響し失業率改善につながった。一方、製造業は112万人減と大幅なマイナスが続いており、足元の雇用環境は業種別にばらつきがみられる。

 過去最低が続く有効求人倍率は公共職業安定所(ハローワーク)で職を探している人1人当たりに何件の求人があるかを示す。8月は有効求人数が前月比0.2%増と15カ月ぶりに増加に転じたものの、職を探している有効求職者が同1.3%増加。景気の先行指標といわれる新規求人数は同1.1%減っており、人員の余剰解消にはなお時間がかかりそうだ。

[10月2日/日本経済新聞 夕刊]



■8月の景気一致指数、5ヵ月連続上昇 先行指数は伸び鈍化

 内閣府が7日発表した8月の景気動向指数(2005年=100)によると、景気の現状を示す一致指数は91.4となり、前月比1.6ポイント上昇した。5カ月連続の改善で、03年10月以来の大幅な伸びを記録した。生産や出荷の改善が景気の持ち直しを支えている。ただ数カ月先の景気動向を示す先行指数の伸びが前月より縮小し、日本経済の先行きに不安を残した。


 内閣府は景気の基調判断を据え置き、4カ月連続で「下げ止まりを示している」と指摘した。一致指数は判断の変更が必要な水準に近づいており、8月の改定値か9月の速報値で上方修正する可能性が出てきた。


 一致指数の内訳をみると、鉱工業生産指数が1.8%上昇、設備投資の動向を示す投資財出荷指数(輸送機械を除く)が41%上昇となった。小売業や卸売業の販売額も改善した。

 単月のぶれを除いた2月から8月までの7カ月間の移動平均値は0.49ポイント上昇し、18カ月ぶりに改善した。だが8月の一致指数の水準は、金融危機が深刻化する前の昨年8月の9割程度にとどまる。


 先行指数は83.3となり、0.8ポイント上昇した。6カ月連続で改善したものの、前月の1.6ポイントより伸びが縮小した。最終需要財の在庫率や消費者心理が改善し、雇用の先行指標である新規求人数が悪化した。中小企業の売り上げ見通しDIはマイナスに転じた。

<中略>

 景気の現状に数カ月遅れて動く遅行指数は83.8で、1.0ポイント改善した。遅行指数の改善は18カ月ぶり。8月の完全失業率が5.5%と7カ月ぶりに低下した影響が大きい。ただ企業の収益環境はなお厳しく、失業率の低下は一時的との見方も出ている。


 遅行指数のほかの構成指標をみても、個人消費などは改善したが、法人税収は悪化した。6月から8月までの3カ月間の移動平均値、2月から8月までの7カ月間の移動平均値も低下しており、遅行指数の上昇が続くかどうか予断を許さない。


[10月8日/日本経済新聞 朝刊]


<コメント>

 戦後最悪を記録した7月の完全失業率(5.7%)は、8月に入って2ポイント改善し、景気動向指数も上向きを示している。ここへ来て、どうにか景気は持ち直しつつあるようにも見えるが、有効求人倍率は0.42倍と2ヶ月連続で過去最低を記録している。つまり景気の状態は下げ止まりを示しているが、それが雇用や新規採用の求人増にまで波及していないということである。
 その理由を考えてみると、就業者の内訳で、製造業の就業者が大幅に減っていること、一方で医療・福祉の分野の就業者が前年同月比で約40万人増加している。つまり、製造業での生産や受注が改善し始めても、製造現場での人員過剰感はまだぬぐい去られていない状態ということであろう。反対に、医療・介護福祉分野の人手不足が続いていてこの分野へ求職者が流れていることを示している。
 したがってここで考えなければいけないのは、景気動向に左右される製造業の求人が改善するのを待つのか、それとも景気に左右されない医療・介護などの分野への就業転換を図るかということになるのではないか。いまの求人情勢では、「製造業派遣」の原則禁止を打ち出しても大きな影響はないかもしれない。むしろ製造業派遣の禁止が他の分野への就業転換を促す契機になるかもしれない。


(設問1)派遣労働者の問題がなぜ「格差」や「貧困」の問題に関係しているのか。

(設問2)「格差」や「貧困」などの生活問題以外にどのような問題が派生的に関係していると考えるか。

(設問3)「労働者派遣法」の改正で「日雇い派遣」や「登録型派遣」を禁止するとどのような問題があると考えるか。

(設問4)「労働者派遣」について、どのような法律改正が望ましいと考えるか。