崩壊の3つまたは4つの段階1-1 黒船について

2005年08月20日 | 歴史教育

さて、授業を続けましょう。

 「1853年という年は、何があった年か記憶していますか?」と学生諸君に聞いて、すぐに答えが返ってきたことは、これまで一度もなかったように思います。

 後で聞いてみて、入試に日本史を選んだという学生でもそうでしたから、いかにこの年号の意味が理解されていないか、よくわかります。

 そういっている私も、意味がわかるまでは、こんな年号――丸暗記が大の苦手でそもそも年号というものそのものが――覚えられなかったんですけどね。意味がわかったら、一度で覚えました。

 恋人の誕生日を忘れたりはしませんよね? 意味のある数字なら、忘れないものです。

 ウェッブ上学生のみなさんは、いかがですか? 日本――そして現代の日本人である私たちにとって、1853年という年は決定的に重要な年なのですが。

 ご存知だったみなさん、そのとおりです。ペリー提督率いる黒船が浦賀にやってきた年です。

 黒船は、いうまでもありませんが日本見物に来た観光船ではありません。貿易に来た商船でさえありません。れっきとした軍艦です(アメリカ東インド艦隊)。

 当時の日本側が持っていた大砲など及びもつかないほどの破壊力を持った大砲を積んだ、アメリカの圧倒的な軍事力を象徴する船だったのです。

 このペリー-黒船(――圧倒的な軍事力を背景にした圧力――によって、日本は無理やりに「開国」させられました。

 ここで、押さえておかなければならないのは、日本は好んで開国-文明開化を行なったわけではなく、アメリカ-黒船によって無理やりに開国させられたということです。

それは、結果として開国-文明開化がよかったか悪かったかという問題とは別のことです。

 私たちは(少なくとも私は)、戦後の歴史教育を受けたため、江戸時代はひたすら封建的で、閉鎖的で、西洋文明からは遅れていて、身分差別が激しくて、農民は貧しくて……というイメージを持たされてきましたが、今、価値観の物差しを換えてみると、江戸時代は実は人類史でも珍しい大きな達成をした時代だといえる面も持っています。

 (もうこのあたりで、「右翼的だ」とか「自由主義史観か」いった反応をぜひしないでいただけるとうれしいのですが。)

 つまり、第一に、江戸時代の日本はほとんど三〇〇年近く、原則的には、他国を侵略せず、また侵略されない、平和な独立国家を維持したのです。これは、世界史的に見て驚くべきことです。

 何しろ西洋世界は、15世紀末から始まった「大航海時代」以来、最近まで、アジア・アフリカ・アメリカ世界に対して、ひたすら「植民地化」、すなわち侵略行為をずっと続けてきていたのですから。

 そして、もちろん一揆などもあり、天草の乱などの内乱もありましたが、 日本は全体としては非常に安定した平穏な社会だったようです。

 国の内外での、「持続する平和の実現」という物差しで見ると、これは大変な達成というほかありません。

 (もちろんアイヌや琉球の人々に対する行為が侵略でなかったなどといいたいのではありません。しかし西洋世界の徹底的に意図的、計画的、持続的な植民地化政策とは質も量もまったくちがっていると思います。だから、「原則的には」と但し書きをつけたのです。)

 スペインがフィリピンを植民地化し、さらに日本に手を伸ばそうとしていた頃、その危険を察して、日本は(豊臣から徳川にかけて)、「鎖国」の方向に向かいました(「鎖国令」は1635年、実際の最終的鎖国は1639年)。

 黒船の時点とちがって、この時点ではスペインやポルトガルなどと日本には軍事力の圧倒的な差はついておらず、したがって日本の意志による「鎖国」は可能であり、それは植民地化への正当かつ有効な自己防衛の策でありえた、と考えられるのではないでしょうか。<

「鎖国したおかげで日本は遅れた」と教わってきましたが、「鎖国したおかげで植民地化されなかった」という面については、まったく聞かされた覚えが私にはありません。

しかし、江戸の鎖国も明治の開国も、考えてみれば、欧米の植民地化政策への対抗・防衛措置だったのですね。

 黒船-開国-文明開化によって、日本も「侵略せず侵略されない国」から、近世・近代の欧米諸国並みに植民地化政策を採用する=「侵略する国」へと、「富国強兵」、「欧米列強に伍す」、「追いつき追い越せ」と、「国のかたち」(司馬遼太郎のことば)を変容-発展させざるをえなくなったのです。

 そして、国のかたちが変われば、心のかたち=精神性も変容せざるをえなくなったわけです。
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