三性3:ばらばらからつながりを見る

2006年02月08日 | 心の教育

 ふつうの人はたいてい大人になると、「私は私だ」と思うようになります。

 さらに、「私は私で生きている」と思ったり、「私の人生は私のものだ」とか、もっと進んで「私はだれの世話にもなっていない」とか「どうしようと私の勝手だろう」という考えを持ったりします。

 こういう考え方はあまりにもありふれているのでおかしいとは思われないことが多いのですが、よく考えてみるととてもおかしい考え方です。

 そもそも私は、私でない人たちつまり親によって産んでもらわなければ私になることができませんでした。

 私は、私でない人によって私にしてもらったのです。

 ですから、「私は私だ」としか思えないのは、そういう人生の出発点・原点を忘れたおかしな考え方だというほかありません。

 私たちは赤ちゃんの時は全面的に人の世話になって生きていたわけで、「だれの世話にもなっていない」といえるような人は、おそらく世界に1人もいないでしょう。

 もちろん、大人になった時点で人にあまり余計な世話をかけてはいないという人は多いわけですし、そうでないと困ります。

 しかし、毎日に暮らすために必要な食べ物を全部自分で作っているという人は少ないでしょうし、家を自分で建てた人も多くはないでしょう。

 日常に使っている生活用品を全部自分で作っているという人は、少なくとも文明社会には1人もいないのではないでしょうか。

 もちろんそういうものを手に入れるに際してちゃんと代価を払っているという意味でなら、「世話になっていない」といえないこともありません。

 しかし、たとえ代価を払っていても他の人の手を借りていることはまちがありません。

 そういう意味でいえば、実にたくさんの人の世話になっているのです。

 ただ人間だけではなくて、食べ物になってくれる植物や動物、それらを育む大地、育むために不可欠な水や空気、生命エネルギーのすべてを供給している太陽、そして太陽を含んだ銀河、そして無数の銀河を含んだ全宇宙すべてのおかげで、私が私であることができるのです。

 さらにそういう自分やそれ自体によって存在するのではなく、他に依って存在することができるというのは、全宇宙を別にすれば宇宙の中のすべてにいえることです。

 ゴータマ・ブッダの用語でいえば「縁起」というのは、全宇宙を貫く法則・真理なのです。

 唯識は、その縁起を見るものの見方を「依他性」と呼んでいます。

 分別的なものの見方にどっぷりとつかった私たちふつうの人間も、縁起の世界をまるで見ないわけではありません。

 いくら、「私は私だ」と思っていても、他のもの(者・物)との関係なしに生きていると思っている人は、心の病気の人を除けば、いません。

 しかし他のものとの関係を考える時、私たちは自分との関係で考えることがほとんどです。

 「私にとっていい人」とか「私が嫌いな人」とか「私に関係のない人」、「私の好きなもの」とか「私の嫌いなもの」とか「私の関心のないもの」というかたちです。

 他と分離して存在していると錯覚された「私」を中心にして、そこから他の人や物を見るのです。

 こういうものの見方を唯識の言葉で整理すると、「分別性から依他性」ということになります。

 前回、「分別性こそ無明の正体なのです」といいましたが、より正確にいうと、「分別性の見方でしか依他性の世界を見ることができないことが無明の正体だ」ということができるでしょう。

 やさしく言い換えると、ばらばらのものの見方からつながり・かかわりの世界を見るのがすべての間違いの始まりだ、ということですね。


 ここからは、伝統的な唯識学でいわれていることではないのですが、私のコメントとしていえば、「分別性から依他性」はすべて無明だといっても、分別性と依他性のどちらに重点が置かれているかによって、覚りの世界に近いか遠いかの違いはあります。

 覚っていなくても、いつも自分を中心にしてしか人や物との関係を考えられない人よりも、まず他の人や物とのかかわり・つながりを考えることのできる人のほうが、人間としてよりよいといえるでしょう。

 たとえ縁起や無我や空を覚っていなくても、他の人や物とのご縁をとても大切にするやさしい人が「仏さまみたい」といわれるのは、当然だと思います。

 私たちは、覚った人=仏にはなれなくても、少しでも「仏さまみたい」なところのある人間に成長できるといいですね。

 四つの大きな願いの④「ほんとに最高にいい人になれるといいよね」という気持ちで、できるだけの努力をしていきましょう。


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コメント (6)
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