興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学者黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

受け入れる事とあきらめる事の違いについて

2020-02-14 | プチ臨床心理学
心理療法をしていると時々出てくる話題に、今回の表題である「受け入れる事とあきらめる事の違い」があります。

この2つの言葉は人によってはしばしば互換的に使われますし、実際この2語は密接に関わり合っているのでハッキリと切り離す事は難しいのですが、「心の回復」、「精神面の成長」といった観点において、じっくりと考えてみる事は有効です。

受け入れと諦めについて考える時にしばしば思い出すのは、私がLAにいた頃にあるアメリカ人夫婦とカップルセラピーをしていた時の事です。エクササイズで、それぞれに、「2人の夫婦関係において何が大きな問題になっている?」という質問で、その男性が、”She’s given up on me!”と言いましたが、その時の彼から伝わってくる怒りや悲しみや不安感は痛ましいものでした。

“She’s given up on me.” 

彼女は僕のことを諦めているんだ。
彼女は僕に愛想を尽かしているんだ。

これは確かにあらゆる夫婦やパートナーシップにおいて決定的な問題です。

一方で、”She accepted me.”(彼女は僕を受け入れてくれたんだ)は、上記とは正反対の印象を受けます。

彼女は僕の事を諦めているんだ。

彼女は僕の事を受け入れてくれたんだ。

興味深いものです。日本語の「受け入れると諦める」はどちらかというと重複しているところが大きいですが、英語だとなんだか正反対の響きです。

前者はカップルセラピストとしてもこのカップルの関係性の改善や修復に相当な困難や苦戦が待っている事を約束するもので、放って置いたら時間の問題でこの2人は高確率で離婚します。日本ならば家庭内別居かもしれませんが、いずれにしても関係性は破綻するでしょう。いや、既に破綻しているかもしれません。希望が見出しにくい印象です。

一方で後者には全体的な希望が感じられます。ここでは、この女性は、夫のいろいろな欠点や不完全性を認識しつつも彼を全体的に肯定して、これからも2人でやっていこう、というイメージがあります。ここまで心の整理がついているかは別として、カップルセラピストとしても2人の関係の修復において楽観的になれますし、安心してじっくりとこのカップルに関わってゆけます。

受け入れる事と諦める事の共通点は、その人が希求している何かがその人のある一定以上の努力にも関わらず手に入らない状況です。

それは家や車や楽器などの高額のモノかもしれないし、犬や猫やカワウソやハリネズミなどのペットかもしれないし、特定の学校の入学や憧れの会社の入社かもしれないし、誰かとの恋愛関係や婚姻関係かもしれませんし、その相手との間で失われた心の繋がりや絆かもしれませんし、保育士や弁護士や医師免許などの資格かもしれないし、スポーツや音楽、芸術やゲームなどの特定の分野で生計を立てていけるレベルのスキルかもしれませんし、NTTの歴代の公衆電話のミニチュアのガチャポンかもしれませんし、リアルなダンゴムシのギャチャポンかもしれませんし、枚挙に暇がありません。それほどに我々人間の営みは多様であり多岐に渡るという事でしょう。

いずれにしても、その「どうにも手に入らない何か」について、その人がどう対処するか、どのように捉えるかが大きなポイントのように思います。

とても平たく言うと、「諦める」場合はその何かに対して、依然として残念な気持ち、悔しさ、悲しみ、失意などが強く残っていて、心の整理ができておらずにその人の中では未解決な問題であるのに対し、「受け入れる」場合は、その人の中で相当に心の折り合いがついている状態と言えそうです。

また、人が何かを受け入れるためには、そのプロセスとしてまず諦める事を経験しているようにも思います。イメージとしては、諦めの向こうに受け入れがあるようです。

繰り返しますが、この2語は日本語においては互換的に使われる事がしばしばあり、「諦める」という言葉を使うけれど受け入れている人はたくさんいます。

というのも、諦めるという心的プロセスをきちんと行って完了できた人はそれを受け入れているわけで、このように考えると、受け入れるとはある意味「諦めの仕事」を完了する事かもしれません。

こうした諦めや受け入れの心的プロセスに必然的に伴うのはある種の喪失体験であり、喪失体験に多かれ少なかれ伴うのは「悲哀の仕事」(Grief work)です。

何だかすごく長くなりそうなので、とりあえずこのエントリーはここで区切りますね。次号に続きます。



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