先週、息子が小学校に入学した。
電車通学なので、慣らし的に、今の時期は親が途中まで同行し、下校時も、途中の駅で待ち合わせることになっている。
息子にはGPSを持たせるようにしていて、このGPSは、音声による通信ができる。結構な速さで通信ができるので、通話はできないけれど、それに準じるやり取りができる。
昨日私は定休日で一日予定がなかったので、近くの大きな駅周辺で適当に時間を過ごし、彼が乗ることになっている電車にこっそりと途中から乗り込んでサプライズしようとした。K駅のプラットホームで待ち合わせることになっていたが、彼がその電車にちゃんと乗ったことをGPSのやり取りで把握してから、こっそりと、その直前のO駅で電車に乗った。
すると遠くに黄色いカバーの掛かったランドセルを背負った息子が見えた。(ひとりで電車に乗っている息子を見た時はなかなかの衝撃で、後ほど妻に話したら、やはり彼女も先日大きな衝撃を受けたと言っていた)
息子もすぐにこちらに気づいて、私が近づいていくと、座席から立ち上がり、「パパ!?」とつぶやき、満面の笑みを浮かべる。その向かいに座っていた外国人観光客風のふたりの女性がそれを見て微笑んでいた。
立ち上がった息子と普段通りにいろいろ話していたら、彼は急にこちらに向き直り、人差し指を向けて、
「だれ!?」
と聞いてきた。ふざけているのだと思い、
「誰って、そんなのパパに決まっているじゃん」
と、笑って答えたものの、彼も笑いつつ、ちょっとまじめな雰囲気になり、
「だれ? さつじんはん?」
というので、
「殺人犯なわけないじゃん。どうみてもパパでしょ?」
というと、彼は少し考えてから、
「けいたいでんわ みせて!」
というので、いいよと手渡した。「いつもパパが使っているスマホでしょ?」と言ってみたけれど、彼は、
「まだわからない」
と、きっぱりと答えた。
彼は私からスマートフォンを受け取り、なぜかいつものように「パスワードかいじょして」とか「がめんをみて」とか言うことなく、おもむろに、幾つかの通知を指でスクロールして念入りに確かめてから、
「パパだ!」
と、安心したようにスマートフォンを返してきた。そもそも待ち受け画面が彼の写真だったので、スマートフォンを渡した時点でちょっと警戒心が解けたようには見えたけれど。恐らく彼は、1)いつもパパが使っているスマートフォン、2)待ち受け画面の写真が自分、3)通知がどれもいつも見覚えのあるものばかり、という3段階の認証で、目の前の男が本物のパパだと確信したのだろう。
夜、ふたりで何か話していて、ふいにこの時のことを思い出したので、「本当にパパじゃないと思ったの?」と聞いてみたら、
「パパだとはおもったけど、いちおうね。とちゅうで、かくにんしないと、ってきづいたの」
というので、
「なるほど、それは良い心掛けだね!」
と言ったら、そうでしょうと、彼は笑っていた。
