興味津々心理学

アメリカ発の臨床心理学者黒川隆徳によるあなたの日常の心理学。三度の飯よりサイコセラピーが好き。

夫婦喧嘩と退行 (Marital conflict and regression)

2020-01-10 | プチ精神分析学/精神力動学

皆さん、こんにちは。

気づいたら令和2年も10日が過ぎていて、既に多くのクライアントさんとセッションを再開しています。

この時期、毎年いろいろな方がセッションで話題にされるテーマとして、クリスマスや年末年始中に起きたパートナーとの比較的大きな喧嘩です。

これは日本に限らず、私がLAでアメリカ人のクライアントさん達と会っている時も実によく出てくるテーマでした。

どうして楽しいはずのクリスマスや年末年始に喧嘩など起こるのか不思議に思われる方もおられるかもしれませんが、実際、こうした長期休暇は、うまくいけば特別に楽しいひと時である反面、争いが起きやすい要素も少なからずあり、むしろカップルや家族にとっては、要注意の時期でもあります。

たとえば、それぞれのメンバーの期待値は概していつもより高いですし、普段よりもずっと一緒に居る時間も長く、交わりも日常より深いので、それだけこころの距離も近くなります。

それから、非日常の慣れない場所で慣れない事をするのに伴う不安などで、お休みですが、実はいつもより心に余裕がなくなっているかもしれません。

普段忙しくてなかなか出来なかった事もこの時期にいろいろやるので、知らずのうちにメンタルリソースを消費しているかもしれません。

実家や親戚との対応もまた然りです。

こういうわけで、潜在的な問題はありつつも、普段はそれぞれが仕事や家事、育児などで忙しく、また、一緒に居られる時間は短く、交流レベルも表層的であるため、常に一定以上の距離が保たれていていてぶつかり合うことのなかったカップルも、こうした時期には思いがけない衝突を経験したりします。

ですから、「こういう特別な時期に仲良くできない私たちって」、などとあまり落ち込まないことです。

むしろこういう時だからこそぶつかりやすいということもあります。

喧嘩には、大きく分けると、建設的な喧嘩と破壊的な喧嘩があります。

大抵の喧嘩はこの両方の要素が混じり合っていますが、通常どちらかの要素が優勢です。

喧嘩の後でしばらく時間が経って振り返ってみて、あれは良い、必要な喧嘩だった、と思うものもあれば、関係に大きなダメージを与えてしまった、と思うものもあるでしょう。

例によって前置きがだいぶ長くなりましたが、今回のメインテーマは、夫婦や恋人同士の破壊的な喧嘩です。

ふたりの関係にとって有害な喧嘩は、一度始まってしまうとなかなか止められませんが、いくつかのまずい喧嘩のサインを頭の片隅に入れておくと、初期段階で互いにその否定的なやり取りを中断してダメージを最小限に防ぐこともあるいは可能です。

こうした喧嘩の特徴として、両者が退行(Regression)しているという点があります。

退行とは、(無意識的に起きる)こころの防衛機制のひとつで、耐え難い状況に直面した時に、その人の普段の精神状態からいくつか前の精神発達段階まで一時的に退くことを意味します。長子だった子が、きぃうだいが生まれてまもなく「幼児返り」を起こす時の退行は、イメージとして分かりやすいですね。大人の退行は、通常もっと微妙で分かりにくいものです。

それでも精神発達段階が普段より幼くなってしまっているので、なかなか相手を思いやったり冷静になって建設的な会話をすることができません。

こうした時のふたりの特徴として、極端な発言が目立つことが精神分析家のなかでは知られています。

それはいくつかの術語に現れるもので、「絶対に」とか「二度と」とか「いつも」とか「一度も」といったものです。

たとえば、「もう絶対に行かない!」、「絶対に許さない!」、「もう二度と協力しない!」、「いつもゲームばかりやって」、「いつも優柔不断で」、「一度も手伝ってくれないよね!?」、「一度も良かったことがない」、などです。

それから、「もう別れよう」、「離婚しよう」、「もう無理」、などの極端は発言も見られます。

こうした時、退行が起きていると言いましたが、同時に、分離(Splitting)という防衛機制も働いています。

分離とは、ひとつの対象や事物の良い面と悪い面を分離して、良い面を意識から切り離して、悪い面を肥大化させるもので、その時の相手は「最低な人」であり、事物は「最悪」です。

頭では、そんなことはない、相手にもこういう良い面はある、と分かっていても、情緒レベルでそう感じることはできません。

耐え難い怒りを感じることもあれば、その時はもう修復不能と思えるくらいに気持ちが冷め切ってしまうこともあります。

ただ、こうした状態は、通常長くは続きません。時間の問題で、分離も退行も解けていきます。

相手の良い面も再び情緒レベルで認識できるようになります。

防衛機制は通常、無意識レベルで起きているので、自分ではなかなか気づけません。

しかし、相手にその機制が起きていることは比較的気づきやすいので、お互いに仲の良い時、比較的調子の良い時に、こうしたことについて話し合って知識として共有しておくと有効かもしれません。

お互いが退行していたり、分離しているときに、お互い気づきやすく、その破壊的なやり取りを休止することも可能になります。

こういう時は、やり取りを続けても有害無益なことが多いので、とりあえず休止して、一時的にお互い物理的な距離を置いて(外に出て散歩をしたり、音楽を聴いたり)、お互いに落ち着いてから、話し合いを再開しましょう。話し合うのにも良いタイミングと悪いタイミングがあります。

いずれにしても、遅かれ早かれ落ち着いて話し合うことが大切です。


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