sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

「楽器たちの図書館」

2018-08-10 | 本とか
これは短編集ですが、それぞれの話は面白いんだけど文体に馴染めなくて
韓国という日本に近い国の話なのに会話とかが翻訳調すぎる感じで違和感が。
それで、読んでた途中で半年以上ほったらかしてたんだけど、
やっと読み終わって、最後の話の後味が良くて、ほっとしました。
改めて考えてみると、翻訳はともかく、小説は悪くない気がしてきた。

「楽器たちの図書館」というタイトルにまず惹かれたのですが、
この本、楽器や音楽にまつわる短編を集めた本ではあるんだけど、
表紙のイラストを見て想像してたのとはちょっと違ったかな。
わたしにとって楽器と言えば、電気を通さないアコースティックな、
クラシカルなイメージがまず浮かぶんだけど
これはもっと今風というか、現代的な韓国や日本の若者の視点での、
楽器だけでなくDJや歌や音のリミックスなども含む
広い意味での音楽に関する短編の本だった。

マニュアル専門誌の話とか、無声映画と音痴と人気グループのライブの話とか、
どれも着想がおもしろく、どこか切ない話が多いけど、暗くはないです。
本当にマニュアル専門誌というものがあれば、見てみたいし。
そういうの作る人はなんとなく想像できる。オタクと呼ばれる人たちかな。
そういう人たちの話が多いです。

表題作は、楽器の図書館というより、膨大な楽器の音の図書館みたいな話。
でもそういうアイデアだけじゃなく主人公の人生や心の問題も描かれている作品で、
どの短編もそういうところがありますね。

一番好きというか印象に残った話は、唯一ほとんど音楽に関係ない話でした。
お母さんが消えていなくなってしまう「無方向バス」という話で、
怖いような寂しいような宙ぶらりんなような感じが、好き。
自分がおかあさんだったからかもしれない。
息子の視点で書かれているけど、お母さんの気持ちにもなってしまう。
「無方向バス」という言葉の響きも、なんともさびしくて、いいな。
バスって、どこへも行かない、って感じがよく似合う。

解説を読んで、この「無方向バス」には政治的な意味もあると知りました。
この短編の副題は〈リミックス「美しかったペンドク」〉となっていて、
それは朝鮮戦争後、南北分断による離散家族を描いた小説だそうです。
その作者は夭折しているのだけど、解説にはこう書かれている。
>離散家族の悲劇を引き起こした政治の不条理性は、
>「無方向バス」では曖昧に描かれた父親の暴力性に該当しよう。

なるほど。

あ、一句浮かんだ!

ゆく夏やどこへも行かないバスに乗る