緑陰の小屋

主に、恋愛ゲームの二次創作をゆったりと書いています。

零の軌跡『lady killer』(3)。第一弾より甘いティオ編と、ノエル&フラン編。

2011年02月13日 | 空・零・碧の軌跡
勢いに乗り、三枠目。の主人公の仮想ネタを書くのは楽しいです。
今回は、日記でのSSが淡白だったティオの甘々編と、シーカー姉妹編。
後者に限り、女性側は片恋。二股熱愛も興味深いものの自粛(笑)。

念の為。当シリーズのネタは、全て、妄想による産物です。

ヒロインに是非、と望むキャラが多かった事から、この形式に。
女性のタイプが違うと、品で扱う雰囲気も変化。お気に召せば幸い。


◆  ロイド×ティオ・零のED一年後・微艶  ◆


終章で交わすデートの『約束』が下敷き。実行した時点で恋人同士。
また、筆者の願望により(笑)、作中のティオは既に十六になっています。
他と同レベルで甘くさせるには、女性側の幼さ、がネックだったので。

舞台はミシュラム。デートにときめくクーデレ。不器用な恋。


自分には絶対似合わない、と。何度も、来る度に断るのに。

「うん。その色も、凄く可愛いよ。ティオ」
「……褒められても、素直には喜べません……」
「ここでは、感情を抑えなくていいって言っただろ? ほら」

ぱちんっ。小さな嵌め具の音と共に、私に『猫耳』が生えた。

「大人だって結構買ってる。君の年なら、着けない子の方が少ない」

手触り抜群のそれは、園内で買える『みっしぃ絶賛・にゃんだふるイヤー』。
百貨店で扱われる同性能の品を、より可愛く、色彩豊かにアレンジさせた玩具。
猫型の大きな耳。ふわふわ。しかも、導力が装着者の脳波に反応し、動く。

今も。つけて早々、ぴこぴこと頭上で優しく揺れ、震えるのがわかる。
勿論、所詮は安価。猫並みに気持ちを伝える訳じゃないけれど。

「ティオ、大好きだもんな? みっしぃ」

ご当地キャラの名を出された途端、ぴん、と耳が。

「俺が贈った時計もクッションも、全部、だし」
「……あの子は、可愛いですから」
「収集家なら、さ。ここ限定の耳も、逃さず揃えないと」

私の、みっしぃへの愛を理解する人に笑われ、照れる。
本音を明かせば……着ける間は、心が浮き立つように思う。

嬉しくなくもない、というか。嬉しいというか。凄く、幸せ。

「片方っていうのが照れる理由なら、俺も着けてもいいよ」
「……いえ、止めましょう。バカップル全開って感じになります」
「皆が弾けてるし、気にしなくていいのに。テーマパークの醍醐味だ」

そう微笑みながらも、ロイドさんは私を尊び、腕を示してくれる。
皆と騒ぎに来たのではなく、デート、と明確に区切る行為。

「じゃ、掴まって。どこから行こうか?」

空いた肘。束の間、躊躇し……私は、そこへと腕を絡めさせた。
途端、彼の腕にあった隙は引き締められて。私達は自然に寄り添う。

「まず、みっしぃが歩くルートのチェックだな。毎回違うしね。先に調べよう」
「わ、私は……喜ばしいですけど。ロイドさん自身が行きたい順でいいですよ?」
「だから。俺の希望順。ティオ、生みっしぃに会うなり、いつも顔が輝くだろ」

手を繋ぐより、ぴったりと密着する距離。仰げば、優しい表情がある。
交わす瞳から、直接、神経に届く心。愛しい。好き。慈しみたい。

「ティオは綺麗だな、って。改めて見惚れる」

君が大切。傍にいたい。触れていたい……ずっと。
優しくする。笑っていて。俺にとことん甘えて。

「…………っ」

悦過ぎる『想い』の主から、私は、焦って視線を外した。
自分に備わった、過敏な『感応力』。火照らされて恨めしい。

偽りの欠片もなく、ひたすら私だけ恋う気。奔流。脅威。

「……(やっぱり、この人は危険です……)」

まだ、私の片想いだった頃から、同行中に何度そう感じた事か。
エリィさん達も、事ある毎に言っていた。危険で性質が悪い男だ、と。

『あれで、堕とし捲ってる自覚なしってのがな。魔性の弟ブルジョアジーめ!』
『ランディ。間違っても、悪い遊びなんて教えないでね。手がつけられなくなるわ』
『わかってるって。ま、本人はもうティオすけにメロメロだし、この先は一点集中だろ』
『……そうね。基本、誠実で情の深い人だし……ティオちゃん……大変かもね』

兄姉の如く接してくれる同僚が、私の左右の肩に置いた、暖かい手。
出会った頃より伸びても、まだ小さい私を見下ろす二人の笑顔。

『熱血くんに色々と困らされる覚悟、しとけよ』

本気混じりのアドバイスには、親愛が溢れていた。

『なんつ~か……俺は父親か! てな気分』
『……ランディさん……』
『同じ男として、あいつにならお前を嫁に出せるぜ』

正式な『おつき合い』を始めた私が、受け止めた、祝福。
真意を疑う必要のない仲間からの、頼もしい応援。

『十六歳。あなたも、これで漸く大人の仲間入りよ』

ロイドも嬉しいでしょう。そう、察する女性に深々頷いた。

『……そうですね。一年……長く、待たせましたし』
『律儀だよな~。がば! って行っちまってもよかったのに』
『あのね。生真面目過ぎる彼には無理よ、ランディじゃないんだから』

感心するナンパな青年を窘める、声。確かにエリィさんの言う通りだった。
私と恋をした相手は、保護者属性をばりばり発揮。殊更大切に……扱われた。
十八歳と十四歳。十九歳と十五歳。縮まりはしない差の分、気遣うように。

私が子供の間は、所謂『そういう』触り方を一切禁じた、我慢強い人。
その姿勢が『本音』ならば、私も、呆れつつも納得出来たと思う。

けれど。素朴な彼は、意図なく眼に宿す色さえ直球で。

【ティオの頬って……滑らか、だな……】
【……(顔が……)……(……止まった)あの?】
【へっ…………ぅわっ!? ごめん。俺、何してたっ?】

ほんの時折、鉄壁の『理性』の隙を突く稀さだとしても。
私に屈む仕草に、そっと抱き締める腕の輪に、滲んだ切望。

ロイドさんの『自戒の度合』が、わかってしまったから。

『ずっと、歯痒かったです。彼の遠慮が』
『……ティオちゃん……』
『流されろ!……って。時々、蹴飛ばしたくなりました』

ぽろっ、と。本音を零せば……理解のある男女は、苦笑を。

『初志一貫。あっぱれよね。徹底した線引きに感心したわ』
『むしろ、ティオすけの方が焦れる位な。ま、その辛抱も解禁だ』
『これからも、扱いは丁寧でしょうけど。仲の熱さは想像出来るわね』

子供扱いを嫌う私が、憚る事なく……『恋人』と主張出来る年の到来。
迎えたかった私と、待ってくれた彼を、支えていてくれた皆の声。

『さ~て。箍の外れたロイドは、どうなるかね』

先行きを揶揄しながらも、太く、強固に根づく信頼。
祝福されて、結ぶ絆。それは、なんて心強いんだろう。

『正直、普段の彼を見るに、予測を超える可能性も高いわ』

絶縁した家族以上に、家族、の支援課。皆を得られた事も、私の幸。

『どうなった、としても。きっと、私には嬉しい事態ですから。問題ありません』
『そうね……もし、余りにも恥ずかしかったら、避難所になってあげる。頑張って』
『ああ。ロイドを抑えたい時は、男の俺の出番だしな。がんがん頼ってくれていいぜ』
『……恐縮です。まぁ、そこまでお手を煩わせる色っぽさは、期待薄かと……』

正直。この辺りで、私は……看破していたのに……読み誤っていた。
彼がどれ程、放つ全ての要素で『告白する』強者か、という点を。

「……ティオ……?」

組んだ腕に縋りついたまま、俯いた私を、呼ぶ恋人。
絡まる方とは反対の手で、柔らかく、熱い私の頬を包む。

「どうした?……俺、相変わらず、無神経な事を……?」
「……言ってません。でも、色々訴えられまして……逆上せて」
「あっ……その、それは、仕方ないというか……だだ漏れ、だよな?」

ロイドさんも知る、私の特異体質。不可聴音や人の機微まで掴む力。
それは、悪意も、好意も、溢れて止まない恋慕をも広く受け取る。

センサーダウンで、情報の多くは防げる。けれど、彼は。

「(贅沢、というか。幸せな悩みですが)」

慕われ過ぎて困る、なんて。考えられるのは……奇跡。
すぐ慣れないのは、幼少の『無色』の時期が長過ぎた為、か。

「……(……こんなにも、私、を愛してくれる人……いなかったから)」

五歳で、教団に誘拐されて。三年以上繰り返された実験。仲間全員の、死。
ガイさんに救われ、長い治療を経て故郷に戻っても……心的な好転はなかった。
娘の私を愛する『努力』に、限界を見た両親から伝わったのは、苦悩。嫌悪。

親しみを貰えない境遇を、不満、と哀しむ事はなかった。日常だった。
ただ。帰って来なければ良かった、と強く後悔して……家を出て。

頭脳と体質を買われ、財団に拾われてからも。孤独で。

「……嬉しいんですよ? 私」

胸に腕を挟み、肩に頬を擦り寄せ。正直な想いを語る。
やっと私への欲を剥き出せた人が、足踏みをしないように。

「鈍ちん奥手の彼氏が、漸くヘタレを卒業してくれましたし」
「……あのな……ティオを想えば、無茶出来る筈なかっただろ」
「あなたからぼろぼろ零れる、愛も、性欲も、全部……嬉しいんです」

ただ、馴染むまで時間が掛かっているだけ。そう説き、一層、甘える。

「ですから。暫くは私の為に、なんて愚考は捨てて下さいね。蹴りますよ」
「いや、結構君の蹴りは……!……今、性欲……その、そんなに伝わるのか」
「ええ。曖昧は不得手なので率直に言いますが、最近は毎日はっきりと」

私の唇を見つめる、眼に。全身を、それとなく辿った視線に。気配に。
接吻けたい。抱き締めたい。怖がらせるのは嫌。でも、肌を、と。

惜しみなく紡ぐ睦言を超えて、多弁。まさしくだだ漏れ。

「……あの……ごめ……痛っ!」

自重に迫られてか、謝りかけた青年の脛を、軽く。

「悪い情ではありません。むしろ大歓迎。幼児扱い大反対」
「違う、から! 子供じゃなく、異性として見るから、制御が……」
「ちなみに、今も…………そうですね。発散、は大切です。あちらへ」

へ、と。頓狂な声を上げたロイドさんの肘に、縋り、ぐいぐい引っ張る。
そのまま私は、施設の合間、木々が茂っている場に彼を導いた。

「あ、の。ティオさん?」
「確か、この先に……あぁ、そこですね」

反響を上手く遮る仕様か、喧騒の届かない一角。
戸惑ったように私を呼ぶ恋人を、仰ぎ見て、要求した。

「さあ、状況は整えました。接吻しましょう……随意に」
「っ!?」
「私もです。したいです……せっつく前に、触れて欲しいものですが」

でも、相手は欲に『ダメダメ』な男性。待てば、折角の機会を逃がす。

「ミシュラムは、子供や家族連れに限らず、恋人同士にも大人気を誇ります。
 その理由、ご存知ですか? ラブラブになれるスポットが豊富にあるからです」
「……い、言われてみれば、他から見え難くなってる…………どこでそんな情報?」
「交流ネットで飛び交う膨大なレビューから、拾いました。結構、沢山あります」

ここのアトラクションの真後ろ、や、プール奥の喫茶室の衝立、など。
遊園地を満喫中、二人きりにも浸れるよう、設けられたサービス。

好きな人といちゃつきたい者同士、教え合うネタは正確。

「鉢合わせを避けるのも、お約束だそうです」

狙うシチュエーションに先約がいたら、邪魔せず、移動。
何しろ、ミシュラムは広い。余裕で恋人の愛をも受け入れる。

公序良俗に留まる範囲なら、抱擁も許されるのだ。

「後は、その気になるだけ」
「……!」

きっと、他は男性がリードしてくれるのだろうけれど。
私達の場合、草食を装う『肉食』が大人で。立派過ぎて。

「ロイドさん、視線や気配だけなら相当貪欲」
「……うっ」
「なのに。如何せん、恋愛面の行動力が低いですよね」

じろっ。不服を込めて睨めば、顔を赤らめて眼を逸らす。

「お人好し過ぎて、変に賢くて。イラっとします……寂しい」
「……ティオには、触れたいよ……ただ、俺が堰を切ると……」
「私が切望しているのに? 断言します。烈しいあなたも、好きです」

口説きを重ね、頬を挟み向き直らせれば……ようやっと……本性を。

「……生みっしぃに会うの、遅れるぞ? 一度接吻したら俺も止まらない」
「今朝から、触れたいな~~とびしびし感じさせておいて、まだ余裕ぶります?」
「……そうだな。ごめん……あ。これは、駄目な俺を煽らせたお詫び、な」

先程と違う意味で、謝られた直後……突然、腕に腰を抱き込まれた。
大胆。軽く震わせる位、明確に、スイッチを入れたような『豹変』。

「……ティオ……」

ふぅ、と。耳朶に注がれた名前は、濃厚。

「!……(……甘い……)ぁ……」

密着に喘ぐ私の、頭を、切なげな瞳の彼が支える。
兄の如き表情が剥がれ落ちた、顔。私が常に望むそれ。

皆と同居するビルでは中々拝めない、男性的な艶。

「……息は鼻で……舌を、出して?」

迷いを払った囁き。意図を酌むだけでも、酷く興奮する。
言われるまま、ちら、と舌先を見せた瞬間、頭上でぴくぴくと。

「あぁ、本物の猫みたいだ。可愛い」

忙しなく揺れた耳を見て、顔を綻ばせた恋人。
その、薄く開かれる唇に……私の舌、が。

「……んっ……!」

ちゅ、と。一度中に吸われ、押し出されて。

「……ティオも、動きを真似てみるか? ほら……」
「んぅ……は、い……ぁ……(見られ、て……)んっ……」
「……追って。尖らせて、広げて……それを、俺に」

ぺろ。ぺろっ。舐め合う。口の外側で伝え合う愛情。
絡めるというよりも、美味しい物を味わうような。

「悦いな……ティオ。凄く、色っぽい」

いつも、接吻中は伏せる瞼を、開けたまま接吻。
生の肉を擦りつけ合う感触。視覚の悦。もう、蕩ける。

「……んぁっ……(崩れ、そう……)」

愛する彼の舌との交合だけで、芯が燃えるのも間近。
けれど。濃い接吻も、先の『営み』も知る私は……懸命に。

「ふ、ぁ……唇……中へ……もう、私を、招いては……?」
「ん。最初の接吻の時、苦しそうだったし……少しずつ深く、な」
「……あれは、応え方が不明で……ん、今は、もっと……可能です」

そう誘っても。『人』の温もりに不慣れな私に、ロイドさんは急がない。

巧みな舌で私を震わせ、火照らせながら……彼は、掌で、撫でてくれていた。
デート用にお洒落を試みた、可愛い服越し。骨張った肩を、腕を。肉が薄い背を。
片腕で強く抱き締められ、呼吸は段々乱れても。慰撫は、私の『緊張』を解していく。
被虐実験による瀕死が尾を引いてか、今尚、発育の遅い身を……安らがせる。

女性的な曲線を形作る、豊満な胸も尻も括れもない、がりがりの私。
劣等感を抱いてもおかしくない、現実。なのに、私にはその暇も。

「……っ……んむ(……飽和する……)」

私の心を何重にも包む、恋人から捧げられる想い。
君がいい。君を癒したい。悦んで。愛する俺に愛されて。

段重ねに沁みて来る『声』に、堪らず、縋れば。

「! っ、むぅ!?」
「……ん……ティ、オ……!」
「ぁ……んぅ、う……んはっ……ぅんむ」

私の準備が、拙いながらも充分整った、と判断されたのか。
突然、ちゅる、と舌毎呑み、唇を被せて来た彼に……歓喜する。

「は、ぁ……(……熱……引き摺ら……、……ロイ……さ…………)」

正直。はっきり記憶を辿れるのは、その瞬間までだった、といってもいい。
蓋をした唇で囲われる、小さな『天国』で、私は悉く舌の根まで『食べ』られて。
極度の快感を齎す、泣ける程濃い味わいに……遂には酔い潰れたらしく。

気づけば。私の膝は、挫けて。ぐったり恋人に凭れていた。

「……ティオ……」

寄り掛かる私を、慈しむ仕草で支えてくれる懐。
唆した女に、彼も謝罪の愚は犯さず、声を降らせる。

「その、歩けるようになったら、みっしぃに会いに行こうな」
「……はい。あなたと結ばれてからは、初、ですし……報告を」
「ん。で、え~と……今晩用に、ホテルの予約確認も、していいか?」

嬉しい驚き。思わず振り仰げば、照れ臭いのか僅かに染まる顔。
じ~っと見続けると、益々赤くなり、大好きな瞳もゆらゆらと。

「も、勿論! 思い切り遊んでから、だけど」

素直な気が伝えるのは、先走る自分を詫びる想い。

「……(……誠意……手強過ぎます……)」

この節操なし、などと、私が引くとでも誤解したのか。
接吻前に外させた、理性の箍。復活しては困る。

「いっそ、引き摺り込めばいいものを」
「? え?」
「失礼。炎は凄まじくても着火が遅くて、つい愚痴を」

若干、申し訳なさそうな色も混ざる表情に、深く溜息。

「わかります? ロイドさん。今の私達。熱い恋人そのもの」
「うん……ティオ……唯でさえ、綺麗なのに……俺、堪らなくて」
「是非流されて下さい。あなたは、折角備わる性欲を戒め過ぎです」

接吻の幸福に溺れた娘を、今まさに抱きながら。慎重にも程がある。

「ホテルも、私が率先したい位。なんでそう、毎回、無駄に謙虚なんですか」
「それは、君が……女の子だから。接吻だけで火照ってくれるし。体力、も……」
「疲労その他で障りがあれば、私からきちんと伝えます。それ以外は如何様にでも。
 繰り返しになりますが、ロイドさんが私を求める上で、躊躇など全く不要です」

一度、褥を共にしたら最後、官能的な手管で幼い私を圧倒するのに。
何故に、この『甲斐性なし』は、そこまでの『説得』が面倒なのか。

「ランディさん並み……は、まずいですけど」

手当たり次第に濡れ場のムードへ、とは言わない。
けれど、多少は、色男から異性の扱いを学んで欲しい。

「時には、雌雄の欲に従って下さい」

夢中で耽らせる天性の『素質』が、余りに勿体ない。

「がばっ! と。その辺に押し倒す位の勢いも歓迎ですし」
「そ……う、したくはあってもさ。ティオを労わりたいから、中々」
「……はぁ。ヘタレの汚名を雪ぐ日が、一日も早く来ますように……」

とりあえず。お間抜けな恋人に代わり、予約の確認は私が、と決意。

呆れつつも凭れる私を、包むのは、反省、欲、熱愛の気を纏う温もり。
完璧なリーダー。にも拘わらず、色事だと遠慮と耽溺が極端で、ダメダメ。
それでも、そんな彼だから慕う私は……猫に肖り、ごろごろ、身を擦りつけた。


◆  ロイド←シーカー姉妹  ◆


原作でも、三章初日に『両手に花』のデートを楽しんだ、三人のネタ。
シスコン気味で異性への興味も皆無だった二人が、初めて愛したロイド。
自分も惹かれるし、姉妹の恋の相手としても納得。そんな情の交差。

将来どちらを選ぶか、は考えていません。続きはお好みで。


【ああ、ノエル。遅いし心配したよ。どうした?】

通信もこなす導力器、エニグマ越し。柔らかく声が響く。
途端、走って乱れた呼吸に恥じらいが湧き、懸命に整えた。

こんな、可愛らしく甘酸っぱい努力など、した事がない。

「面目もありません。不覚にも寝坊を……!」

失態です、と。待たせてしまった原因を伝えて、詫びる。

既に、ロイドさんと『妹』と待ち合わせた時間は、過ぎてしまった。
僅かな遅れで叱られる、警備隊所属。曹長にあるまじき致命的ミス。

【そうか。珍しいな。ノエル、時間に正確な子なのに。夜更かししたのかな】
「いえ、その……兎も角、今全速でそちらに向かっています。間もなく着くかと」
【わかった。焦って事故に遭うと大変だぞ? ちゃんと待ってる。安心して】

落ち着かせる言葉と同じく、穏やかな声。却って、申し訳なさが募る。
仲間に語気を荒らげる事がまずない彼に、心を寄せる女として。

【フランも、心配してたよ。ここにいるけど代わろうか?】

ふと、愛しい人が口にしたのは……妹の名前。

「!……あっ……いえ。すぐ、顔を合わせますから、今は」
【あぁ。早く会えた方が嬉しいよな。お姉ちゃんっ子だし、フラン】
「はい……えっと、ごめん、とだけ伝えておいて頂ければ、充分です」

瞬間、左右に首を振って。なんとか適当な理由をつけて話を続けた。
そんな、思い掛けなくも『素直』な反応を自覚し、小さく苦笑する。

鈍感は、罪だ、と。溜息を吐きたくなる時もあるけれど。

【俺、二人との外出、凄く楽しみにしてたんだ】

邪推の欠片もない、喜ばしさが篭る囁きが……愛しい。

もし、ロイドさんが女心に聡い人ならば、今日の状況もなかった。
そう、握るエニグマに耳を傾け、走りながら、複雑な蜜を噛み締める。

【誘って貰えて嬉しかったよ。君達に挟まれてエスコートか……役得だよな】
「……それはこちらの台詞です。通信でOKを頂けた時、どんなに嬉しかったか」
【ははっ。なんか、擽ったい。美少女二人と街巡りってだけでも、俺、有頂天なのに。
 けどさ、折角重なった休日だろ? 水入らずを邪魔して、本当にいいのか?】

フランとの仲睦まじさを知る分、重ねて訊く情が、心の底を疼かせる。
決して他者を入らせなかった、妹との『間』に……唯一迎える彼。

「あたし達……ロイドさんと過ごしたいんです」

意識的に、選んだ言葉。自分限定の告白はしない。
それは、想い人を見つめているだろう『少女』との、約束。

『もしかしたら、とは思ったけどね……フラン』

同じ捜査官を初めて愛し、欲してしまった可憐な妹。

『お姉ちゃんには、何でも全部教える。そう決めてたから』
『あたしも、フランには隠さない。正々堂々と動けないの嫌だし』
『うん。あのね、私も……ロイドさんが大好き。凄く好きで、大切なの』

彼への恋慕と、家族の幸せを願う愛情。どちらをも尊んだ結果が今。

「あなたと、時を共有させて頂ける事が……何より最高の休日、なんです」
【……ありがとう。わかった、君達姉妹と一日ずっと過ごさせて貰う。楽しもうな】
「ええ。それじゃ、一旦通信を切りますね。ノエル曹長、到着に尽力します」

待ち遠しいよ、と。贈られた声に喜びつつ、エニグマをポーチへ戻す。
腰装着。手提げではないそれは、腕を空けられる便利アイテム。

「(左右にくっつくと、照れて可愛いんだよね)」

職務から解放され、大胆に密着する為の……『下準備』。

皆の抜け駆けを抑え、共闘で『確保』する胸の内には、切なさも燻る。
ロイドさんを慕う子は多い。身近な姉妹の綿密な連携は、狡い、とも思う。
ただ。二人占め出来る間は、恋以外を振り切りたくて……あたしは、駆けた。

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