緑陰の小屋

主に、恋愛ゲームの二次創作をゆったりと書いています。

死神と少女『パンドラ』。桐島七葵編。個別の章の結末に纏わる三作。未完。

2011年09月16日 | その他のゲーム
ED後に迎える筈の、描写されていない問題の解決策を独自に捏造。
死神と少女』の桐島七葵編。苗字か名前か、略し方で迷った結果、両方。
響きの可愛さを嫌がる割に、紗夜に呼ばれるのは好きな人との物語。

糖度を滲ませつつ、白雪の件や縁談ネタも絡ませて、妄想。

桐島との恋愛前提に加え、他人物の設定などネタバレ満載。
未プレイの方には、ご興味があれば是非、ゲーム攻略後を推奨。
心を交わす先輩に支えられ、幼い日の傷に克つ娘の話。清艶に淡く。


◆  夏目悠希&遠野紗夜&宮沢夏帆・未完  ◆


まず、番外的小話。背景は桐島の章終了後(=主人公と恋仲成立)。
元気のない親友と先輩を心配しつつ見守る女の子と、斜に構える男の子。
激しく憎んだ家の娘を、個人、として捉え始めた夏目の成長がメイン。

カップリングとしては共通(一組)の為、要反転ではなく黒字。
紗夜視点。『人間の友達』が増えた彼女の困惑と、幸を。





「今日のお弁当のおかずは鶏の照り焼きです」

品を差し出した私の一言に、ぴく、と夏目君が反応した。

冬の気が深まる中でも、綺麗に晴れた陽を浴びれば暖かい。
お昼休み。場所は、いつもの剣道場裏。輪になって座るのは五人。
料理上手な二人のお陰で、毎回美味しいお相伴に預かれる。

ほんの数ヶ月前までは、料理をした事が全くなかった私。
でも、ここ最近は不器用で下手なりに努力していて。

「うわ~っ。美味しそうだよ、紗夜ちゃんっ!!」

メンバーの内三人は男性という事で、大きめのタッパー。
早速覗き込んでくれる夏帆が、きらきらの眼で、私を褒めた。

「色も、絶妙な茶色だし。この類は焦げ易いんだ。失敗しなかった?」
「はい。フライパンの前につきっきりで見張りましたから。大丈夫でしたよ」
「そっか。段取り聞くだけでも、紗夜ちゃん、最近手際良くなったよね」

進歩進歩~。そう、全開の笑顔で頭を何度も撫でてくれる子。
七葵先輩の大きな掌とはまた違う、小さなそれが暖かい。

「(……そういえば、つい最近、のような)」

ふと。髪を揺らす指の下で、浮き上がった認識。

「(いつもであれば、立場が逆)」

私が、夏帆を撫でてあげた記憶は、前からある。
けれど反対は、思い返しても殆どなかった気がする。
私に戯れつくのが好きな彼女の、大人びる変化。

「またレシピも教えてあげるね!」
「……ええ。楽しみにしています、先生」

ずっと小柄な身体で、まるで『労わる』ように。

もしかしたら、と瞬く。察した上での行為だろうか。
私が今、精神的に弱い事。強い体面を保っている事。
あの別れを思い出す度、疼く胸を誤魔化す事も。

親友の筈なのに、一切相談しない冷たい女。
そんな薄情を承知で、夏帆は……私を。

「……ふん。重要なのは、味だろ」

愛らしい顔を見つめる私を、軽く刺す棘。
この面子で、私にきつく喋る相手は、唯一人。

「外だけ綺麗じゃ、遠野そのもの。食えんのかよ」
「味見は抜かりありません。意外に美味しかったです」
「意外って何だ。失敗したまんま作ったんじゃねえだろうな」

途端、間に挟まった夏帆が、毛を逆立てるように噛みついた。

「食べる前から文句言うの止めてよね! 紗夜ちゃん頑張ってるのに」
「米の研ぎ方も知らずに洗剤で洗った女だぞ? 警戒して当然じゃねえか」
「今は違うもん! レシピに忠実にすっごく美味しく作れるんだから!」

きーきーと、小さい子達が言い合う姿は、傍目に微笑ましい。
仲が悪くはなく、相性が良い所為とわかっているからか。

「(ただ……このまま、見守っていると)」

どんどんネタを拾って行くそれは、延々続く。
短いお昼休み。どうしようか困ってみた……矢先。

ふう、と。左隣の彼が、恒例の『溜息』を。

「お前達、戯れ合いは他でやれ」

毎回絡む二人の喧嘩を仲裁する、低音。

「戯れてない! 夏目が酷いの」
「宮沢が猪みたいに突っ掛かるだけだ」
「どっちもどっちだな。脹れる前に、物を食え」

性格柄か、五人で集う時の叱り役は決まっていて。
お父さんのような七葵先輩に、勝気な子達も渋々従う。

「成功かは、食べればわかる事だろうが。頂くぞ、紗夜」
「はい。光先輩もどうぞ? 甘めの味つけでお口に合うかと」
「ん、ありがと。頂きま~す……美味しいよ? 夏目君」

もぐもぐと、問題なく、箸を運んで食べてくれる先輩達。
それでもまだ、む~っと照り焼きを睨む同級生に。

心持ちタッパーを近づけ、言葉を添える。

「これは、お礼も兼ねています」
「……? 礼?」
「ええ。特に夏目君、貴方への」

そう伝えれば静かに眼を眇める人に、微笑む。
勘も鋭い彼なら、聞いただけで察したかも、と思う。

「好物、と仰いましたよね。鶏肉料理も照り焼きも」
「……お前から礼……気持ち悪いんだけど。何の事さ」
「ノート。取って下さったじゃないですか。私が欠席した際に」

それも五日間。どの教科も、優秀な彼らしく丁寧な注釈つき。

千代さんが、消滅した直後。深く傷ついたのは七葵先輩。私じゃない。
なのに、心に受けた打撃が身体にまで影響を齎したのは……私、の方で。
愛しい男性のように、平静を装って過ごす強さもなく、暫く床に就いた。

元々、幼い頃病気がちだった為か、丈夫ではない上に脆弱。
しかも毎日、私より辛い筈の先輩に見舞わせる体たらく。

『すみません……また、ご面倒を』

夕方。気づく度、頭を撫でてくれていた恋人。

何をやっているのか、と。不甲斐ない己を叱った。
高校にちゃんと通い、勉強するように、言い聞かせて。
けれど。失ったショックからは、中々抜け出せず。

繰り返し与えられる掌の癒しに、涙を零した。

『面倒? 役得の間違いか』
『遠いのに……先輩、大変……』
『俺自身が、好き好んで来ているんだ』

返るのは、平坦ながらも暖かい声。

ぽふぽふ、と。やんわり髪の上で弾む手。
絞ったタオルで涙を拭き、額へと置いてくれる。

『詫びるな。気も遣わんでいい。身体に響くだろう』
『……縋り過ぎないように。謝って、戒めているのです』
『お前は普段が異様に頑固者なんだ。こんな時位、緩めろ』

寝台脇の椅子に座り、柔和な顔で覗く彼が、ぼやけた。
数日前にあれ程泣いても、尽きる事もなく、湧く涙。

『私は、私の醜さを知っています』

以前、七葵先輩には、片鱗を示した筈。





◇  桐島七葵×遠野紗夜・桐島視点・未完  ◇


着手順は下の品より後になるのですが、時間軸で早い為、前で展開。
光目線で書いても面白そう、と思いつつ、ここは彼氏に花を持たせる事に。
脚色多めは、三作共通。以下では、釣書(見合いネタ)の扱いを捏造。

気が強くて口も達者な反面、脆く危うく、溜める性質の紗夜。
そんな子の自戒を、恋人の『覚悟』で解して貰おうかと。





『桐島君さ、今日から王子様になる気ない?』

開口一番。光の頭を疑った俺は、誰にも責められまい。

『少し、勉強を詰め込み過ぎか。脳が煮えたか?』
『至ってまともだよ? だって、お姫様には王子様だろ』
『あのな……とりあえず、全く説明が足らん。最初から話せ』

呼び出された俺を待っていたのは、突拍子もない提案。
即行で帰らずに先を促す俺も、増長させる悪因か。

『(……偽物相手より、分が悪い)』

ふと、眼前の男を演じていた奴を、思う。

『日生なら、世話を焼く必要がなかったんだがな』
『あれっ。桐島君、さりげな~く比較中でしょう? 酷い』
『俺と紗夜の前以外は、フォローしてやってるだろ。見逃せ』

特別傷ついた訳じゃないとわかる、楽しげな非難は、流した。

普段から何を考えているのか掴めない点は、日生もこの『光』も同じ。
だが、完璧な偽物より色々と抜ける『本物』の言動は、端々が子供めいて。
面倒を見なければ、躾けなければ、と俺の良心を疼かせて……困る。

しかも光は、俺の義務感を煽って、揶揄う。迷惑この上ない。
正直、無視を貫き見捨てた方が楽だ。間違いなく。ただ。

『(……可能ならば、苦労はせん)』

結局、俺は、奴のサポートを己に課した。
状況を併せて考えれば、迷いようもなかった。

寂しげな者を放置出来ない性質なのは、昔からだ。
加えて、今、学院に通う中で、事情を知るのは俺と紗夜。
光がぼろを出しそうな時、助けられるのは二人だけ。

『喪失』に嘆く片割れを想えば、何でも出来る。
俺が動く分、あいつの負担が減るのなら。

【……桐島先輩……】

もう何度か見た、涙に濡れる顔。
感情を正しく表す瞳から、零れた心。

【あの人がいなくなってしまいました】

勝手な振舞いを残し、日生が失踪した後。
親しい者との別れを酷く嫌う紗夜は、苦しんだ。

【お前の所為じゃないだろう。全く、放っておけんな】
【……私が、告白に応えれば……消えなかったのでは】
【遠野。あいつはいなくても、俺が傍にいる。それじゃ駄目か】

そう告げた俺が、頭をそっと撫でた途端。子供のように。
綺麗な顔をくしゃくしゃにして、俯いて、泣き崩れた。

【……いて、下さい……】

撫で続ける俺の手に伝わった震え。切望。

【会えない遠くに、行ってしまわないで……下さい】
【……あぁ。大丈夫だ。俺は、ずっといる。これからもな】
【終わりは、嫌っ……私を……独りにしないで……下さ、い】

儚く願い、しゃくり上げた紗夜が、泣き止んだのは……夕刻。

その後も、表面は気丈ながら、日生が心につけた爪痕を引き摺った。
漸く、すり替わった『本物』とも自然に接し、笑みも取り戻せたのは冬の口。
だが。あいつは、辛さからか、光を『日生』先輩とは呼ばない。俺もだ。

全て、薄情に忘れたように見せても、紗夜は涙を抱えたまま。
更に、癒えてもいない傷を抉ったのが、千代との決別で。

『(……あれは……流石に、な)』

思い返せば、鋭く、痛みがこの胸を貫く。
特異体質の俺にとって、初めての友の末路。

『(いない、とは、ああいう事だ)』

もう、眼には映らない。けれどわかった。
宙に花弁を舞わせた、一千万本。秋桜の魂。

頑健な俺でさえ、多少参らずにはいられなかった。
男である以上、決して泣けはせん。が、塞ぐし、きつい。
十年、離れずに過ごした幼馴染が消え、鬱屈する。

それでも。俺には、わかち合える同士がいる。

『(紗夜に……泣いて、貰えた)』

千代を失い、弱る程、哀しんで咽ぶ少女。
俺を襲った苦痛は、その雫が、外へと流した。

そうして、二人だけに通い合う哀切を、労る過程で。
やっと、というべきか……俺は、募る『恋情』を自覚した。
周りに散々指摘されても、よくわからずにいた心を。

いつからか覚えてもいない程、眼で追い続け。
噂と全く違う気の強さ、素直さに、惹かれ。

『(初めて……特別に、好いた)』

母以外は男だけの、むさ苦しい環境。
女っ気と無縁な所為で、気づき遅れたが。

俺は……もう、長く遠野紗夜を……。

『なっきー、メランコリック?』
『……! おい。なっきー、は止めろ』

ふと、割り入った声。考える前に突っ込んだ。
唯でさえ似合わん名前を、軽く呼ばれたくはない。

『なんで? 紗夜ちゃんも最近は七葵先輩だよね』
『!……お前、どこで……っ! 戯れるだけなら帰るぞ』
『と、短気な桐島君を弄る時間はないな。真面目に喋ろうか』

直後。光の表情から、笑みが払われ……驚く間に一変した。
言葉通り、お遊びの色が失せた真剣な眼に。俺も黙る。

そのまま、何を言い出すのか、と少し待てば。

『…………』

薄紫。クォーターのそれと、交わる視線。
やがて、じっと俺を見つめていた奴が囁いた。

『桐島君。紗夜ちゃんの事、好き?』

そう訊かれ、刹那、僅かに頬に昇ったのは熱。
恋だの愛だのは、初心者なのも相俟って、照れる。

『まぁ、一目瞭然なんだけどね。はっきり知りたい』
『……それは……俺が明言する事に、意味があるのか』
『うん。言っただろ? 今回に限っては、凄く、真面目なお話』

だが。叱りはしなかった。その声に軽薄さがなかったからだ。





◆  桐島七葵×遠野紗夜・紗夜視点・未完  ◆


ネタの切口に迷いつつ、描きたい光景を形にするべく、ひとまず発進。
悩むだけで何も打たないより、兎に角打つ、従来のスタンスに則りました。
再び、主人公視点。二編目から少し時間が経った頃。大団円を表現。

一部、十夜ルートでのみ判明する某設定を引用しています。
回想など、総じてシリアス。その分糖度は高め(希望)。





真白い夢。清楚に触れる、甘い声。

『お薬、効いたようですね……良かった』

あぁ、と。持ち主に気づけただけで、心が潤う。

『焦らず、ゆっくり呼吸して下さい。紗夜』
『う、ん……すぅ……は……! けほ、ごほっ』
『まだ、苦しいのですね? 摩ってあげましょう……』

咳き込み屈む背中を、何度も何度も撫でてくれた掌。

思い出してしまう事が、恐ろしくて。長い間、封じ込めていた。
あの日見た継母の物語の『終わり』は、それ程に、私を傷つけた。
砕ける音。部屋中に飛び散った鏡。硝子。破片。染まる、血。

そう、彼女にさせたのが『私』という事実が……辛くて。
この十年、私は、渦巻く激痛から眼を背け続けた。

『……ずっと、傍にいてね……お母、様』

幼かった私にとっては、唯一の、愛情の対象。
横たわり、無心に擦り寄れば迎えられる、柔い懐。

『もう大丈夫。朝まで傍にいますよ』

穢れた『継子』を、ああも慈しみ、育てた女性。
喘息持ちでよく寝込む私を、いつも救ってくれた人。

『大好きよ、お母様。誰より、一番、大好き!』

自らを騙した夫が浮気し、作った子供を、引き取った妻。
そんな彼女を、我が身可愛さで忘れるなどと。己を罵りたい。

由緒正しい『遠野』家の出。上品でとても控え目な、生粋の『お嬢様』。
器量が芳しくはなかった点に、劣等感を抱いていた、とは伝え聞いている。
けれど。敬愛する継母は、美しく流れる小川の如く穏和で優しかった。

血の繋がらない私を我が子と扱い、誠心誠意努めてくれた。
顔を埋める胸の温もりも。淡い抱擁も。真実覚えている。

『ええ。私も貴方が好き。愛しています』

帰宅しない『裏切り者』の分も、注がれる想い。

『私の娘。きっと、朝には元気な笑顔を』

見せて下さいませ、と。そっと前髪を梳いた指。
共に過ごした時間、彼女は、微笑んで私を愛でた。

「(お母様の、言葉も掌も……大好きだった)」

あれらは、願望の『幻想』ではない。確かに私が体験した事。
世界の全ての荊から守ろうとするかのような、親愛を尽くす慰撫。
病院で受ける点滴よりも、多くの薬よりも、私を治してくれた。

安心してお休みなさい。そう、添い寝をしてくれた継母。
私の身体に腕を回す彼女も、孤独だったのだろう。

『可愛い紗夜……貴方が、私の居場所』

偽りなど、子供心に微塵も感じなかった笑み。
娘の世話を焼けて、至福、と。優しく言って貰えた。

「(辛く、寂しいお母様……可哀想なお姫様)」

遠野白雪。童話の主役と同名の令嬢は、けれど薄幸。

胸の内、噴き出す記憶の断片は、七歳にもならない頃の話。
遠い日の思い出。既に朧に消えてしまいそうに儚い、親と子の絆。
本来なら、遠野を名乗る資格はない『罪』の結晶が得た、愛。

純粋で、綺麗だった姫君の心は……やがて蝕まれる。
彼女を慕う事しか知らず、気づけない幼児を前に。

『………………』
『お母様?……お母様!』
『………………』

懸命に呼んでも、返らない応え。

始まりは緩やか。ただ、進行は急激。
部屋に篭った人は、一切の面会を禁じた。

『どうして今日も入れてくれないの? おか……』
『私は、貴方のお母様じゃありません! 来ないで!』
『! 紗夜の事……嫌いに、なっちゃった?……! ごほっ』

鋭く放たれた、拒絶。哀しみからか、発作は酷くなった。
けれど。どれ程、咳き込もうと、倒れようと……もう。

「(お母様には、会えなくて)」

理由もわからず。毎日通っても叶わず。

『きゃああああああぁっ!?』

数日後。割れ砕ける音に、侍女が駆けつけ。
凄惨な室内に絶叫し、屋敷中が事態を知るまで。

『お、奥様っ!……君、救急車を! 呼ぶんだ早く!』
『! お嬢様、こちらへ! ご覧になってはいけません!!』
『…………おかあ……さま……?……何故、……!』

広大な屋敷の女主人と、和解する事はなかった。





◆  途中書き  ◆

十月十三日。日付を、本文更新の『九月七日』から『十六日』に変更。
創作ブログを名乗る以上、トップは短文枠の周知を優先、というのが理由。
碧への萌えに従いつつ、この死神の加筆も、積極的に心掛けていきたいです。

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