インターネットの憂鬱

仮想空間と現実の狭間で

幸福商法の重要性

2012年05月21日 | 雑感

エスキモーに氷を売るという、マーケティングについて書かれた本をご存知の方も多いと思う。
中身はエスキモーに関係なく、人気のないバスケットボールチームを人気No.1チームに仕立て上げたという話だ。
これは「需要のない商品を、どのように売り込んで行くか」というマーケティング論である。

では、この本の標題通り「氷の家に住んでいるエスキモーに、氷を買ってもらう」にはどうすれば良いのだろうと考えてみる。

だいたい今のエスキモーは氷の家なんかには住んでないわけだが、環境汚染の影響で外の氷は「汚れてて危ない」と言えば、
簡単に飲食用のロックアイスを買ってくれそうだ…実はこれが、売り方のひとつ。

いわゆる「恐怖商法」

「~を使わないと大変なことになる」、「~だけが、安心できる」という脅しのロジックで売り込むわけだが、
人間の潜在恐怖につけ込んだ方法はいつの世も常套手段だ。食品・健康関係や生活関係の商品に多い。
大災害や病気の流行に便乗し、このロジックでボロ儲けするのが「パニック商法」である。

そして「流行商法」

これもカンタンで、「みんな使ってますよ」、「流行なんですよ」と言えば、自分だけが取り残されてしまうのではないか、
あるいは持ってないのが恥ずかしいという、孤立する不安感や恥の気持ちを利用した方法だ。「神の山から取って来た
聖なる氷で、村中みんなが買ってるぞ」と言えば、エスキモーも買ってくれそうだ。宣伝に有名人やタレントを使い、
「誰々が使っているから(安心)」という強い動機を与える方法も、この気持ちの裏返しの心理を利用したもの。

さらに「幸福商法」

「~したい」、「~になりたい」という欲求や願望に対し、「これがあれば~できる」という答えを用意する方法
それまでにない新商品の場合も同じで「これまでになかった物が、新しい歓びをつくる」と言うロジックになる。
「これがあれば、もう氷を切り出さなくても家が簡単に作れる」とか「アザラシの保管に最適、マイナスイオンの氷」とか。

と、いうわけで、世の中の商品の宣伝は、おおかた以上の3タイプに分類できる。いずれも、人間の心理や欲望に根ざすものだが、
この中で実利がちゃんと確保されているのなら、最も正当でカスタマーに喜ばれるのは「幸福商法」ではないだろうか?

最近、これを再認識させてくれた話がある。

ゴールデンウィークに宿泊先でたまたま観たTV番組が、ジャパネットたかたの高田明社長を特集していた。
佐世保のカメラ屋から大きな企業にのし上がるまでの物語には、非常に興味深いものがあったが、
その中で一番感心したのは、出回り始めた頃のマイクロレコーダーを大量に売り上げた手法だ。

これをみなさんだったら、どう売ろうとするだろうか?

普通に考えれば、マイクロレコーダーの使い道は、会議、取材、音声メモ、あるいは証拠保全に基づく記録用といった
ところだろう。まあ、いずれも仕事向けの用途であり、よほどの訴求ポイントがなければ大量販売は難しく思える。
しかし、ジャパネットたかたは、なんと主婦層にマイクロレコーダーを大量販売してしまったのである。

高田社長から視聴者に向けた宣伝トークには、家庭用伝言メモに使うと便利という提案があった。
要するに、主婦が出かける時に、子どもや夫に対して残して行くメッセージを録音しておこうと言うもので、
音声ならホワイトボードやメモ用紙よりも、格段に心の伝わるコミュニケーションツールになるという内容だ。

もちろん、買い物や料理のメモにも重宝するが、プラスαでどういう使い方が出来るかを考え抜いた結果の提案が、
この家庭用伝言メモとしての使い方だった。これが主婦層の心に響いたのだ。

購入して「こう使うと便利で楽しい」、そのときに「この機能が役に立つ」、だから「みんなに喜ばれる」という、
具体例とそのロジックを徹底的に訴求するスタイルは、ジャパネットたかたが売上高をどんどん増やしていった秘訣の
ひとつであると言っても良い。そして、これが「幸福商法」の王道であると思うのだ。

地元からの人材採用、過剰なまでの福利厚生による社員への利益還元、個人情報流出事件の際に繰り返した謝罪と
自発的業務停止、あるいは東北の震災時にはいち早くチャリティー販売を行ない売り上げ5億円を寄付、このように
カスタマーや他者を慮(おもんぱか)る同社の姿勢にはブレが無い。この点で、私は以前からシンパシーを感じている。
(そういえば100億寄付すると言った電話屋の先生は、寄付を実行したのだろうか?)

例えば、それほど画期的な内容も無く、競合商品もあるような商品を売ろうとした時、どうやって効果的な
セールストークを考えればいいのか? その商品を徹底的に知り、分析することは当然だ。

ところが、社員や経営者が自社の商品を満足に理解できていない場合がある。商品に関して質問をしたときに、
立て板に水のごときにしゃべられても逆に警戒するかも知れないが、言葉に詰まったり、「後ほど調べて…」という
反応をする人がいる。その商品を買ってもらうことで、自分が生計を立てている自覚がないのだろう。

これではお話しにならない。

では、熟知した商品知識にどのようなエッセンスを振りかけて魅力を創出するのかといえば、
それは「経験と観察力」を基にして「他者の歓び」を考えることではないかと思う。ビジネス啓蒙などの話で、
「商品への愛」というフレーズをよく耳にするが、私はそれよりも先にカスタマーや世の中に向けた
「他者への愛」が大切になるのではないのかと感じている。

結局、販売や宣伝にしても、その愛情がにじみ出るもので、それが世の中の支持につながっていく。
最終的に横並びの商品群の中から選ばれるのは、そういった経営者や社員のいる会社の商品ではないだろうか。

「愛」などと言うと、なにやら大上段に振りかぶった、理想論にしか聞こえないかもしれない。
しかし、売れる商品を作る人、仕事で成功している人はみんな、何かしらの愛情を感じさせるものだ。
これまで、さまざまな経営者や生産者に会ってきた私の経験上、このことは断言してもいい。

私自身も改めて「商売の王道とは、どんなことなのか」を考え、ブレのない商品プロモートや
販売システムを構築し、クライアントとそのカスタマー双方に歓んでいただきたいと思う。


2 コメント

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社長と社員の資質 (Yoojin)
2012-05-23 17:20:45
こんにちは.ブログランキングから来ました.
幸福商法というタイトルを見て、宗教のお話?と思ったのですが、一気に読んでしまい共感を覚えました.経営者と社員の優れた資質や品格は一朝一夕で持てるものではありませんが、大切なものだと信じています.商品購入を決定する重要ファクタの一つだと思います.
Unknown (花畑きゅうり)
2012-05-23 22:32:55
yoojin様

コメントありがとうございます。
本来、当たり前と思われることなのですが、これがなかなか出来ないものです。この記事には自分に対する戒めの意味も込めていますが、共感していただけたようで何よりです。今後ともよろしくお願いいたします。

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