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「早寝早起き」に囚われるな。「国民総寝不足」の日本人が知るべき睡眠研究からわかった事実

2018-09-17 | 医療、健康
そこで今回は、世界トップレベルの睡眠医科学研究拠点として数えられる、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)の柳沢正史(やなぎさわ・まさし)機構長のもとを訪ねました。略
睡眠について知っておくべき基礎知識まとめ

以下、柳沢教授へのインタビューをお届けしますが、かいつまんでポイントを紹介しましょう。

興味のある項目については、ぜひ詳細に読み込んでみてください。

・必要な睡眠量はほとんどの人で6~8時間、連続して取るのが理想

・朝型/夜型は遺伝子で決まっており、年齢でも変化する

・平日と休日の睡眠時間が、2時間ちがっていたら睡眠負債の疑い

・睡眠不足は肥満・生活習慣病などのリスクを高める

・寝不足な場合、昼寝が効果的なのは事実

睡眠量は実験を、朝型/夜型は診断を

── 個人差はある前提で、そもそも一日に何時間眠ればいいのか、というのは誰もが思う問いのひとつです。

柳沢正史教授(以下、柳沢):必要な睡眠量は年齢によって変わります。中学生くらいの年齢なら8~9時間ほどですが、20代後半ぐらいにかけて平均7時間ほどに落ち着いていきます。それを踏まえ、多くの研究者が同意しているのは、大多数の成人にとって必要な睡眠量は6時間から8時間ぐらいだということです。

逆に、6時間以下で充分な人は、ほとんどいないと言っていいでしょう。ゼロではありませんが、100人に1人いるかどうかの割合です。

── となると、いわゆる「ショートスリーパー」は稀なのですね。

柳沢:以前にクラウドファンディングも活用してIIISの研究者と調査した結果から見ても、真のショートスリーパーである候補者は100人に1人もいませんでした。また、後天的にショートスリーパーになることもあり得ません。自称「ショートスリーパー」の寝不足な人は大勢いますが…。

理想は、 分割睡眠ではなく連続して必要な睡眠量を得ることです。聞いたことがあると思いますが、人は寝ている間に、約1時間半ごとにノンレム睡眠とレム睡眠のサイクルを4回から6回繰り返します。眠りの前半はノンレム睡眠が、後半はレム睡眠がメインになります。

このサイクルを適切に繰り返すことで睡眠の質は上がります。睡眠時間が分割されるとノンレム睡眠・レム睡眠のサイクルが 分断されてしまうので、眠らないよりはマシですが、やはり質は劣るといえます。

── 自分に必要な睡眠量を知る方法はあるのでしょうか。

柳沢:人によって理想の状態はまちまちで、知るのは簡単ではありません。現状では自分で実験するのが近道です。「もうこれ以上寝ても仕方がないと思える感覚」を抱くような、つまり「自分は何時間眠れば充分なのか」を検証してみるのです。

一方、その人の体内時計に合わせた「朝型/夜型」は、遺伝子で決まっています。「朝型/夜型」は10項目ほどの質問表に答えるだけで、概ね判明する世界標準のテストがあり、信頼に足る結果を出してくれます。

遺伝子レベルのことですから、これも誰もが生活習慣で簡単に変えられるものではありません。

── テストを試してみたら、僕は夜型でした。子どもの頃は朝早くても平気でしたが…。

柳沢:「朝型/夜型」は年齢とともに変わります。小学生くらいの年頃は朝型が多いのですが、思春期で一気に夜型になるんですね。特に18~20歳は夜型が多い。

そして、50代を過ぎ、老年になっていくと朝型に戻る。振れ幅には個人差がありますが、「朝型/夜型」の年齢による変化は大きく、最大2時間ほどの差が生じます。

思春期で朝起きるのが急につらくなる人が多いのはそのためです。ちなみに、男性の方が時間の振れ幅が大きい傾向にあります。

理想をいえば、「朝型/夜型」と自分に必要な睡眠量を知った上で、平日や休日を問わずに同じ時間に眠り、同じ時間に起きることです。

…とはいえ、社会的な要請でなかなかそうはいかない。朝に起きる時間は社会的に規定されている人がほとんどですから。

子どもの弁当や食事を用意するために毎朝5時に起きているとしたら、7時間の睡眠を確保するには22時には眠らないといけません。

しかしそれは至難の技です。そんな場合であっても妥協点を知るために、自分を対象にして「何時間の睡眠で足りるのか」を実験してみてほしいですね。

現代日本人の働き盛り世代は寝不足で、みんなが睡眠負債を抱えているといえるでしょう。昼間の過ごし方、電車内での居眠り、あるいは休日の睡眠パターンを見れば一目瞭然です。

いま、寝不足でない日本人は仕事を引退した高齢者世代くらいでは…。実際、現役時に比べて「睡眠時間が延びた」と自己申告する人がほとんどですから。

睡眠負債は「2時間」のズレを要確認

── 「睡眠負債」は、2017年新語・流行語大賞にノミネートされました。どういった状態を指すのでしょうか?

柳沢 :睡眠負債は定義が曖昧で、話す人やコンテクストによって違いがありますが、ここでは毎日の寝不足が慢性的に蓄積した状態とします。

マーカーのひとつとして「早く起きて活動する平日」と「早く起きなくてもよい休日」の睡眠時間の差が2時間を超えたら危ないと思ってください。

── 毎日7時に起きて仕事へ行く人が、休日に目覚ましをかけずに9時や10時まで寝ているようだと、平日に眠れていない睡眠負債を返している状態なんですね。

柳沢:それから睡眠負債の兆候として、「寝付きが妙に良い」というのも問題視すべき点です。

── 「いつでもどこでもすぐ眠れる」なんて豪語する人もいますね…。

柳沢:そう、自慢にならないんです(笑)。普段の睡眠が足りていれば、そんな簡単に眠れるものじゃありません。

寝付くまでの時間を「入眠潜時」といいますが、通常は昼間だと15分から20分かかります。昼間の入眠潜時が8分を切るようだと、睡眠不足を疑います。睡眠不足は「行動誘発性睡眠不足症候群」という診断名の付く立派な睡眠障害です。

問題は、多くの人が慢性的な睡眠不足を抱えていながら、自分自身でその自覚がないことです。

例えば、医師に「イライラする」とか「ミスが多い」「寝落ちする」といった相談を持ちかける患者もいますが、それが睡眠不足のせいだと思っていない。

まずは、うつ病や不安神経症を疑って受診するわけです。医師に指摘され、初めて睡眠不足が原因であることを知るんですね。

大多数の人は、そのままの状態で睡眠負債を抱えて何十年も生きている。これは長い目で見ると非常に良くない。

── どういった点がよくないのでしょうか?

柳沢:慢性的な睡眠不足は、生活習慣病のリスクを高めます。メタボリック症候群といわれる肥満、インスリン抵抗性が高じることによる糖尿病、それに高血圧の組み合わせです。あとは、うつ病も発症しやすくなる。

最近では認知症や癌のリスクも高まるといわれています。認知症と癌については、まだ強固なエビデンスとまでは言えませんが。ただ、専門家はほとんど誰も反対しないほど、生活習慣病や鬱についてはハッキリしています。

「早寝早起き」の呪縛にとらわれるな!

──疾病へのリスクだけでなく、睡眠不足が日中のパフォーマンスを下げることは、体感的にも理解できるところですね。

柳沢:日本人の多くはパフォーマンスが落ちた状態で働いています。「生産性が悪い」と指摘されるのも当たり前です。

ヨーロッパやアメリカでは職場にいた単位時間あたりのプロダクティビティ(生産性)で評価する向きがありますが、日本ではいまだに「何時間働くか」が重視されます。

働き方改革」と言いながら、労働時間を法律で縛る意味が、そもそも僕にはわかりません。 みんなが睡眠不足を解消し、パフォーマンスを上げるには、抜本的にマインドセットを変える必要があるといえるでしょう。

「寝かた」なんて誰も教えてくれません。学校で聞くのは「早寝早起き」くらいですが、そもそも画一的に全員に早寝早起きを推奨するのも、日本の精神主義の象徴といえます。

── 思春期で「朝型/夜型」が切り替わることを思うと、無理が生じていますね。

柳沢: むしろ「遅寝遅起き」のほうがいいかもしれないわけです。

IIISには、ドイツ出身の研究者もいるんですが、日本人が会議中や電車で居眠りをしているのは、ヨーロッパ人の感覚では「病気扱い」だそうです。「調子が悪いなら家へ帰ったら?」と言いたくなると。

それくらい、マインドセットが異なる。実際、ドイツは労働時間あたりの生産性が日本の1.6倍とも言われています。

── とはいえ、睡眠が確保できない日本人が取りうる手段はあるのでしょうか?

柳沢:ナップ(昼寝)の推奨を聞いたことはあると思いますが、たしかに睡眠不足にナップが効くのは事実です。

方法としては、睡眠不足の人ほどすぐに深睡眠に入ってしまうので、15分から20分で切り上げましょう。深睡眠に入ってしまうと、ナップからの「目覚め」がかえって悪くなります。

入眠後すぐにノンレム睡眠があらわれますが、それは3つのステージに分けられます。ステージ1は「まどろみ」の浅い睡眠で、ナップであればステージ2までいけばいい。

その状態が5分も続けば、脳はだいぶ回復します。 ただし、ナップで寝不足が完全に解消されるわけではありませんから、あくまで非常手段です。夜に充分に眠れていれば日中も眠くなりません。

── 「正しいナップのとりかた」もありますか。

柳沢:横になれれば理想的です。難しければ、机に突っ伏すか首枕などを使って、首をしっかり支える。明るいと眠りにくいのでアイマスクを、うるさければを耳栓もした方がいいかもしれません。

── たとえ20分でも、ちゃんと睡眠環境を整えて寝るべきなのですね。

柳沢:例えば、電車の中での居眠りは非常に効果がうすいです。ほぼノンレム睡眠のステージ1までで、ステージ2までいけませんから。

ステージ2になると、抗重力筋の緊張が緩みます。いわゆる「首がガクッとなる」状態ですが、そうなると人間は絶対に目覚めます。自覚的には寝ているようでも、脳波には明らかな「覚醒反応」が起きているんです。

つまり、脳は起きているのだけれど、人間はその覚醒を忘れている=「眠った気になっている状態」といえます。それなら、他のことに時間を使うべきといえますね。

10年後の睡眠のために、昭和的価値観からアップデートする

── 現代人の睡眠不足の深刻さを感じました。では、今後の10年で睡眠はどのように変わっていくでしょうか。

柳沢:まずは睡眠の基礎研究について。我々の脳は起きている間にだんだん「睡眠要求」なるものが溜まっていくことになっているんです。

それを解消するには寝るしかない。休息してもダメですよね。でも、その溜まっていく「何物か」の正体は、実はまだわかっていません。

睡眠は「ししおどし」にたとえられるのですが、一定量の水が溜まると首を振るように、我々は睡眠状態に切り替わります。ただ、ししおどしの「水」に相当するものが謎のままです。

近過去の覚醒量を累積的にカウントしているが、その積分器のメカニズムも、基礎研究の立場からもわかっていない。

睡眠要求の分子的な実体と、睡眠/覚醒を切り替える神経回路のはたらきがどのように結びついているか、この10年でたどりつけたら研究としては素晴らしいですね。ノーベル賞級の成果といえます。

── 私たちが感じている「眠気」の正体が謎のままとは驚きました。

柳沢:生体には、あらゆるフィードバックのメカニズムがあります。例えば、体温、体重、血圧、血液中の塩分量のように、厳密に保たれている。

睡眠もそのひとつのはずなのに、睡眠だけ単純なことが何もわかっていない。基礎研究を深める意義は、大いにあります。

── その成果を元に、より良い睡眠への応用も期待できますね。

柳沢:40年前にオムロンが世界に先がけて家庭用の血圧計を発売したことで、高血圧における診療にパラダイムシフトが起きました。

糖尿病の診療も、現在は血液検査なく血糖値をセンシングできる機器が登場したことで、激変しつつあります。テクノロジーによって、睡眠医学も同様になる可能性はあります。略

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