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四月投句

      兼題  葱坊主 菫 歩く 

葱坊主忘られてのち伸びのびと       ありま茜     
チュ―リップ午後のしじまにすまし顔    粒石
鳴子峡こけしの里に葱坊主          模楽宙     
葉桜や3時間目のチャイム鳴る        雅田如
けだるさもそはそれなりや葱の花      変竹   
朝寝には余りに眩しきすみれかな       粒石
典座炊く粥は真白や葱坊主          変竹        
すみれ咲く街の乙女らはじらわず      変竹    
地平線に行き交うタンカー葱坊主       雅田如
足るを知るくらしに一枝紫木蓮        粒石
三つ四つを菫かざしに奇巌かな        ありま茜   
アウシュビッツ鉄条のほとりの菫かな    模楽宙
すみれ野の野辺の夕べにひとり座し     変竹
菫見つつ歩きくるひと賢治のごと       ありま茜        
行き倒れし人の墓石や野路すみれ       雅田如
すみれ咲くよもつひらさか歩く坂       変竹           
歩みつつ春宵の価を計りけり         粒石
手話の娘の白き指先聖五月          雅田如
旅立ちて歩くは霞む奥の国          模楽宙   
ひたすらにひたすら歩く彼岸の野      変竹
侘助や茶の湯に浮かむ利休と覇者      模楽宙   
ブロンズの漲る臀部夏来る         雅田如 
チャリティのバザーを囃すつばくらめ    ありま茜
世の憂を春風に任せ歩みけり        粒石
生け垣や一輪のいのち白椿         模楽宙      
四月雪秋保あきうのひとはたぢろがず      ありま茜
噛みあわぬ会話のままやバナナむく     雅田如
春蘭の木洩日を抱き灯しけり        模楽宙      
若葉いま東北道を押しのぼる        ありま茜

       
                        
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三月披講

                                  辛夷
      兼題  踏青 春の海 手

  天   ジーパンの破れし穴や青き踏む   雅田如
若い人のジーパンだろう、着古したものか、わざと破いたのか、いずれにしてもその破れに目を留め一句をものした新鮮さがいい。そこからようやく青みがかった若草の息吹がじかに体内にしみこんでくるようだ(ありま茜)

  天   杉の花轟く予感盧遮那仏   模楽宙
いやはやどうも 仰天感服 花轟くとは 花粉症の人ならではの 表現なのか
それにしても 下五との取り合わせが ビミョウというか ゼツミョウというか(変竹)

  天   青き踏むひねもす子等は戯れリ   模楽宙
何の屈託もなく遊び回る子ども達を大人達は目を細めて見守っている。間違いなく時間がゆったりと流れていた頃は、何処にも見かけられる風情だった。時代の変転熄むところを知らずだ(粒石)

  天   春の海人かげろふとる渚   ありま茜
ゆったりと時がながれ地平線を見ていると時間の中に融けてゆく我、すでに自分のようで自分でない世界。自然との一体感は春の海だから味わえる感覚。幽玄の世界に一歩踏み入った感性がすばらしい(雅田如)

  天   春の灯に青踏の余韻を確かめる   粒石
春のゆるやかな灯を見ていると 人々の暮らし方の有様 又 自己の今までの歩んで来し道の様々な出来事が 走馬灯のように浮かんでは消える それは過ぎし日の余韻を味わう如くに心を満たしてくるような....振り返って 自分のこれまでの人生とこの句を照らし合わせたとき 余韻を味わうような境地になれるのか はなはだ心細い限りです(模楽宙)

  地   節くれし手に代々のひな人形   粒石
手の主は 農婦なのか 永年の農作業に鍛えられた手の その上の 雅びな雛さま
代々の農家の暮しの年輪 代々の嫁の語り継ぎ 代々の嬢ちゃまの華やぎの笑い声(変竹)

  地   香道の越前の人春袷   雅田如
越前での聞き香の催しなのか 春袷せの着物に匂いが移り ゆるやかな緊張感 そして周囲の香道具が目に浮かんでくるような奥ゆかしい雰囲気が漂っています(模楽宙)

  地   手をのべて天つかむ児や花の雲   変竹
釈尊誕生を思わせる。手を伸ばした未来が幸せの世であってほしいと祈らずにはおれない。下5の季語がきいている。透明感のある指の先がちょっと赤い、ホッぺも、鼻の頭も、花の色に染まったように(雅田如)

  地   手をのべて天つかむ児や花の雲   変竹
満開の桜の下で幼子が舞い散る花びらを受け止めようと手を伸ばしている。そのふっくらとした手が角度によって蒼天を掴むように見える。輝く未来はきみのものだと思わず頬ずりしたくなる(ありま茜)

  地   老いてなほ気漲らせて青き踏む   変竹
「老いの一徹末だ健在なり」吾も又斯くあらねばと思うことしきりなり(粒石)

  人   手をひろげ大き空抱く春の海   変竹
空は大きいに決まっている。とはいうもののこの句では海のほうが大きいように見える。そう見えるのは他の季節ではない春の包容力ではないか。「海の中に母がいる」三好達治の詩を思い出す(ありま茜)

  人   節くれし手に代々のひな人形   粒石
節くれた手は老父の手であろう。雛人形といえば女性という常識を覆したところが新鮮だ。事情が読めないのが少し難点だが、雛の季節にその場にいない娘あるいは妻を思う心情などが想像される。これが老婦なら当たり前すぎて面白みはない(ありま茜)

  人   小さき鳥の小さき春の飛沫かな   ありま茜
小鳥が 春の野の土を つっつき廻す せわしなく あわただしく 嬉々として
あたかも 春を飛び散らしているごとく 句頭韻を踏んだ調べが春のリズム感を(変竹)

  人   小さき鳥の小さき春の飛沫かな   ありま茜
あたたかい春の陽光を浴びた飛沫が眩しい。やっと春になった喜びの賛歌だ。春の飛沫がすばらしい(雅田如)

  人   一歳の生きる意志とて青き踏む   ありま茜
まだよちよち歩きの子が これからの広い世界の大地を踏みしめて生きて行こうとする喜びが感じ取れる句です(模楽宙)

  人   裏切りの写真切り裂く春寒し   雅田如
押さえ難き激情に身を措く一瞬を見事に詠んだ迫真の一句だ(粒石)

  佳作  地平よりでいたらぼっち春の海   雅田如
こどもの絵本に触発されたもののようだが、作者の中のこども性に惹かれた。いくつになってもこどもの感覚をだいじにせねばと思う(ありま茜)

  佳作  春の海海に散華し友想ふ   粒石
親しい友が海で亡くなったのか、あるいは戦争で命を落した友を偲んでいるのか、春の海を前にした作者の心の動きと目の潤みがみえるようだ(ありま茜)

  佳作  地平よりでいたらぼっち春の海   雅田如
常田富士男さんが語る 日本の民話 丸い山陰から 海をのぞきこんでる大男
いつのまにか 読み聞かせ名人でもある詠者の声に変る むかし昔の その昔…(変竹)

  佳作  夜桜の水の下なる前世かな   ありま茜  
妖しの夜桜 さくらには やはり水が似合う その水底の さらに奥底に眠る
冷たい屍体 それは前世のしかばね それを養分に さくらは妖しく 美しく(変竹)

  佳作  春の灯に青踏の余韻を確かめり   粒石
青春映画のワンシーンを見ているようだ。戯れて裸足で駆けた野原、柔らかな春の香りと、踏み込んだ若草の匂い、素足の君が呼んでいる。青春万歳!(雅田如)

  佳作  踏青や小さき一歩ボランティア   変竹
あと一歩前に出る勇気がなかなかできない、しかし、一歩でると自然とつぎの一歩が出るもんだ。待望の待ちわびていた春を前にして、みんなで始めようよ。作者の心意気が伝わってくる(雅田如)

  佳作  春の海人かげろふと化なる渚   ありま茜
潮の音だけが聞こえる春の温かい渚 遥かに望む人影が 動き揺れている まるでかげろうを見ているような幻想的な句です(模楽宙)

  佳作  小さき鳥の小さき春の飛沫かな   ありま茜
春となり 巣立ちをむかえた幼鳥が 青い空に力を振り絞って飛び立って行く 空中に飛沫をたてている如く羽ばたいて 小さく一点となり消えて行く情景が思われます(模楽宙)

  佳作  手をのべて天つかむ児や花の雲   変竹
緑子に宿った神の啓示ならんか、その無心の所作は如何なる名優を以ってしても及ばない(粒石)            
                                   
      次回兼題   葱坊主  菫  歩く
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ありま茜のスガ目鑑賞

 いちぶ披講がまだですが、生々しいところで『スガ目鑑賞』といきましょう。今月は「三段切れ」「難解句」「勘違い句」と大賑わい。准天地人句もありました。まずはそこから。
◆ 斑鳩や黄金に靄る杉の花/斑鳩の地では嫌われ者の杉花粉でさえ黄金に輝く。「黄金に靄る」という微妙な表現が捨てがたい好句。小生の勘違いで本句を落したのは失態でした。改めて《地》に追加します。◆孫悟空未だ掌のひら昼寝覚/惜しい!今月句随一のアイデアものだが「昼寝覚」は夏の季語。春の季語なら〈天〉でした。やはりその季節で創るのが句会の醍醐味でしょう。ぜひ夏の句としてノートに残されたい◆手のひらの海の青さや春愁/「海の青さ」に「春愁」を重ねた感性は抜群です。ただ掌の海が青いかどうかはチト疑問。例「春愁やてのひらに海の青淡き」みたいな作りをご一考あれ。
 次は三段切れ。◆杉の花轟く予感盧遮那仏/上五「杉の花」中七「轟く予感」下五「盧遮那仏」が各々独立した文章で、相互の関連性も見られません。「三段切れ」は一句の求心力を失い意図が拡散します。これを回避するには五七五のどこかをつなげばよい。例えば「杉の花の轟く予感盧遮那仏」。それにしても難解◆踏青や小さな一歩ボランティア/三段切れに近い?五七をつないで「踏青の小さな一歩ボランティア」又は七五をつないで「踏青や一歩踏み出すボランティア」で佳句に変貌!◆春暁や懺悔の白にインド赤/「懺悔の白」「インド赤」とはいかなる情景か。「春暁」とどう関るか、凡夫の脳では計りがたい。
 次は勘違い句。◆春の灯に青踏の余韻を確かめり/「青鞜」は婦人解放を主張する女性知識人らの別称で18世紀半ば英国で流行ったブルーストッキングの訳語(例:平塚らいてふ『青鞜』)。作者は青鞜をどの意味で使われたか解らぬが、評者は明らかに「踏青」と見誤っています。更に「踏青」と「春の灯」は季重です。季重はどちらかが弱ければ問題ないが、本句はどちらも強いのが難。その他では、◆老いてなほ気漲らせて青き踏む/老いを前向きで捉えて共感。ただ中七が言いづらい?例「老いの気を漲らせたり青き踏む」◆裏切りの写真切り裂く春寒し/「裏切り」の語が生っぽく損◆春の海煙たなびけし汽船かな/「たなびけし」の「し」は過去形で目の前の光景と矛盾。例「春の海汽船の煙棚引ける」棚引く煙を残して遠ざかる汽船、茫洋たる春の海に溶け合って佳句に◆香道の越前の人春袷/模楽宙氏が越前での聞香(もんこう)と想像されて成程と思ったが、「越前の人」との限定が解らず済みません。香道に春袷はよいですね。以上あくまで眇の批評です。御免
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