紫苑の部屋      

観劇・絵画と音楽・源氏物語      
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ろうそく能「葵上」の凄みー神遊自主公演

2008-07-30 00:00:33 | 観劇
ろうそく能、というのをはじめて観ました。
宝生能楽堂の照明がすっかり消え、
笛一つが深々と響くなか、舞台の回りに蠟燭を点していくのですが、
屋外の薪能などと違って、
真っ暗になること、外部の雑音が一切入らなく、
まっすぐの笛の音だけが聞ける、神秘性はこちらのほうに軍配、です。
ただ、蠟燭の明かりだけでは舞台がよく見えない~
と思ったら、舞台だけは照明が灯ったので、ほっとしました。

六条御息所の生霊、般若の面(おもて)はこの舞台で映えました…、
凄みがあり、神懸かり的迫力!
怖くて正視できないような、
小聖の調伏(ちょうぶく)、に頼らざるをえない、
古代の人びとの怖れが分かるような気がしました。
シテの観世喜正の声もよく透ってビブラートがかって、
それらしい表情があるんですね。

葵上といっても
舞台正面に据えられた小袖があるばかり、
病床に伏していることを象徴しているのです。
照日の巫女の梓弓に呼び出された、六条御息所
すでに異様な泥眼の面に
唐織の上衣の下に鱗模様の衿をのぞかせ、
紋の付いた縫箔の腰巻(腰に巻き付けてある)、
破れ車に乗って(実際の能ではそういう登場はしないが)あらわれるその姿は、
現実のそのお人ではなく、やはり生霊なわけですね。
そしてさめざめと泣き<シオリという>、
クドキが入る(どうもこのあたりを<枕の段>というらしい)
御息所は自らを「怨霊」だと名のりをあげる
  われ世にありしいにしえは、
  雲上の花の宴、春の朝の御遊に慣れ、
  仙洞の紅葉の秋の夜は月にたわぶれ色香に染み、はなやかなりし身なれど
と宮廷サロンの華だったわが身が、
このような恨みを晴らさんと出没する羽目に…、
と嘆くのです。
そして  
  あらうらめしや、……思い知れ!
と小袖を打擲し、打杖を放り出す、
ついに、あさましい鬼の本性の姿となってしまうのです。
哀しいけれど、すさまじい形相はなんともしようがない。
<空之祈>(小書=特別演出にあり)となって
御息所は調伏させられる、ということになるのです。
源氏物語では、ここからホントの現世の御息所の苦悩が始まるのですが…。

このろうそく能に先だって、
源氏物語千年紀に合わせて、お囃子だけの「源氏物語組曲」をやりました。
源氏物語の能、4つのなかのさわりの部分を組み合わせたものですが、
じっくりお囃子だけを聴くのもいいものです。
皆同じような節回しなのですが、よく聞くと微妙に変化があるのですね。
節といえるのが笛、鼓3つは拍子、
これらの掛け合いが微妙な協和音と不協和音をつくっていて、
それが西洋音楽と全く別の次元、の音の世界なのです。
笛だけの番組冒頭の「一声」
笛には「アシライ」という間の静寂をつくる独特の役どころもあり、
太鼓が入ると神を呼ぶ、ということなのか、「祈り」になり、
大鼓、小鼓の3つの鼓も間合いの微妙なズレ(この拍子の取り方さっぱりわからない、すっごく修練が必要なんでしょうね)
かと思うと、
この三つの鼓がぴったり拍子を合わせるところ、
そこが最も高揚していく場面と思われますが、
お囃子の<ノット>という場面?
もしかしてこういうところをいうのでしょうか?

このお能のさわりの部分をとって、
「葵の上」という舞踊、あるようですが、
これ、玉三郎がビデオの舞踊全集におさめているんですね。

 08/7/25 神遊第36回公演 宝生能楽堂


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2 コメント

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現と仮 (月うさぎ)
2008-08-15 16:20:48
紫苑さん
秋立ってからのこの酷暑。。。身にこたえます。能の世界は現と仮の対象で描かれているとか。でもこの暑さでは、頭の中は、すべてがぼうっと幻の世界です。
 清里の例の魔女の家に行かれたとのこと。お茶がいただけるのですか。もちろんハーブティでしょうか。
 能の「葵上」。お能は、ずっと昔にお誘いで見たことがあるのですが、どうも良さがわからず。居眠りの世界でした。ですから、歌舞伎と文楽どまりです。
 今年は源氏千年ということで、さまざまに取り上げられていますが、宝塚でも取り上げるようです。宇治のほうです。私はどうもこの宇治十帖が苦手で。。源氏の君の栄華、王朝人の雅の極致が描かれた玉鬘編が好きなのです。
 でも、その宝塚の舞台、今回はご贔屓がどうやら薫君を演じるらしくて。(ただし宝塚版では、匂宮が主役らしいのですが)ですから、また本棚から源氏物語をひっぱり出してこなければと思っています。 
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ホントに今、どこでも源氏ですね (sion)
2008-08-17 23:31:47
どれを選んで行くか、悩ましいです。
講演やイベントも、首都圏でもあっちこっちで行われるようになってますね。

月うさぎさん、
友人から雪組ですか、源氏を演ると聞いてました。
宝塚も昔から、源氏やってますものね。
宇治は、あまりに現代的でびっくりします。そこが好きかどうかですね。

私は観劇はお能まで、
歌舞伎と文楽とお能、それだけで1ヶ月あっぷあっぷです。ブログにアップできないことも…(笑)

お能はあるとき、
ふと今の自分の心情に、ぐっーときました。
萬斎さんの三番叟、と
梅若六郎さんの能(番組忘れました!)を観たときのことです。
それ以来、源氏由来のものは、能がいちばんいい、と思って、観るようにしてます。
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