思考の部屋

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情動について

2018年10月02日 | 哲学

 個性的な俳優の武田鉄矢さんのラジオ番組に「武田鉄矢の三枚おろし」というものがあります。武田さんの人生語りが面白くて時々この番組を聞くことがあるのですが、個人的には用語として使わない「情動」という心理学用語について最近語っていました。

 哲学者信原幸弘先生の著『情動の哲学入門-価値・道徳・生きる意味』(勁草書房)を参考に「情動」についてとても面白い内容でした。

 「情動」という言葉を耳にして快不快の感情的な起伏の動静を意味するのかと思うのですが、

この著は第一章「立ち現れる価値的世界」の文頭から引きつけるものがあります。

 「私たちに立ち現れる世界は、色や音、匂いなどに満ちあふれている。真夏の公園の木陰で涼んでいると、サルスベリの赤い花が見え、池を泳ぐ水鳥の鳴き声が聞こえ、バーベキューの肉の匂いが漂ってくる。しかし、私たちに立ち現れるのはこのような事物の事実的性質だけではない。それに加えて、さまざまな価値的に性質も現れる。・・・略・・・私たちに立ち現れる世界は事実的性質で満ちあふれているだけではなく、価値的性質も満ちあふれている。」

 現象学における立ち現れに向き合った時の表現を見るようで面白い。実存は本質に先立つなどという思考視点とは離れ、事実的性質、価値的性質をそこに感じ取るところがいい。

 個人的に「情動」という言葉は使うことがないといいましたが、一般的な辞書では

 恐怖・驚き・怒り・悲しみ・喜びなどの感情で、急激で一時的なもの。情緒。

などと解説されています。感情の起伏、情緒不安など心の様とも言えそうです。

 信原先生は、この本を書くにあたって「情動」について次のように説明しています。

 魅惑感や渇望感などを含めるためには、情動の範囲をかなり広く理解することが必要である。しかし、快感や苦痛、嫌悪感などを情動に含める場合のように、情動を広く理解することもしばしば行われる。ここでは、情動の範囲を広げて、事物の価値的性質「感じる」という仕方で捉える心の状態をすべて「情動」とよぶことにしたい。

そして、「理性は情動の補佐役」とも言います。そして事故などで小脳の機能を失った人は、情動を失いおとなしい性格になってしまい、物事を行う上の判断能力が落ち、なかなか決定できない人になるとのことで、情動は価値判断とも密接に関係があるとも言います。

 争いごとは理性的に回避したいと思いますが、人はどうしても自分の価値判断を先行させるようで情動を抑えがたくなるようです。

 「悲劇的ジレンマ」の話も実に興味深い。ウィリアム・スタイロンの『ソフィーの選択』を例にそこでくり広げられる母の葛藤、息子と娘どちらを引き渡すか理性・本能が荒れ狂う。結局そこに価値判断で選択された結果が現れる。小説とはいえ凄まじいものがあります。

 武田さんは本当に学ぶ人ですね。


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