詩人 自由エッセー

月1回原則として第3土曜日に、隔月で二人の詩人に各6回、全12回の年間連載です。

第37回 詩の起源に想いを馳せる 川鍋 さく

2020-04-14 21:09:35 | 日記
 学生時代に理系の道を選択していたならば、目指してみたかった職業がいくつかあります。ひとつは、宇宙飛行士や宇宙関連の研究職。もうひとつは、生物学者や古生物学者です。「理系の道を選択していたならば」と言うと、理系に進むか文系に進むか、どちらも捨て難いなと大いに迷ったみたいに聞こえるかもしれませんが、実際は迷う余地などありませんでした。哀しいかな、理系の科目は小学校の段階で早々に躓き、科目自体に対しては苦手意識ばかりが育っていきました。宇宙だとか生命の進化だとか、そういうものへの興味は当時から芽生えていたのですが、目の前の「理科」や「算数」の勉強を好きになることはできませんでした。一方で、文章を書くことや英語など、言葉による表現というジャンルには馴染みが良かった方でした。なので、高校で理系・文系の分岐点がやってきたときは、当然に文系の道を選択しました。
しかし、学生時代を終えてからいっそう、宇宙や生命の進化、生き物の生態などの分野に対する興味が強くなってきました。とくに、宇宙という分野には強く惹かれます。宇宙とはどんな場所なのか、地球はどのように誕生したのか、生命はいつどのように誕生しどのような進化をしてきたのか。そのようなテーマを扱ったテレビ番組がやっていると、ついテレビにかじりついてしまいます。そういう題材の映画なども好きです。それらの分野をしっかり勉強するための基礎をこれから身に付けるのは相当大変なので、今から専門的にその道を目指そうとは思いませんが、おそらく、宇宙に関わる仕事や生物にまつわる研究をする仕事への憧れが、私の中からなくなることはないでしょう。
 
 先日、NHKのある番組で、哺乳類大繁栄の謎に関する話をしていました。
今から約6600万年前、巨大隕石の落下により地球上の大多数の生物が絶滅しました。それまで食物連鎖の頂点に君臨していた恐竜たちも隕石落下の衝撃やその後の環境の劇的な変化に対応できず、次々と姿を消しました。一方で、この巨大隕石落下を機会に、以前よりも爆発的に繁栄したのが哺乳類です。地球誕生のときからからこの巨大隕石落下までの間、哺乳類はネズミのような小型のものしか存在していなかったと考えられているそうです。それが巨大隕石落下後、地球の劇的な環境変化を乗り越え生き延びた哺乳類は、体の大きさ・生態ともに実に多様な進化を遂げ、その種類も爆発的に増えました。この、巨大隕石落下が恐竜絶滅と哺乳類繁栄のボーダーラインであることは以前から分かっていたことらしいのですが、巨大隕石落下を乗り越え生き残り、今日に存在している全哺乳類たちの祖と言えるいわゆる「原種の哺乳類」がどのような生物だったのか、という点は解明されていませんでした。それが近年の研究で、その「原種の哺乳類」のものと思われる化石が発見され、その正体が少しずつ明らかになっていっている、という内容でした。

こういう話題を見聞きするとわくわくがとまりません。6600万年前なんて、想像もつかない程遠い昔のことで、今生きている自分と結びつけるのは非現実的な感覚ですが、自分という生命の原点がその遥か遠い太古に存在することは事実なのです。地球の誕生まで遡って考えれば、私たちの原点は宇宙に存在すると言えるはずです。
そして、このような生命の起源について思いを馳せる時、近頃私はもうひとつのものの起源についても考えます。それは「詩」の起源。詩の起源を探るにはまず文学の歴史を辿ることになるのでしょうが、文学の歴史が生まれるのはおそらく人類が誕生してからのことでしょう。しかし、あくまで個人的な考えですが、「詩」とは文学という枠の中に誕生したものではなく、もっと以前の原始的な時代から存在しているような気がします。一般的に「詩」とは言葉で表現されたものと捉えられますが、私の感覚では、言語表現に限らず音楽・舞踊・絵画など、あらゆる表現の中にその要素が存在しています。そして音楽にしても舞踊にしても絵画にしても、もとを辿れば生物が生命活動を行うために本能としておこなう「表現」に行きつくと考えています。「詩」(詩情)というのは、生き物に「表現」を行わせる源・きっかけとなる、元素あるいは、プランクトンのような目に見えない程の小さな個別の生命体なのかもしれない…なんて、ちょっと飛躍した考えを膨らませています。
ですが実際「表現」という行為が、決して文化的な生活を送る人類だけの特性ではないということは明らかです。むしろ「表現」とは最も自然的で原始的な行為の一つではないでしょうか。言語を用いた表現、声や音を用いた表現、色や形を用いた表現、自らの身体を用いた表現…。その手法こそ違えど、私たちは「何か」を表現せずにはいられなくなる。その「何か」こそが「詩」であるような気もします。もし、その「詩」の起源が、人類の歴史を遥かに遡り、全ての生命体の歴史をも遡ったところに存在するのであれば、詩というものを見つめている今の私は、案外宇宙に近いところに居るのかもしれません。
これは一個人のただのロマンチックな発想の域でしかありませんが、いつかそんな「詩」の起源を、もっと具体的に探すべく調査をしてみるのも楽しそうですね。

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