詩人 自由エッセー

月1回原則として第3土曜日に、隔月で二人の詩人に各6回、全12回の年間連載です。

第10回 ほそいひかりの三々五々(第5回) 夏野 雨

2018-01-10 18:51:53 | 日記
土という文字盤の上まろび出る草木のねむりあたたかく見ゆ




花は不思議である。決まった季節に咲く。木に咲く花であれば、日々の道で、あ、咲いている、そういえばつぼみ、ついていたな、と思ったり、おなじ種類の樹木であっても、こちらはまだ咲いていない、日当たりわるいもんな、と考えたり、見るともなしに目の端に入って、憶えているものだが、ある日きゅうに地面から茎が伸びてきて、ぱっと咲く花もある。サフラン、クロッカス、彼岸花、玉すだれ、そういうのは、たいてい球根である。たまねぎみたいな、ロケットみたいな、あの玉のなかに力をためて、ぐぐっと伸びるのだ。そういえば、花というか胞子だけれど、ツクシというのもある。こちらは球根ではなくて、はりめぐらされたスギナの包囲網・根を足場に伸びる。スギナとツクシの関係は竹とタケノコのそれに似ている。


暁に砕かれつつある薄氷を宿したままでクロッカス咲く




福岡に、フタタの時計というものがある。銀座和光の時計、というほど有名ではないが、イメージは近い。福岡市内でおそらく一番の繁華街である天神に、フタタビルというビルがあり、そのビルの一番上に、シンプルな、針だけの時計があるのだ。黒い外壁と、ガラス張りの特徴的なビルで、通りかかるたび、モノリス、と思って見ていたが、ある日その時刻がおかしいのに気付いた。かなり遅れていたのだ。そのときは、たまたまのこと、と思って気にとめなかったけれど、何週間かして通りかかったとき、こんどは正午をさしたまま、ぴったりと止まっていた。そうしてまたしばらくのち、通りかかったら、こんどは針さえもがなくなって、中央のピンだけになってしまっていたのだ。それはもはや時計とは呼べないのだけれど、もうないとわかっていても、ついなんとなく見てしまうのは、そこに時刻があった、という身体感覚/街の感触を、生きものとして確かめずにはいられないということかもしれない。


針のない時計のピンに留められたさまざまな僕さまざまな君





壁たちに守られている人のうち森閑として道だけつづく




庭に咲く花が好きで、散歩をしていると、つい見てしまう。なので知らない住宅街を散歩するのが好きである。道にはみだした木の種類や、大きさ、そもそも庭や木が植わっている部分があるかどうか、壁の風化具合、などなどで、その住宅街自体がどのくらいの年齢なのか、ぼんやりと考えたりする。新興の建売住宅街などができ、だいたい同じ年齢層の人々が移り住んできて、年をとり、だいぶ時間が経って、空き家ができ、壊され、あるいは放置され、ところどころ新しい家が建ち、というふうに、住宅街のなかでもわりと年をとった住宅街のほうが見ごたえがある。住宅の年齢図鑑のなかを歩いているようである。昔の県営団地(団地といっても一戸建てである)などがいいのである。そういったところは随所に謎の公園などがあり、週末の昼日中などはたいてい誰も遊んでいなし、人がいたらむしろびっくりする。むろん店もほとんどない。そんな町にフラっと行って、入っていいかどうか迷いながら、薄暗い駄菓子屋の軒先を覗きたい。





散歩をしていると、みたことのないものに出会う。たいがいのものは忘れてしまうが、あるときふと思い出して、以前にも見たな、と、おもいかえすことがある。記憶のピンがなにかを勝手に留めているのだ。いつか息を吹き返すかもしれない、わたしたちのかかえた球根。





埠頭までゆく。船は軽々と日常を越えてゆく。まぶしさに似たなにかを、壊さないように歩く。








 時計草

やむなく天神三丁目
フタタの時計が止まってるから
てっぺんをさしたまま
ぴくりとも動かない
いっぽんあしなんだってね きみ
からかさおばけのことは
内緒にしておけよ
その長い舌で巻き取るのは
われら悲哀や倦怠の
縒れた紙片の軽い音
重々しいコートなんか
着たってだめさ
ハテナ軍服 浪曲うたい
和傘ひろげてぼんぼんぼんと
中洲の土手の金魚をすくい
ブラジレイロの二階にのぼった
ちいさい花なんだってね きみ
八十四年前の待ち人の
ふりをして花瓶にすわった
砂糖壷 変わらないねえ
僕はすこし 胃弱になった
ミンチカツレツが来る前に
水を飲むよ やあ この後
活動に行こう いまなら軟弱弁士もかくや 
ゆとりならではの
のっぺり ででんと弁舌をふるう
かたつむり弁士 登場でござる
ででんでんでん
頭の上に 花が咲いた
ああっ これは時計の パッション
時計草 ででん
パッションフラワー
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