「詩客」今月の自由詩

毎月実行委員が担当し、その月に刊行された詩誌から1篇の自由詩を紹介します。

第13回 ひとりごと・春野たんぽぽ 森川 雅美

2018-06-13 09:38:10 | 日記
 「Lyric Jungle」は大阪で長く独自の活動を続ける詩誌だ。今回は2018年5月20日発行の同誌24号から自由詩を取り上げる。

 ひとりごと

 春野たんぽぽ

  なめらかな肌が
  押し寄せて
  光の中よりも淡い
  肌色の世界に私を誘う

  死んだ骨はどうなるの
  と幼いあなたが聞くから
  私は仕方なく
  骨壺の中の潰された灰を掬い、
  あなたの頭に
  慎重に降り注いであげる

  片栗粉になるの
  あなたはうれしそうに笑う
  
  青年になったあなたは
  街を持っている
  あなたは街を握り、
  揺らし、
  朝が来るのを待っている
  果てるのを待っている

  見つめる私は街を持っていない
  仕方がないから
  私は掃除機になって
  吸引力だけ強くする
  でもこの掃除機を
  使うことはない
  私はあなたを見ているだけ
  絵日記を描いているだけ

  この夜にも朝にも
  私をあなたの青春を
  この絵日記に閉じ込めようとしている

  生産性のないあなたの清純が
  たぶん世界で一番きれいだから
  


 何か不思議な面白みのある作品である。まず書き出しが、「なめらかな肌が/押し寄せて」と不思議な始まりであり、次の行でそのイメージを定着させる。「」は「肌色」に移行し作品が滑り出す。そのあとには1行あけ、他者とも内面ともつかぬ声が挿入され、「肌色」は「」「骨壺」へとイメージを広げる。
 その後も読者の予想を裏切る展開が続き、イメージも「片栗粉」「」「掃除機」と迂回と曲折を繰り返しながら移行していく。「あなたはうれしそうに笑う」や「朝が来るのを待っている」などの散りばめられた言葉も魅力的で、語り手の「」と語られる「あなた」は常に重なり往還する。
 結びも、「生産性のないあなたの清純」という言葉が特に効き、印象的に決まり「きれい」が鮮やかに拡がる。そこに描かれるのは、ぎりぎりのいまを楽しく生きようとする、現在のひとつの肖像だ。拾い物の1篇である。
 


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