「詩客」俳句時評

隔週で俳句の時評を掲載します。

俳句評 近所の和菓子屋のチラシから見る歳時記  そらし といろ

2014年10月19日 | 日記
<和菓子屋 秋の新米祭り>
10月17日(金)~10月18日(土)
●からみ餅/あんこ餅/きなこ餅
●みたらし団子/あん団子
●赤飯/山菜おこわ
●栗饅頭/かりんとう饅頭
●大福/どら焼き/スイートポテト
※その他、当店自家製の商品を多数ご用意しております。※


 我が家の郵便受けに、このような広告が入っていた。近所の和菓子屋が、秋に入って入荷した新米でおこわや餅を作ったそうだ。和菓子屋だから、この場合の新米は、もち米の割合が多いかもしれない。つきたての柔らかい餅、おこわの炊けた良い香りを思わず想像して、おなかが鳴る。
 と、グルメリポートでも始まりそうな書き出しだが、私は真面目にこれらの言葉から、(これは俳句のエッセイのネタになるのでは?!)と思ったのだ。ちょうど、この原稿の締切が近づいていた時に舞い込んだ一枚の広告が、ネタ出しに困っていた私を救ってくれた。
 ところで、私自身は本格的に俳句を作っている訳ではなく、単に、俳句を鑑賞するのが好き、下手なりに俳句を詠むのが好きという程度で、きちんとした俳句の知識があるわけではない、俳句初心者だ。ちょっと俳句に興味があって、乏しい知識なりに俳句に関して思ったり、考えたりしたことを、エッセイとして書いている。
 
 そんな俳句初心者の私が所持している歳時記は下記の二冊だ。
●『ハンディ版 入門歳時記』大野林火(監修)/俳句文学館(編)/角川学芸出版
●『デジタル大辞泉』「分野別小事典/歳時記」/小学館
 角川学芸出版の方は紙の歳時記で、小学館の方は電子辞書に入っている電子の歳時記だ。
 二冊とも“歳時記”だが、収録されている語数が違ってくる。広く一般に、これは誰が見ても季語だというものは大抵、どの歳時記にも収録されているだろう。その他の季語は、歳時記の編集方針によって変わってくるのだと思う。
 『ハンディ版 入門歳時記』は「序」にて大野林火さんの言葉が下記のように掲げてある。
 “各編纂委員は各自の豊富な実作経験を生かし、何回も会合を重ねてこの作業に当り、現代生活に密着している季語約八百を選んでくれた。これだけあればまず以て日常の作句に不自由はない。
 大野林火さんによれば、約八百の季語があれば日常の作句には十分足りるということだ。しかし、小学館の電子辞書に入っている歳時記には、『ハンディ版 入門歳時記』には載っていない季語も含まれており、おそらく、電子辞書版の歳時記の方が収録語数は多い。
 私が歳時記を買う時に、何に注意して選んだかを思い出してみる。本屋で色々な歳時記をめくってみて、私は俳句初心者だから、単純に季語がたくさん載っているだけではなく、季語の解説が丁寧に書かれているものを選びたかった。また、季語に対する例句の引用も、なるべくたくさん欲しいと思った。総索引や季語の一覧表が使いやすいものが良い。その結果、上記の歳時記を購入した。もし、俳句初心者の方で歳時記を買ってみようと思っていらしたら、自分がどのような歳時記が欲しいのか、メモに書きだしてから、いくつかの歳時記を見比べてみると良いと思う。

 さて、冒頭の<和菓子屋 秋の新米祭り>に話題を戻す。
 (秋の新米、そうだよな、実りの秋にお米は収穫されて、新米の名前で呼ばれる。新米ってもしかして:秋の季語?)
 という発想から、この広告には一体、いくつの季語が隠れているのかを分析したくなったのだ。

●分析の方法
1・広告に表記された言葉、メニューを分解し、季語になりそうな言葉を探す。
例:からみ餅=大根と醤油をからめた餅→季語らしき言葉:大根、醤油、餅
2・季語になりそうな言葉を私が所持する二冊の歳時記で調べる。
例:大根……季節・冬、分類・植物(角川)(小学館)
  醤油……調べた結果、季語ではない。
  餅 ……季節・冬、分類・生活(角川のみ)
※両方の歳時記に記載されている場合は(角川)(小学館)と記し、片方のみに記載されている場合は(●●のみ)と記す。※

 このような方法で、とにかく季語になりそうな言葉を探して、調べる遊びを開始する。また、基本的に季語の解説は省くことにするが、必要な場合は歳時記より引用する。

●<秋の新米祭り>→季語らしき言葉:秋、新米、祭り
・秋 ……季節:秋、分類・時候(角川)(小学館)
・新米……季節:秋、分類・生活(角川)(小学館)
・祭り……季節:夏、分類・行事(角川)(小学館)→“夏季に行われる神社の祭礼を総称して「祭」と呼び、夏の季語になっている。夏祭という言い方は一般には使われるが、季語としては重言といえる。春や秋の祭りは「春祭」「秋祭」として季語となっている。
”(角川)

 なるほど、歳時記の中では「祭」=「夏祭」なのか!もし、春や秋の祭りとして使う場合は、「春祭」や「秋祭」と表記する必要があるんですね。

●あんこ餅=あんこ、つまり小豆を甘く煮詰めたものをからめた餅→季語らしき言葉:小豆 ※餅は例にて調べたので、ここでは省略する※
・小豆……季節:秋、分類:植物(小学館のみ)

●きなこ餅=きなこ、つまり大豆を粉にしたものをからめた餅→季語らしき言葉:大豆
・大豆……季節:秋、分類:植物(角川のみ)

 小豆は小学館のみ、大豆は角川のみの記載となっている。これは編集方針の違いからだろうか。

●みたらし団子=「御手洗」の「団子」なのだろうか→季語らしき言葉:御手洗、団子
・御手洗  ……季節:夏、分類:行事(小学館のみ)→御手洗会(みたらしえ)の略
・団子   ……季語ではない。
・御手洗団子……季節:夏、分類:行事(小学館のみ)→“京都の下鴨神社の御手洗会の時に茶屋で売られる。”(小学館)

 まさか、みたらし団子そのものが季語だったとは!私の中で最大の発見と話題に。

●あん団子→“あんこ餅”の「小豆」を参照してください。

●赤飯=小豆を炊き込んだ赤い色のご飯→季語らしき言葉:赤飯
・赤飯     ……季語ではない。
 追記※赤のまんま……季節:秋、分類:植物(角川)(小学館)→“秋に紅色の穂をつけるタデ科一年草の犬蓼のことで、赤のまま・赤まんまともいう。花穂を赤飯になぞらえた名である。”(角川)

 「大豆」を角川の歳時記で引いた時に、隣のページに「赤のまんま」の解説があり、“赤飯になぞらえた名”とあったので、追記しました。赤飯そのものは季語ではないけれど、おままごとで子どもが犬蓼の花を赤飯に見立てて、赤いご飯として遊んでいるのは、自分にも覚えがあるような。

●山菜おこわ=山菜を炊き込んだおこわ→季語らしき言葉:山菜、おこわ
・山菜  ……季語ではない。
・おこわ ……季語ではない。
 追記※栗飯……季節:秋、分類:生活(角川)(小学館)

 新米の季節、秋には混ぜご飯のメニューも多いので、ふと思い浮かんだ“栗ごはん”は季語になるんじゃないかと思って探してみました。季語の場合、「栗飯」という言葉になるんですね。

●栗饅頭=栗の実が入っている饅頭→季語らしき言葉:栗、饅頭
・栗(実)……季節:秋、分類:植物(小学館のみ)
・饅頭  ……季語ではない。

 角川では「栗名月」「栗飯」「栗の花」は季語として載っていますが、何故か、「栗」そのものは載っていませんでした。「栗名月」は秋、「栗の花」は夏の季語です。

●かりんとう饅頭=かりんとうのように油で揚げた饅頭→季語らしき言葉:かりんとう
・かりんとう……季語ではない。ちなみに漢字表記は“花林糖”でちょっと可愛い。

●大福=白い餅であんこをくるんだお菓子→季語らしき言葉:大福
・大福……季語ではない。

●どら焼き=銅鑼の形を模した皮にあんこを挟んだお菓子→季語らしき言葉:銅鑼
・銅鑼……季語ではない。ちなみに鐘の“ゴング”を日本語にすると“銅鑼”。

●スイートポテト=材料にさつまいもを使った焼き菓子→季語らしき言葉:さつまいも
・さつまいも……季節:秋、分類:植物(角川)(小学館)→正確には「さつまいも」ではなく「芋」という季語の仲間「甘藷(かんしょ)」として、角川には記載されている。
単に芋といえば、俳句では里芋を指すので注意を要する。”(角川)“野生の芋の意味で名付けられた山芋をはじめ、芋の仲間には他に馬鈴薯(じゃがいも)・甘藷(さつまいも)・自然薯(やまのいも)・※ナガイモ・何首(かしゅ)烏(う)芋(いも)などがある。これらは単に芋とせず、それぞれ具体的に句に詠みこんで秋の季題とする。”(角川)※“ナガイモ”は 難読漢字で表記。

 さつまいもは甘い芋、つまり「甘藷」として「芋」という季語の仲間なんですね。ちなみに、さつまいもを焼いた「焼き芋」は冬の季語です。

<今回見つかった季語の一覧>※追記を含まない※
大根/餅/秋/新米/祭/小豆/大豆/御手洗会/御手洗団子/栗/さつまいも



 いかがだろうか。たった一枚の、ごくごく小さな和菓子屋の広告だが、季語に繋がる言葉がこんなにもあった。また、歳時記によってある季語が収録されているか、いないかの比較にもなったと思う。たった2冊でしか比較していないが、意外と差が出たので調べながら勉強になった。
 とくに、「みたらし団子=御手洗団子」が夏の季語だったとは、小学館の電子辞書版の歳時記で見つけた時にびっくりした。ダメはもともとで、探してみるものである。
 季語ではない言葉もあったが、歳時記によっては載っているのかもわからない。もしかすると、「さつまいも=甘藷」のように、同じ意味で別の言葉に置き換えられている可能性もある。まぁ、載っている可能性は低いと思われるが……。
 日本人は、季節の変化に敏感だから、たくさんの季語が生まれるのだと思う。どんな時代になっても、私は季節に敏感でありたい、と思いながら、和菓子屋で買ってきた栗饅頭を祖父の仏壇へ供えた。おじいちゃん、今年も実りの秋がやってきました。

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