「詩客」自由詩時評

隔週で自由詩の時評を掲載します。

自由詩評 詩ではよく白い花が咲く 久真 八志

2018年10月22日 | 詩客
〈今回の内容〉
・計量テキスト分析によって、自由詩でよく使われる語が、短歌のそれと異なることがわかった。
また、登場頻度の高い語のなかで用いられやすい組み合わせがあることもわかった。
・自由詩と短歌において、名詞、動詞、形容詞それぞれの登場頻度を集計し順位付けした。自由詩と短歌で順位の大きく異なる語が複数あった。
・自由詩でよく使われる語について共起ネットワーク図を作成し、よく用いられる語の組み合わせを可視化した。


〈1〉 はじめに
今回は自由詩で用いられる語彙に、短歌と異なる傾向がみいだせるか、みいだせる場合それはどのような傾向かを調べたい。
方法は前回の評と同じく計量テキスト分析を用いる。(手法についての詳しい説明は前回の評を参照のこと)

自由詩作品のサンプルデータとして、詩客に掲載された自由詩作品を用いる。詩客の開設当初から現在までの296作品が対象となる。サンプル数が少なく調査対象の偏りもあるため、本データをもって現在の自由詩全般を概観するとはいえないが、一端の傾向を示すものとはいえるだろう。
自由詩との比較対象ジャンルとして短歌を選んだ。理由は、現在私が利用可能な大量の作品データが、短歌のものだからである。短歌のサンプルデータとして「闇鍋」に収録の短歌89759首を用いた。
※闇鍋とは高柳蕗子氏を中心として編纂されている短歌のデータベースである。短歌の代表データとして使用する目的では作成されてはいないため、予期しない偏りが含まれる可能性がある。

〈2〉 名詞
自由詩において登場頻度30位以上の名詞と、それらの語の短歌での順位を示したものが次の表である。さらに順位の差も示した。
短歌より自由詩での登場頻度が高く、差が5ランクを超えるものは赤字で示し、逆は青字で示している。つまり、赤字で示した語は自由詩で短歌よりも多く登場する語のうち、差が大きめのものである。青字の場合は、登場順位が短歌よりも少ないもので、その差が大きめのものである。
赤字、青字の語の存在からも分かる通り、自由詩で用いられる名詞は、短歌で用いられるものとは異なる傾向がある。



その主な特徴をまとめると以下のようになる。
・「音」「声」など音声を示す語が多く使われる
・「光」「影」「闇」など、光にまつわる語群も多い
・「目」「耳」「足」「顔」などの身体を表す言葉が多い
・「雨」「雪」などの気象をモチーフにすることが短歌よりは少ない

〈3〉 動詞
今度は動詞について、同じく上位30位までをまとめた。



・「思う」「言う」「見える」は最上位の登場頻度であり、短歌と顕著な差がある。
・自由詩では「歩く」「走る」が多いのに対し、短歌では「立つ」が多い。
・「消える」「生まれる」は対となる語であり、どちらも多く登場する。一方で短歌では「出る」「行く」の方が多い。何かの出現や消失を描写するとき、自由詩では存在が生じたり無くなったりするように描き、短歌ではある場所にやってきたり去ったりするように描写するといった違いがあるのかもしれない。だとすれば、短歌の場合、一人の人間の視点で描写することが多い点が関係しているだろう。対象が現れたりなくなったりするさまが、主体の視界に入ったり出ていったりする描写を通して表現されているのだ。この世界になかったものが生成したり、あったものが消失したりしたものか、一人の人間の視点で把握する機会はすくないはずだ。一方で自由詩の場合、語り手は必ずしも一人の人間に限定されない。人間ではない誰かかもしれないし、三人称として記述する場合もあるだろう。よって生成や消失を、一つの事実として語りやすいのだろう。


〈4〉 形容詞
形容詞については他の品詞に比べて数が少ないため上位18位までを示した。



・「冷たい」「新しい」「大きい」「薄い」「細い」などが多い
・色を表す語で「白い」「黒い」「赤い」はほぼ同順位なのに、「青い」だけが短歌より少ない

〈5〉 語同士の関連性
ここまで出た自由詩での登場頻度上位30位の名詞、動詞、形容詞(上位18位まで)の段落単位での共起ネットワーク図を以下に示した。
この図では、単語Aが登場する際に同じ段落に単語Bが登場している率が高い語同士が線でつながれている。つまり、同時に使われることが多い語同士のつながりを可視化したものである。



以下のことがわかる。
・名詞で多かった身体の表現では、それぞれ関連付けられやすい語が異なる。「足」や「指」は「長い」との共起が強く、これらの身体部分の「長い」さまが描写されることが多いものと推定できる。「耳」はやはり登場頻度の高い「音」を知覚する器官として登場しているだろう。「顔」は「美しい」あるいは(何かに)「似る」ものとして登場する。
・形容詞「白い」は特に「花」の描写に使用されていることがわかる。

これらの語の組合わせが多い点は、自由詩に特有の傾向といえる。

〈6〉 まとめ
計量テキスト分析によって、自由詩でよく使われる語が、短歌のそれと異なることがわかった。
また、自由詩において登場頻度の高い語のなかには、よく用いられやすい組み合わせがあることもわかった。
自由詩で用いられる語彙には、他のジャンルと異なる傾向がみいだせること。またその傾向について知ることができた。



///久真 八志(くま やつし)///
1983年生まれ。
短歌同人誌「かばん」所属。
2013年「相聞の社会性―結婚を接点として」で第31回現代短歌評論賞。
2015年「鯖を買う/妻が好き」で短歌研究新人賞候補作。
短歌評論を中心に短歌、川柳、エッセイその他で活動中。
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