サンフランシスコのLuggage Storeに足を運んだ(2019/1/10)。
ここではサックスのレント・ロムスが定期的にインプロのキュレーションを行っている。周辺はホームレスが多い地域であり、また雑然としていてどこが入口がわからない。ロムスにメッセンジャーで訊くと、いやドアには鍵はかかっていない、と。いやそういう問題ではなく、近くの店で道を尋ねてうろうろしていたら、ロムスに頼まれたのだろう、あとでプレイしたホルヘ・バックマンが道に出てきてくれた。
この日はロムスはプレイせず、キュレーションと受付とMCのみ。
■ Usfruct
Usufruct:
Polly Moller Springhorn (fl, vo)
Tim Walters (laptop, processing)
Usufructはポーリー・モーラー・スプリングホーンとティム・ウォルターズのデュオである。
ポーリーは2種類のフルートに加え、奇妙に具体的でもある詩を朗読し、叫び、呟く。「学校から家に帰ったら、病院はどうなっているの?わたしの人生はなんなの?」、「家に行った、ガスステーションに行った、道路に出た」などと。
ウォルターズはフルートの高い音、低い音、ヴォイスを加工し、撒いていく。それは現実に近いだけなお悪夢的で、またそれゆえに心にざわりと触る感覚のサウンドを作り上げた。かれはときに「And a bread, and a cheese, and a bread, and a cheese,...」と、また「I will, and she will, and I will, and she will, ... and she went bad」と、ぼそぼそと呟き、さらに悪夢感を増幅させる。最後はウォルターズの「I got over, I got over」という謎の言葉で締められた。
生きることのおぞましさと生きていく力とが示されたようなものに思えた。
■ Thruoutin/ruidobello
Brad Seippel, Jorge Bachmann (modular synth, pedals, computer)
ブラッド・セイペルとホルヘ・バックマンとによる電子サウンドのデュオ。
背後には住宅街の風景が映し出されている。途中で気が付いたのだが、それは動画であった。ときおり鳥が飛び、道路をクルマが走っている。サウンドはミニマルな繰り返しでありながら、多方向から現実世界とも何ともわからない波動が攻めてきて、もはや自分たちがどこにいるのかという認識をぐらつかせる。
そして画面は次第に明るくなってゆき、こちら側とのスクリーンがあることを意識せざるを得なくなってゆく。このあたりの現実の遮断とも現実の取り戻しともつかないものは、安部公房『方舟さくら丸』の最後の反転を思わせた。
バックマンと話すと、渋谷だとかスーパーデラックスだとか東京に妙に詳しい。台湾も含めて来たことがあるそうで、この10月(2019年)にもまた来日する予定だという。