台北のレコード店・先行一車は噂通り素晴らしい場所だった。以前に東京のライヴハウスで知り合ったI-Cheng Linさん経由で話が伝わっていたようで、初訪問のとき店主(なのか?)の王啟光さんに、あああんたかと言われてしまった。確かに品ぞろえが面白いし、いろいろな人が出入りする。インプロにすごく詳しいJan-wen Luさんともお会いできて、いろいろと珍しい盤を見せてくれた。
ここに集まる人たちの企画で、地下道でギグをやるという。辿り着く自信もないし、先行一車に集まって一緒に車で出かけた。はじめは誰が演奏者で誰がリスナーなのかわからない。
以下、演奏順に。(I-Chengさんが背景などあとで教えてくれた。)
■ Dino
No-input electronicsを使う。台湾にアヴァンギャルド音楽が入ってきた1990年代半ばには高校生であったようだ。ヴェテランらしく、シートに広げたエレクトロニクスを淡々と扱う。地下道という効果もあるのか、いきなり音があちこちから聴こえてきて頭がくらくらする。
■ Lala Reich
石塚俊明や富樫雅彦を好むというドラマー。3年前から活動をはじめ、今回がはじめてのソロだという。
小さな音をとても大事にしていることが伝わってくるし、それだけに大きな音で鳴らすときにそれが際立つ。櫛を使ってシンバルを擦ったりもした。静かな集中のためか、時間の経過を忘れてしまう演奏だった。
■ Jyun-Ao Lin
4年前にパリから帰国してから、実験的な音楽を追求している。ミュージック・コンクレートの影響を受け、また大友良英グランドゼロや灰野敬二を愛聴しているという。ギターを弾きながら前後に大きくステップして動き、足で獲物を狙うかのようにエフェクターを扱う。サウンドがカラフルになった。かれの動画を観るともとよりそのスタイルのようだが、この日は地下道全体をサウンド創出に使っていることになった。
■ Chia-Chun Xu
高校生の頃からノイズをやっているらしい。エレクトロニクスでの拡がりのあるサウンドが伝わってきて、その多層性がとても良い。工事用コーンを片手で使いサウンドに変化を付ける、そのアナログ操作も効果的だった。
■ IC Jean
ギターを横に寝かせ、エレクトロニクスとつないで音響発生器として使う。Jyun-Ao Linをリスペクトしており、これがライヴ3回目だそうである。ユニークなアプローチゆえ、サウンドがシンプルになったこととあわせて変化が生まれた。
■ Shao-Yang Xu
香港出身、現在ロンドン在住。気さくな人で、演奏前後にあれこれと話した(わたしの業界とわりと近かった)。新潟に在住していたこともあるそうだ。また、マヘル・シャラル・ハシュ・バズのメンバーだったこともあるという。ロンドンのCafe Otoでは10回近く演奏したことがあり、また結婚式もそこで挙げたんだと笑った。
かれは地べたに座り、Lalaのドラムス、Jyun-Ao Linのギターに指示しながら、マイクを口の近くに近づけて両手で覆い、ヴォイスをさまざまに変化させる。リストを見せてもらうとベートーヴェンもバッハも入っている。とは言え曲の流れだとか周辺の空気感だとかいったものが溶解してゆき、朦朧とさせられるサウンドとなっている。面白い。
こうして演奏が続くうちにどんどん人が増えていく。東京だってここまで集まることはないかもしれない。王さんは月桂冠をラッパ飲みしてはこちらに手渡してくる(翌朝発つから控えていたのに)。やはりコミュニティの力というものは強い。このような音楽ならばなおさらのことだ。
Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4