Sightsong

自縄自縛日記

小田ひで次『ミヨリの森』3部作

2009-05-15 21:16:30 | アート・映画

一昨年にテレビアニメ作品として放送された『ミヨリの森』。随分と評判が悪く、貶されたものをあえて誉める人が少ないためか、右に倣えの雰囲気だ。私は傑作だと思ったし、無駄な土建工事から森を護るというメッセージも、その森や人間にあるアニミズム表現の独創性も素晴らしいものだと考えている。確かにサインペンで描いたような絵は好き嫌いがあるだろうし、勧善懲悪的なストーリー展開が気に入らない人もいただろう。しかし2時間という制約、テレビでの広い視聴者層という制約のことを考えれば、まったく悪くない。


主題歌に使われた元ちとせのアルバムのおまけのシール

漫画の原作を読んでみたかったので、思い出した機会に入手した。小田ひで次『ミヨリの森』、『ミヨリの森の四季』、『続・ミヨリの森の四季』(秋田書店)の3部作になっている。このうちアニメ化されたのは1冊目のみだった。家庭事情の影響でひねくれてしまった都会っ子・ミヨリが森のある村に移り住み、精霊たちを見ることができるばかりか、自分が森の守り神であることを知る。そしてダム建設計画を知り、阻止するため、絶滅危惧種のイヌワシを探し、環境影響調査を偽装する業者たちを精霊たち、他の子供たちとともに追い出す。

2冊目は、しばらく村に住みたいと思うミヨリが体験する夏と初秋。以前の自分をみるような閉じこもった子どもが村にやってくる。その子も精霊を見ることができるのに、そんなはずはないと否定している。3冊目は冬と春。こんどはネイティブ・アメリカンの親子がミヨリの祖母(以前の森の守り神)を尋ねてくる。

何だか段々と話が妙な方向に発散していくようだが、どれも魅力的である。単なる自然、里山賛歌になっていないのが特筆すべきところ。つい繰り返して読んでしまうのは、ネチャネチャギシギシとしていた皆の心の中が、森の生活という毎日のプロセスの中でほろほろと解きほぐされていく様子が描かれているからだ。細くかすれたペンで描いたような繊細な絵は、サインペン的なアニメ版とは全く異なる。

読んだあと、あらためて録画しておいたアニメ版を観た。印象は以前と変わらない。

ところで、3部作のそれぞれの巻末に、作者による参考文献が掲載されている。ソロー『森の生活』とか宮脇昭『木を植えよ!』などはわかるのだが、なぜ、つげ義春『李さん一家』が含まれているのだろう?(笑)

●参照 そこにいるべき樹木(宮脇昭の著作)