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前庭感覚


前庭感覚


シリーズ: 講座 感覚・知覚の科学 3

聴覚・触覚・前庭感覚


内川惠二 総編集・編

URL : http://yaplog.jp/sibahara/archive/403


5 前庭感覚

5.1 前庭感覚による自己定位メカニズム


P178より


5.1.1 前庭感覚による自己運動感覚

 われわれは、自分自身の運動、すなわち自己運動の速さと方向を知り、自己運動感覚のメカニズムを通して、平衡感覚・方向感覚・運動感覚をもつことができる。感覚システムに備わった自己運動感覚のメカニズムは、前庭感覚系・視覚系・聴覚系・触覚系・身体運動感覚系などの複数の感覚系からの情報を受け取る感覚統合システムであるが、自己運動感覚のメカニズムの基本となっているのは、内耳にある前庭感覚系である。ここではまず、前庭感覚系による自己運動感覚のメカニズムについて述べる。

太古の水生動物は、液体の詰まった穴のなかに感覚毛に覆われた細胞が入った原始的器官をもっていた。この器官は、外界の変化や自己の運動によって引き起こされる液体の運動に反応するものであり、それが進化したのが人間の前庭感覚系と聴覚系である。

 人間の前庭感覚系の構造を図5.1に示す。前庭感覚系は自分自身の回転運動、すなわち自己回転運動を検知する半規管と、自分自身の直線運動、すなわち自己直進運動を検知する卵形曩・迷路小曩からなっている。前庭感覚系からの情報は大脳皮質頭頂野の前庭感覚野に伝えられ、自己運動の感覚を引き起こす。


図5.1






















 自己回転運動の検知器である半規管の構造を図5.2に示す。半規管は内リンパ液に満たされた円環状の管である。半規管と卵形曩との結合部の一端に、多毛感覚細胞からなる感覚上皮を内蔵する膨大部稜がある。自分自身が回転運動すれば、頭が回転し、頭の回転によって、内リンパ液の流動が引き起こされる。その内リンパ液の流動が、膨大部稜の頂上部の多毛感覚細胞を刺激する。これが、半規管が自己回転運動を検知するメカニズムである。


図5.2



















P180より

 図5.1に示すように、半規管には、互いに直行する水平半規管・前半規管・後半規管があり、これらが組み合わされて三半規管が構成されている。これらの半規管は、それぞれ垂直・水平・回旋の3軸のまわりの回転運動に反応している2)。これらの回転運動はそれぞれyaw、pitch、rollと呼ばれる。

 自己直進運動の検知器である卵形曩・迷路小曩は、図5.1に示すように、三半規管の結合部にある内リンパ液に満たされた袋である。これらは、平衡班と呼ばれる感覚上皮を内蔵している。平衡班は多毛感覚細胞からなり、そのすべての毛は平衡石と呼ばれる方解石の結晶を含むゼラチン状の液体に向かってつき出している。

 平衡石の移動が多毛感覚細胞を刺激する。平衡石の移動が引き起こされるのには、2つの原因がある。その第1は、自分自身の直線運動、すなわち頭の直線運動の速さと方向の変化である。その第2は、重力である。頭を重力の軸に対して傾けたときに、その角度に応じて卵形曩・迷路小曩の反応が変化する。

 自己回転運動を検知する半規管の場合と同様に、卵形曩・迷路小曩によって頭の直線速度が検知されるが、多毛感覚細胞そのものは頭の直線加速度に反応するものである3~5)。図5.3に卵形曩・迷路小曩の構造を示す。卵形曩はほぼ水平面内、迷路小曩はほぼ鉛直面内にあって、左右・上下・前後の3方向の直線運動に反応するとともに、重力に対しても反応することになる6)。


図5.3






















P181より

5.1.3 前庭感覚による視野安定

前庭感覚のはたらきによって、自己運動感覚とともに、眼球運動が生じる。この眼球運動を前庭眼球反射(vestibulo-ocular reflex:VOR)と呼ぶ。前庭眼球反射は、われわれが頭を回転させたときに、眼球を頭と反対方向に回転させる眼球運動である。前庭眼球反射によって、われわれが頭を動かしても安定した網膜像が与えられることになる。これは、ビデオカメラの手振れ補正と同様の仕組みである。

 前庭眼球反射は、頭が動きはじめたときと静止したときにのみに生じ、一定速度での回転運動が続くと徐々に消滅することが知られている9,10)。これは、前庭感覚系の感覚器が、頭の角速度ではなく、角加速度に反応する一過性のものであるためである。

 前庭眼球反射の例を図5.4に示す。前庭眼球反射は、頭の方向と逆の方向の追従運動相が、視軸をほぼ正面に戻すための急速運動相によって中断される眼球運動である。


図5.4











※ 1)2)3~5)6)9,10)は参考文献です。

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