Fsの独り言・つぶやき

1951年生。2012年3月定年、仕事を退く。俳句、写真、美術館巡り、クラシック音楽等自由気儘に綴る。労組退職者会役員。

香月泰男のシベリア・シリーズ(6)

2010年07月25日 13時54分54秒 | 芸術作品鑑賞・博物館・講座・音楽会等
 海拉爾(ハイラル)(1973)

 「氷の塊のようになった真冬の海拉爾の街の底からのぼる煙に、人間家族の温もりを感じた。私はほかには何もいらぬ。絵が描けて家族とともにいられるのならば、その煙がうらめしかった。」

 冬の夜と思われる街のところどころのさびしげな明かりと立ち上る煙。街は黒、煙はくすんだ白、左手前の白くくすんだ帯は中心街路だろうか。背景と空は暗くくすんだ黄、街の背景にあると思われる丘・山も黒、これだけの色で示された「温もり」というのも稀有な絵と思われる。
 白い煙が長く、多分実際よりも高くまで記入されているのかもしれない。それが「温もり」の強調となるのであろうか。そしてその煙は同じ高さでそろっている。「温もり」というものが、一人一人の人間にとっては至上であり、それは「温もり」が人間存在にとっては「等価」であることの暗示でもあろう。
 作者は1973年という時点で、抑留としてのシベリア体験と、日本軍としての駐留体験とを相互に入れ替え可能な体験として見つめていたと思われる。それは侵略・被侵略、抑留・被抑留、支配・被支配、加害・被加害という視点だけではなく、国家と大衆、軍隊と民衆、政治と国家というふうに、個的な体験を潜り抜けて、戦争体験を貫いて普遍化しうる視点を獲得していたと私は想像している。

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