鮎川俊介の「幕末・明治の日本を歩く」

渡辺崋山や中江兆民を中心に、幕末・明治の日本を旅行記や古写真、研究書などをもとにして歩き、その取材旅行の報告を行います。

甲州街道を歩く-野田尻から犬目を経て大月まで その1

2017-07-28 07:11:53 | Weblog

 

  野田尻宿西光寺の裏手を進んで中央自動車道を渡ると、道は舗装道路ではなくなり車のわだちのある木立の中を行く土道となります。

 まもなく左手に現れたのが、富士山の印と「嶽 大先達白倉宝行」の文字が刻まれた、石垣の上に据えられた富士講先達(せんだつ)の石塔。

 しばらくして「荻野一里塚跡」の案内板。

 それによれば、現在地から東に約10mの県道脇に一里塚の標柱があって、その付近の街道両側にかつて一里塚があったところであるようです。

 古老の話によると北側の塚の上には「ヒラマツ」と呼ばれた老松があったとのこと。

 「一里塚」は人夫や馬を借りる時の駄賃を決める基準にもなったという記述があり、確かにそうだったのだろうなと納得しました。

 明治34年(1901年)に中央線が開通するまで大いに利用されたとあり、鉄道の開通が街道沿いの人々の生活に大きな影響を与えたことがうかがわれます。

 富士急行山梨バスの「荻野入口」バス停のあたりからは、進行方向正面に扇山が大きく見えて来ました。

 その進行方向の先、扇山の麓に集落が見えましたが、それが荻野集落でした。

 荻野集落の中で道は左手にゆるやかにカーブし、「矢坪橋」でふたたび中央自動車道を越え、その越えた先に「天下太平 大乗妙典日本廻國供養」と刻まれた石塔がありました。

 そのすぐ先にあったのが「上野原市指定史跡 矢坪坂の古戦場跡」の案内板。

 それによればこのあたりは大目地区矢坪(やつぼ)というところで、その矢坪と新田(しんでん)の間の坂は矢坪坂と言って、昔は山腹と崖との間を道が入り組む要害の地であったという。

 この「山腹」とは扇山の山腹ということであり、甲州街道は扇山の山腹を通っていることになります。

 何度か触れたことですが、この扇山は津久井湖の城山ダム付近や上野原市役所付近、あるいは甲州街道や中央自動車道の各所(特に跨道橋)からよく見える山であり、このあたりのランドマークとも言える山。

 その扇山の山腹に、荻野の集落や矢坪坂があることになります。

 その先が犬目宿であるということは、野田尻宿を出ると甲州街道は扇山の東南部の山腹を延びて犬目宿に至り、そして扇山南麓の鳥沢宿へと下っていくということになります。

 かつて甲州街道をよく利用したこの地域の人々には、街道は扇山の山腹を走っていて、そこに犬目宿という宿場があるという認識があったものと思われます。

 「ランドマーク」とも言える扇山の山腹にある宿場町、それが犬目宿であるという認識です。

 案内板によると、この矢坪坂で享禄3年(1530年)、相模国の北条氏綱の軍勢を甲斐国郡内領主の小山田信有の軍勢が迎え撃ち、激戦が繰り広げられたとのこと。

 その案内板の地図によれば、このあたりから車道から右にそれる道があって、それは「武甕槌(たけみかづち)神社」の鳥居前、「座頭ころがし」を経て、「天王様」や「丹勢神社」、「尾州大納言御常宿跡」などの前を通過してふたたび車道に合流しており、それが「旧甲州街道」であると示されています。

 「丹勢神社」や「尾州大納言御常宿跡」のあるふたりが「新田」(しんでん)という地。

 矢坪から新田に至る旧甲州街道は軽自動車がやっと通れるほどの細い道で、左手は大きく眺望が開けています。

 途中、「座頭ころがし」の左手下に7世紀ごろに造営されたという「西ノ原古墳跡」がありました。

 案内板には、「当地が甲斐と武蔵・相模を結ぶ交通上の要衝に位置することから、この利点に立地した有力者一族」が本古墳の埋葬者として推定できる、とありました。

 甲州街道沿いの各地(扇山より東側)からこの扇山が見えるということは、この扇山から甲州街道の各地(扇山から東方面)が見渡せるということであり、確かにこのあたりは交通上の、そして軍事上の要地であったと言えるでしょう。

 車道に合流して「新田入口」のバス停を過ぎると、ふたたび左手の展望が大きく開けましたが、眼下に見えた大きな施設は中央自動車道の「談合坂サービスエリア」の施設および駐車場でした。

 「談合坂サービスエリア」は、扇山の南麓(正確には東南麓)にあったのです。

 ということは、「談合坂サービスエリア」の北側(北西方向)に見える山は、扇山であったということになります。

 「談合坂サービスエリア」はしばしば利用していますが、その北側にある山は意識していなかったし、その山(扇山)の山腹に旧甲州街道が走っていると意識したこともありませんでした。

 

  続く

 

 



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