「盟三五大切」は「かみかけて さんごたいせつ」と読みます。
これはとても怖い話なので、夏にピッタリかも。
でも、そう思わせる迫力が、この若手の座組では少し難しかったようです。
十分、面白く、三部中で最も長い通しだったにも関わらず、観客を引きつけ飽きさせません。
ここでは幸四郎が美しい顔でご登場。
美形の幸四郎好きには、たまらないことでしょう。
でも、その分、恐ろしさに欠けるのです。
複雑に絡み合う因果が巡り、ドロドロした内容のこの話。
幸四郎@源五兵衛は忠臣蔵の仇討メンバーに連なるために工面してもらった大事な金まで、惚れ込んだ七之助@芸者小万
のために使ってしまいます。
でも、それは小万夫婦の策略で、小万の夫(情夫ですなぁ)の獅童@三五郎と共に金だけ巻き上げて出奔してしまうのです。
それをどこまでも追って、ついには小万を殺す執念深い源五兵衛。
「暗いところに落としたなぁぁ」と、ドスのきいた小声で言う台詞は吉右衛門だと震え上がるほどの迫力。
決して大声を出したり、わざとらしく顔を歪めたりしないのに突き抜けた演技力のなせる技で魅せます。
「いやいや、ダメだって! こんな人を暗いところに落としたらタダでは済まないから」と、夫婦に注意してあげたくなる
気持ちでいっぱになるほどです。
そういう静かな恐ろしさ、暗さが幸四郎には全然足りない。
獅童のあくどいやり口も、それほどインパクトがない。
一方、小万役の七之助は好演していました。
この女は芯から悪い人間ではなく、好きな三五郎に尽くしているだけなんです。
最後は殺されて首にされ、源五兵衛が家に持ち帰って首にご飯を食べさせる真似をするとき、一瞬、カッと口を開いた表情は
時蔵さん@小万にも負けないくらいの美しさと恨めしさが宿っていたのが出色。
「わぁぁ」と客席から声も出ました。
そうそう、こういう異常性も源五兵衛は持っているんですよ。
最初はお人好し、のち猟奇殺人者という細かい心理描写を要するため、歌舞伎でこういうお役は難しいんでしょうねぇ。
新作や創作も楽しくていいけれど、こういう王道で客の背筋を凍らせるような舞台にも挑戦して、何年後かに
彼らの個性が滲む「かみかけて」をぜひやってほしいと願います。