「座右の銘」森村誠一著より。
森村氏はかつてホテルマン時代、開業準備に追われていたとき、手不足の物資搬入の加勢に駆り立てられたことがあった。上司が各人の名前を読んだ際に、森村氏にも目を向けて「えー、きみ、名前をなんといったっけ」と、ど忘れしたらしかった。
そして、「名前なんかどうでもいいや、きみも新館に行け」と命令したのだった。名前なんかどうでもいいと言われ傷ついたと振り返る。確かに上司から、その場で「名前なんかどうでもいい」と口に出されたら嫌な気持ちになるだろう。
その後、森村氏は「名前なんかどうでもいい」と言われない程度の人間になりたいとおもった、と語っている。70代の後半にもなって忘れないのは、よほど強烈な言葉だったに違いない。
時には、誰がやっても同じような仕事には価値が見出せないと感じることもある。これは自分の仕事だと、仕事に署名が入れられるような職業として作家を目指したのだろう。