伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

吸涙鬼

2011-01-22 17:09:41 | 物語・ファンタジー・SF
 治療法のない遺伝病で20歳までの命と定められた女子高生のわたし(芳川)と、とんでもない走力と驚異的な回復力を持つ謎の青年榊冬馬の禁断の恋を描いた恋愛ファンタジー小説。
 特殊な能力を持つ故に製薬会社組織からつけ狙われ、また一般人の反感を買い、その中で生き延びられるように無抵抗で殴られけがをしてもすぐに回復でき逃げ足が速く進化し、人の涙を吸うことで生きながらえ、涙を誘うために激しい感情と快感を相手の脳に注ぎ込み相手をおかしくしてしまうという「吸涙鬼」という存在の設定がかなりのウェイトを占める作品です。その部分はストーリーの展開の要となり、本来は、ネタバレ的な要素ですけど、タイトルでそれが出てしまっています。
 この涙を吸うことで相手が精神的に破綻するということへの吸涙鬼の苦悩から、人との恋愛を禁断の愛と位置づけ、その切なさを描くところが味わいどころの小説です。そう言ってしまうと、昨今はあまたあるヴァンパイア・ラブストーリーの1つということになります。それに「わたし」の正体不明の奇病、屋上庭園の植物などの怪しげで隠微な雰囲気を漂わせたところが、読み味かなというところです。


市川拓司 講談社 2010年7月15日発行
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彼女のしあわせ

2011-01-12 08:24:14 | 小説
 生まれつき子供が産めない体で17歳の時にレイプされたトラウマから一生セックスしないと決めている三女凪子、かなわない姉と末っ子に挟まれてひねくれ気に入らないことがあると他人のせいにして八つ当たりし3歳の娘を虐待してリアル世界では孤立しブログで虚飾に浸る次女月子、子どもの頃から母に頼られ愚痴を聞かされ続けて結婚に希望を持てず独身のまま仕事に打ち込む長女征子、長年夫に従い姑の世話を黙って続けてきたがその鬱憤をため込んで爆発する母佐喜子の4人の思いと変貌を描く小説。
 それぞれに問題を抱え、家族や友人に屈折した思いを持ちながら、問題を乗り越え家族と向き合っていく/折り合っていく過程が、月子の場合はやや劇的に、他は穏やかにあるいは行きつ戻りつしながら描かれ、そのあたりが読みどころとなっています。
 叔母のユキナや父親まで巻き込んで、家族愛に踏みとどまれるところが、最近は崩壊した家族の話が多い中で、ホッとする安心感があります。


朝比奈あすか 光文社 2010年5月25日発行
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武士道エイティーン

2011-01-10 20:34:18 | 小説
 武士道シックスティーンに始まる青春剣道小説シリーズの第3作。
 神奈川の東松学園剣道部を率いるおやじキャラの剛の剣道に邁進する磯山香織と、西の名門福岡南高校に残り型破りの顧問吉野に見込まれながらもトップにはなれない甲本(西荻)早苗の友情を軸にしているのですが、「セブンティーン」で2人の剣道を近づけすぎたためか、「エイティーン」では、全中で磯山に勝った黒岩伶那と磯山の戦いがストーリー展開の山になっていて、早苗の影が少し薄くなっています。
 「シックスティーン」「セブンティーン」で通してきた磯山と早苗の交互の語りに、「エイティーン」では、シリーズの外伝ともいうべき、緑子と岡巧の恋の末路、桐谷先生の来歴、吉野先生の過去、磯山から距離をおいた田原美緒の思いの4本が、それぞれの語りで挿入されています。シリーズの愛読者には、これまでの疑問が解かれ、その点では満足度が上がりますが、ストーリーはそこで途切れ、磯山と早苗の存在感が薄れる感じがします。インターハイに向けてきちんと盛り上げてはくれていますし、磯山、早苗、黒岩、そして田原の思いを切なく描いていて巧くまとめてはいるのですが。
 高1の「シックスティーン」から始まっているので「エイティーン」で終わりかと思ってたんですが、「エイティーン」のラストを見ると、まだ続編があるのかなって感じですね。


誉田哲也 文藝春秋 2009年7月30日発行
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学問

2011-01-09 09:36:31 | 小説
 東京から静岡県に引っ越してきた少女香坂仁美(フトミ)が、近隣の少年後藤心太(テンちゃん)、千穂(チーホ)、無量(ムリョ)らと戯れながら、次第に大人になっていく様子を描いた青春・性春小説。
 「新潮」4回掲載分が各1章となり、それぞれ小2、小5、中2、高2の時という設定になっています。
 仁美は一貫して心太に心惹かれながら、しかしそれは恋愛感情ではない特別な関係と位置づけ、思いをはせ、キスをし、心太が他の女性を関係するのを嫉妬しながらも、恋人にはならないというもどかしい展開が続きます。同時に仁美の立場からのそれぞれの年代での性の目覚めというか自慰への目覚めというかがテーマになっていて、その際のイメージというか妄想が、ちょっと新鮮に読めました。
 各章の冒頭に主要な登場人物の死亡記事が配置されていて、小説本文には何ら影響しないのですが、登場人物の将来像というか人物像を少し膨らませています。死亡記事は特に関係なく見えますが、最後にリンクがあって、ちょっとニヤリとできます。フトミ、それじゃ紫の上だよ(いや女三の宮か)。


山田詠美 新潮社 2009年6月30日発行
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ヴァイツゼッカー ドイツ統一への道

2011-01-08 20:25:53 | 人文・社会科学系
 東西ドイツ統一時のドイツ大統領だった著者がドイツ統一に至るまでの回想や統一後もなお真の統一の途上であるとの認識からの提言を綴った本。
 ドイツ統一時においてもバラ色の将来ではなく分かち合う忍耐を説き、ソ連/ロシアについても敵対よりも経済関係を深めて取り込むことの重要性を説き、さらには昨今のイランについても核保有国に囲まれたイランの状況への理解が必要とする著者の姿勢は、俗耳に入りやすい原理主義や排外主義のアジテーションを排し現実的でありながら理性と倫理を感じさせる本来の意味での政治家らしいものです。日本やあるいはアメリカではあまり聞くことのできない、ラムズフェルドのいう「古いヨーロッパ」の知性を感じさせるところが、この種の本の読みどころといえます。
 しかし、肝心のドイツ統一に至る過程については、特段の裏話も見られず(政治家としての活動よりも先行するキリスト教信徒会としての活動が強調されているのが、あまり語られない事実というところでしょうか)、記述が断片的な感じがします。必ずしも時代を追っているという感じでもなく、また話が飛んでいるところが多々あり、著者自身の政治活動の流れや地位との関連の説明もあまりなく、読んでいて流れがわかりにくいというのが、難点です。統一に至った過程も、政治的配慮でしょうけれども、旧東ドイツの市民たちが学び立ち上がったことへの賞賛が前面に出されて、それ以外の統一に至った力の分析もなく(ゴルバチョフが力の行使を押しとどめたことは書かれているけれども)、直接のテーマについてはちょっと拍子抜けするというか今ひとつ納得感を得にくく思いました。


原題:DER WEG ZUR EINHEIT
リヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー 訳:永井清彦
岩波書店 2010年9月28日発行 (原書は2009年)
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