伊東良徳の超乱読読書日記

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労働法実務解説10 ブラック企業・セクハラ・パワハラ対策

2017-06-26 22:02:34 | 実用書・ビジネス書
日本労働弁護団の中心メンバーによる労働法・労働事件の実務解説書シリーズのパワー・ハラスメント、セクシュアル・ハラスメント、マタニティ・ハラスメントなどのいじめとブラック企業関係の部分。
 2016年1月から刊行が始まった12冊組みのシリーズの最終巻です。
 パワー・ハラスメントについては、法令上の規定もなく、かなり雑多なものがまとめて議論されている(この本が、ということではなく、現状が)ため、だれが書いても裁判例等の分類は難しく、必ずしもストンと落ちないのですが、この本での裁判例の分類(52~62ページ)は1つの考え方として参考になります。裁判例の一覧表(71~87ページ)がかなり充実しています。無い物ねだりかとは思いますが、ここまでやるのであれば、事案の紹介で、慰謝料額の認定に当たって何が重視された(考慮された)かについての分析・言及があると実務上は大変ありがたいと思います。
 セクシュアル・ハラスメントとマタニティ・ハラスメントに関しては、行政指導・指針に関する部分の説明と損害賠償請求等の説明がなされ、これもだれが書いてもそうなるとは思いますが、前段の指針の説明が同じような言及が繰り返され、確かに知っておくべき知識なんですけど、読むのが退屈です。マタニティ・ハラスメントに関してはそこが表にされているのは、工夫ではありますが、結局その表が続くとやはり読むのがつらい。
 セクシュアル・ハラスメントは、アメリカでは「差別」が問題/ポイント(公民権法第7編:Title 7 違反として争われた)だった(だから、「対価型セクハラ」=性行為等に応じる・応じないで利益・不利益を与えるという類型が、利益であれ不利益であれ「差別」になる故に違法性が認められやすく、それがない「環境型セクハラ」は違法性が認められにくいと言われていた)ところ、日本では最初のセクハラ裁判(福岡セクハラ事件)で性的人格権(自己決定権)侵害の不法行為という構成で違法性が認められたため、(差別ではなく)人格権侵害が違法性の根拠とされてきました。その後均等法でセクハラ防止措置義務が定められその行政指導等を行うに際してのセクハラの定義で「対価型セクハラ」「環境型セクハラ」が定められています(さすがに「対価型セクハラ」の定義でアメリカの概念の「利益を与える」場合は外していますが。どちらにしても、日本の法体系の下では、「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」に分類する実質的な意味はないと思います。現行法では、均等法がそう定義しているから、それへの当てはめが行政指導上必要という点でのみ意味があります)。マタニティ・ハラスメントは、均等法や育児介護休業法の権利行使を確保するという観点から指針が定められています。他方でパワー・ハラスメントについては行政指導等を行う法令がなく、現在のところ損害賠償請求(と労災)が主要な戦場です。そういう沿革と現状の微妙な違いがあり、この本が扱うように、これらを「いじめ」という視点でとりまとめて議論するのがよいのか、セクシュアル・ハラスメントとマタニティ・ハラスメントはむしろ「差別」の問題、平等と権利行使の確保の問題と捉えるべきなのか(セクシュアル・ハラスメントを不法行為・人格権侵害中心から、改めて「差別」の側に引き寄せるべきなのか)、私は、ちょっと考えさせられました(今、私が最終編集責任者になっている二弁の労働問題検討委員会編の「労働事件ハンドブック」の改訂の基本方針を検討中なもので・・・)。
 ブラック企業、ブラックバイトについては、実態紹介が中心でどう対応するかの点はなかなか難しいところもあり、すっきりしないところも残りますが、実情を知ること自体に意味があるという感じもしますので、それはそれで読み甲斐はありました。


佐々木亮、新村響子 旬報社 2017年5月8日発行
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