伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

獣の奏者 Ⅲ探求編 Ⅳ完結編

2010-02-21 21:31:41 | 物語・ファンタジー・SF
 2006年に書かれた「獣の奏者 Ⅰ闘蛇編、Ⅱ王獣編」の続編。
 兵器として育成された闘蛇軍に襲われた真王らを助けるために、人知れず闘蛇の天敵王獣と心を通わせてきたエリンが王獣に乗って闘蛇の群れを殲滅した「降臨の野の奇跡」から11年後、真王の護衛士だったイアルと結婚し息子ジェシを産みカザルム王獣保護場で教導師を務めるエリンが、またしても政治と軍事に巻き込まれていくことになります。
 闘蛇や王獣が人の手によって兵器化されるとともに繁殖が制限された歪められた体にされていることに疑問を持ち、本来の姿で野に返したいという思いを持ち続けるエリンが、かつて闘蛇衆として世話をしていた最も強力な「牙」の大量死の責めを負って処刑された母の無念を思ってまたも起きた「牙」の大量死の謎を追うところから物語が始まり、かつて起きたという闘蛇と王獣の戦いにより生じた大惨劇を機に真王の祖先が確立した規則が実は闘蛇と王獣の繁殖力を奪っていることを突き止めたエリンが祖先はなぜそのような規則を定めたのか、そして伝説の大惨劇の真相は何なのかを追い求めていく、謎解きが物語の1つの軸となっています。
 そして、武力を代表していた「大公」と結婚した真王の神としての権威への民衆の疑念、真王派の貴族と大公派の軍人の対立、飢饉、東の隣国ラーザの軍事的脅威などから、闘蛇軍の拡大と王獣軍の設立を望む大公・真王からエリンへの圧力が強まり、最初は逃走を試みたエリンも息子を連れて逃走できないことや伝説の謎を解き明かしたいことから、結局は王獣の繁殖と調教の道を進むことになります。
 恐るべき知識は、少数の権力者なり「賢者」の秘密としておくべきか、広く知らせて人類の智恵とすべきか、そのことがこの続編を通じたテーマとなります。
 エリンが、王獣と心を通わせた者として、子の母として、また秘密のために命を落とした母の子としての人間的な思いと別に、自分だけが秘密を知ってしまった者のある種の驕りと知的好奇心と、さらには為政者の側の人民を支配する視点をもかいま見せる様子は、少し違和感を持ちました。こういう立場に立たされた者の実情を考えると、あるいは大量殺戮兵器と科学者のあり方のようなテーマを考えると、主人公の純真さではなく矛盾に満ちた人間像をこそ描きたかったのでしょうけれども。


上橋菜穂子 講談社 2009年8月10日発行
Ⅰ闘蛇編、Ⅱ王獣編は2007年9月30日の記事で紹介しています

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