Life in America ~JAPAN編

I love Jazz, fine cuisine, good wine

Happy 90th

2017-11-14 15:31:18 | アメリカ生活雑感



シカゴ郊外での生活10年間、私たちにとって恐らく一番大切な友人であるリチャードが90歳を迎えた。

彼との出会いは約7年前。
何気に飛び入りで歌った近所のBarで、私が歌い終わったあとにリチャードがわざわざ私たちの席にやってきて
「君の歌がどれほど楽しませてくれたか、それを伝えたかったんだよ」と声をかけてくれたのがきっかけ。
また歌いにおいで。ここにいる人たちをみんな家族のようなものだからね、という彼の優しい言葉に誘われるように、私はそれからほぼ毎週のようにひとりで遊びに行くことになった。

そうこうするうちに歌仲間も増え、お店が潰れても今度は違う店でみんなが集うようになった。
本当に家族の様な付き合いをさせてもらえた。

何よりもほっとするのは、彼らは私たちよりもずっと人生の先輩で、ちょっとした悩みや愚痴などを受け止めてくれることだった。
アメリカで身寄りのない私たちにとって、リチャードと奥様のシルビアは親のような存在だった。

子供のころからマイクを握ってシナトラを熱唱していたという根っからのシンガー、リチャード。
彼のそばにいつもよりそうシルビアは、85歳。彼女は若いころから鳴らしたダンスのプロ。
ふたりがフロアで踊りだすと、誰もがその軽やかなステップに見惚れてしまうのだった。

リチャードの記念すべき90歳の誕生パーティーは、うちから車で5分ほどのゴルフ倶楽部で行われた。
彼はタキシードでビシッと決め、会場入り口でかくしゃくとしてゲストを出迎えてくれた。
一番大きなパーティールームは半年前からこの日のためにリザーブされ、リチャードが選りすぐったシカゴの一流ミュージシャンが特別バンドを編成して演奏をしてくれた。
まるで、彼が青春時代をおくった1950年代ごろのシカゴのキャバレーを彷彿とさせた。






「90本のキャンドルを立ててもらおうと思ったんだが、消防署から許可が下りなかったよ」といつものユーモアで笑わせてくれたお茶目なリチャード。


招かれたゲストは約130人。
ふたりの子供たち(リチャードとシルビアは子持ちの再婚同士)、孫たち、古くからの友人、歌仲間、バンドマン・・・。リチャードの垣根のない幅広い交友関係をあらわしていた。

私はその中で、唯一のアジアン。
リチャードは第2次大戦の直後、GHQのオフィサーとして札幌に駐屯していたことがあった。
当時19歳だった青年にとって、はじめてみる異国のすべてがエキゾチックでとても印象深かったそうで、私にいつも懐かしそうに当時のことを話してくれた。
「街はどこも清潔で人々はみな温かい。なんて素敵な国なんだろうと思ったよ。この国と戦ったなんて信じたくなかった。戦争とはなんと愚かな行為だろう」
あまり政治的なことを口にしない彼が一度だけこう言ったことを思い出す。


高齢のため久々に顔を合わせる人たちも多く、リチャードのお祝いというよりも会場は歴史的な同窓会のような雰囲気になっていく。
リチャード自身、こうなることを望んでいたのだろう、きっと。


華麗に踊るジマーさんは、シルビアのダンスの先生。
この年代の人たちの踊りは本当に格好いい。


平均年齢は軽く70歳を超えていた。アメリカのシニアは元気。


腕利きのシンガーたちがお祝いに1曲ずつ歌う。
この方はなんと94歳。上には上がいるものだ。

 
私はリチャードのリクエストもあって着物で参上。
この紅型ははたちの頃よく着ていたもので、母がずっと昔に持たせてくれた。
日本じゃ着られないけど「アメリカはこれくらい派手でもかまわないでしょう」と。
思った通りゲストに大受け。
「(戦後駐屯していた)日本を思い出すよ」といろんなお爺様たちから声をかけられた。
なんだか、みんな戦争を生々しく経験している世代(苦笑)


リチャードとシルビア、そしてシカゴで活躍するシンガーPJもお祝いに駆け付けてくれた。


 

この日のサプライズはこの人、ハーヴィー。
彼もリチャードと同じ日に知り合ってからのお付き合い。いつもステージ一杯にステップを踏みながら映画の主題曲などを歌ってくれるエンターテイナーで、私は密かに「植木等」と呼んでいた。
3年前に一人娘を49歳の若さで亡くし、それからあまり人前に姿を見せなくなって心配していた。
2年前から自身も3種類のガンで闘病中で、今は歩くのもやっとという状態。それでも盟友のために奥様と駆け付けてくれ、そのうえ2曲も歌ってくれた。
その歌いっぷりが本当に昔のままで、もう見ているだけで泣けてきた。
「15分前の会話も忘れてしまうことがあるのに、歌の歌詞だけは全部覚えているのよ」と奥様。
今日はここで倒れてしまうかもね、と笑いながら見守る姿にまた泣けてくる。

ここにいる全ての人たちは、「生きる」ということの真の意味を教えてくれる。




しめくくりは「My Way」でラストランス。

バンドの人たちもこの日のことは忘れられない思い出になったようだ。
「リチャード、おめでとう。こんな素敵な場に呼んでくれて感謝するよ。95歳と100歳のときの予定は開けておくからね」

こういうところが、アメリカだなー。


 
大好きな二人と記念撮影。



プレゼントはなしよ、と言われていたけれどどうしてもリチャードとシルビアには心のこもった贈り物をしたかったのでこんなものを作ってみた。
古い着物の端切れで、リチャードには蝶ネクタイを、シルビアには小さなコサージュを。
ひと針ひと針思いを込めて縫い上げた。

7月にリチャードから頂いた人生で一番うれしかったプレゼントのお返し。


シカゴのいい思い出をありがとう、リチャード!


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