古くなってしまったけど、ちょっと前に書いた記事より。
伝説のミュージシャンを撮り続ける写真家、ポール・ナトキン(Paul Natkin)個展
“Superstars” 8月2日まで開催中
シカゴの音楽イベントの撮影現場で必ず出くわす一人のフォトグラファーの存在がずっと気になっていた。
ステージ真下のメディア席で静かに機をうかがっては、ここぞというときに被写体に歩み寄り、数回シャッターを押したかと思うとすぐに席に戻ってまた次の機会をじっと待つ。明らかにデキる人物のオーラが放たれている。この人こそ、シカゴを代表する写真家、ポール・ナトキン(Paul Natkin)氏だ。
80年代にはあのプリンスの「パープル・レイン」のプロモーション写真を一手に手掛け、80年代後半から90年代初頭にかけてキース・リチャーズやローリング・ストーンズ、ブルース・スプリングスティーンのツアーに公式フォトグラファーとして同行し、数々の有名雑誌の表紙を飾る歴史的な写真を世に送り出した、知る人ぞ知る人物。そのポール氏の個展『Paul Natkin: Superstars』が、現在シカゴ市内のギャラリーで開催されている。
6月6日、会場で開かれたミニ・トークイベントの様子
ツアーフォトグラファーとして世界を駆け巡った日々
21歳の時、著名な写真家であった父親の勧めでシカゴ・ブルズのチームフォトグラファーとなり、この道へ。「その頃は将来に特に何の計画もなかったから、駐車場が無料で使えてタダで全試合が見られる、VIP席に座れるという特権につられただけ」(ポール氏)。もともと音楽が好きだったことから、次第にコンサート写真やミュージシャンの撮影にシフト、「Rolling Stone」などの音楽専門誌や「Time」、「People」など一般雑誌、メジャー&インディーズのレコードレーベルなどとの仕事を多く手がけていくようになった。
彼の運命を変えたのは84年。当時じわじわと人気に火が付き始めていたプリンスが、地元ミネアポリスの「ファースト・アベニュー・クラブ」で行ったシークレット・バースディパーティに招かれた。「(カメラマンが)きっと大勢いるんだろうと思って行ってみたら、なんと自分一人だけだった」この夜のパーティで、“プリンス&ザ・レボリューション”が初めて世に披露された。
ポール氏のカメラレンズのすぐ前に膝まずきポーズをとったプリンスの写真は、今でも伝説のショット。その後すぐに『パープル・レイン』が発売され、プリンスはたちまち時の人となっていく。
「あのときどうして彼が自分をただ一人のフォトグラファーとして選んだのかはまったくわからない。けれどあの一晩に撮った写真で、十分すぎるほどのお金が入ったのは確かだね(笑)」
88年にキース・リチャーズのインタビュー写真を撮ったのが縁で、ローリング・ストーンズと共に数か月間世界を旅した。「ストーンズの公演はまるでブロードウェイのショウのようなものだった。毎日同じセットで同じ写真を延々と撮り続ける。どんな街に行こうがどんなゴージャスなホテルに泊まろうが、ホテルから一歩も外に出ずに現像に明け暮れる日々。人生で最も退屈だったよ」
キース・リチャーズの伝説の「中指立て」写真。撮った本人も気づかずしばらく現像されずにストレージに眠っていたが、ある日友人が偶然見つけて世間に発表したところたちまちキースお気に入りの有名な写真になった。キースは人間としてもとても魅力的で、“He is the nicest guy in the world.”(ポール氏)
(一番手前)1985年8月号の『Newsweek』の表紙になった、ブルース・スプリングスティーン「Born In The USA」ツアーのオープニング、セントポール公演でのショット。この時、Bossの最初のミュージックビデオ”ダンシングイン・ザ・ダーク”の写真撮影も行った。そのなかでBossとステージで踊っていた女性(覚えている方もいるだろうか?)は、今はティーンネィジャーの母。息子にあの時ブルースと踊ったことを自慢しているそうだ。
ミュージシャンの今・昔
昨今は商業的写真からは一歩身を引き、ブライアン・ウィルソン(元ザ・ビーチ・ボーイズ)のロードマネージャーを務める傍ら、チャリティー団体などでの撮影の仕事を淡々とこなしているポール氏。常にアメリカの音楽ライブシーンを文字通り最前線で見てきた彼の目からは、昨今の音楽業界の姿はどう映っているのだろうか。
「90年代からミュージシャンはアーティストではなくセレブリティ―になってしまった。マネージャーがミュージシャンのイメージ戦略を色濃く打ち出し始め、撮影に関してもうるさくコントロールするようになり、同時に写真家の仕事に対するリスペクトもなくなった。コンサートの“3曲ルール”(最初の3曲だけにのみ撮影を許可するというルール)や、著作権に関して写真家側に不利なサインを強要し始め、これらを拒否したおかげで仕事の95%を失ったよ」
シャッターを切ったその瞬間から作品には写真家の魂である「著作権」が宿る、これは絶対に蹂躙されてはならない、とポール氏。そのために某大物タレントを相手に大きな訴訟を起こし、5年以上戦ったこともある。こと著作権に話が及ぶと、普段の温厚さが消えてとたんに厳しい表情に。どんな圧力にも屈しない、プロフェッショナルとしてのプライドを守るストイックなこの姿勢があるからこそ、長きにわたって錚々たるミュージシャンたちから絶大な信頼を得てきたのだろう。
とはいえ、これまでに撮影した何万枚ものコレクティブな写真の著作権で悠々自適に生活できるのは聞かずとも知れたこと。今はどんな生活をしていますか?とトークショウの参加者から聞かれ、「映画やTVドラマシリーズ、DVDをうちにあるビッグスクリーンで見るのが楽しみ。近頃は日に10時間くらい見てるよ」と笑う。
シカゴでは折しも音楽フェスティバルシーズンが開幕。また今年も、ポール氏と肩を並べて撮影できるのが楽しみである。
■
~以下、質疑応答から抜粋~
Q:いいカメラマンと悪いカメラマンの違いは何ですか?
P:いいカメラマンはDecisive moment(決定的瞬間)を知っている。悪いカメラマンは何千枚もやみくもに撮る。まるで動画のようにね。
Q:デジタルとアナログの違い、良し悪しは?
P:個人的にはどちらも同じ。あえて言えばデジタルはフィルム現像などのコストがかからないのがいい。
Q:「決定的瞬間」はどこでわかる?
P:これといって特にはないね。あえて言えば、ロック・ミュージシャンの場合、たいがい高いところに上ったときに何か起こるかな(一同爆笑)。
Q:好きな被写体は?
P:ジューダス・プリーストはよかったね。
■ Paul Natkin: Superstars
8月2日まで。毎日10 a.m.-7 p.m.
場所:Ed Paschke Art Center, 5415 W. Higgins Ave.
CTAブルーライン「ジェファーソンパーク駅」徒歩5分
edpaschkeartcenter.org
■ ポール・ナトキン氏 Website : http://natkin.net/
(そして後日・・・)6月12日、日本からシカゴに遊びに来てくれた古い友人夫妻を、再びこの展示会にお連れした。
ご主人はプロのカメラマン。アーティストを撮影することも多いとのことで、大いに喜んでくれた。
伝説のミュージシャンを撮り続ける写真家、ポール・ナトキン(Paul Natkin)個展
“Superstars” 8月2日まで開催中
シカゴの音楽イベントの撮影現場で必ず出くわす一人のフォトグラファーの存在がずっと気になっていた。
ステージ真下のメディア席で静かに機をうかがっては、ここぞというときに被写体に歩み寄り、数回シャッターを押したかと思うとすぐに席に戻ってまた次の機会をじっと待つ。明らかにデキる人物のオーラが放たれている。この人こそ、シカゴを代表する写真家、ポール・ナトキン(Paul Natkin)氏だ。
80年代にはあのプリンスの「パープル・レイン」のプロモーション写真を一手に手掛け、80年代後半から90年代初頭にかけてキース・リチャーズやローリング・ストーンズ、ブルース・スプリングスティーンのツアーに公式フォトグラファーとして同行し、数々の有名雑誌の表紙を飾る歴史的な写真を世に送り出した、知る人ぞ知る人物。そのポール氏の個展『Paul Natkin: Superstars』が、現在シカゴ市内のギャラリーで開催されている。
6月6日、会場で開かれたミニ・トークイベントの様子
ツアーフォトグラファーとして世界を駆け巡った日々
21歳の時、著名な写真家であった父親の勧めでシカゴ・ブルズのチームフォトグラファーとなり、この道へ。「その頃は将来に特に何の計画もなかったから、駐車場が無料で使えてタダで全試合が見られる、VIP席に座れるという特権につられただけ」(ポール氏)。もともと音楽が好きだったことから、次第にコンサート写真やミュージシャンの撮影にシフト、「Rolling Stone」などの音楽専門誌や「Time」、「People」など一般雑誌、メジャー&インディーズのレコードレーベルなどとの仕事を多く手がけていくようになった。
彼の運命を変えたのは84年。当時じわじわと人気に火が付き始めていたプリンスが、地元ミネアポリスの「ファースト・アベニュー・クラブ」で行ったシークレット・バースディパーティに招かれた。「(カメラマンが)きっと大勢いるんだろうと思って行ってみたら、なんと自分一人だけだった」この夜のパーティで、“プリンス&ザ・レボリューション”が初めて世に披露された。
ポール氏のカメラレンズのすぐ前に膝まずきポーズをとったプリンスの写真は、今でも伝説のショット。その後すぐに『パープル・レイン』が発売され、プリンスはたちまち時の人となっていく。
「あのときどうして彼が自分をただ一人のフォトグラファーとして選んだのかはまったくわからない。けれどあの一晩に撮った写真で、十分すぎるほどのお金が入ったのは確かだね(笑)」
88年にキース・リチャーズのインタビュー写真を撮ったのが縁で、ローリング・ストーンズと共に数か月間世界を旅した。「ストーンズの公演はまるでブロードウェイのショウのようなものだった。毎日同じセットで同じ写真を延々と撮り続ける。どんな街に行こうがどんなゴージャスなホテルに泊まろうが、ホテルから一歩も外に出ずに現像に明け暮れる日々。人生で最も退屈だったよ」
キース・リチャーズの伝説の「中指立て」写真。撮った本人も気づかずしばらく現像されずにストレージに眠っていたが、ある日友人が偶然見つけて世間に発表したところたちまちキースお気に入りの有名な写真になった。キースは人間としてもとても魅力的で、“He is the nicest guy in the world.”(ポール氏)
(一番手前)1985年8月号の『Newsweek』の表紙になった、ブルース・スプリングスティーン「Born In The USA」ツアーのオープニング、セントポール公演でのショット。この時、Bossの最初のミュージックビデオ”ダンシングイン・ザ・ダーク”の写真撮影も行った。そのなかでBossとステージで踊っていた女性(覚えている方もいるだろうか?)は、今はティーンネィジャーの母。息子にあの時ブルースと踊ったことを自慢しているそうだ。
ミュージシャンの今・昔
昨今は商業的写真からは一歩身を引き、ブライアン・ウィルソン(元ザ・ビーチ・ボーイズ)のロードマネージャーを務める傍ら、チャリティー団体などでの撮影の仕事を淡々とこなしているポール氏。常にアメリカの音楽ライブシーンを文字通り最前線で見てきた彼の目からは、昨今の音楽業界の姿はどう映っているのだろうか。
「90年代からミュージシャンはアーティストではなくセレブリティ―になってしまった。マネージャーがミュージシャンのイメージ戦略を色濃く打ち出し始め、撮影に関してもうるさくコントロールするようになり、同時に写真家の仕事に対するリスペクトもなくなった。コンサートの“3曲ルール”(最初の3曲だけにのみ撮影を許可するというルール)や、著作権に関して写真家側に不利なサインを強要し始め、これらを拒否したおかげで仕事の95%を失ったよ」
シャッターを切ったその瞬間から作品には写真家の魂である「著作権」が宿る、これは絶対に蹂躙されてはならない、とポール氏。そのために某大物タレントを相手に大きな訴訟を起こし、5年以上戦ったこともある。こと著作権に話が及ぶと、普段の温厚さが消えてとたんに厳しい表情に。どんな圧力にも屈しない、プロフェッショナルとしてのプライドを守るストイックなこの姿勢があるからこそ、長きにわたって錚々たるミュージシャンたちから絶大な信頼を得てきたのだろう。
とはいえ、これまでに撮影した何万枚ものコレクティブな写真の著作権で悠々自適に生活できるのは聞かずとも知れたこと。今はどんな生活をしていますか?とトークショウの参加者から聞かれ、「映画やTVドラマシリーズ、DVDをうちにあるビッグスクリーンで見るのが楽しみ。近頃は日に10時間くらい見てるよ」と笑う。
シカゴでは折しも音楽フェスティバルシーズンが開幕。また今年も、ポール氏と肩を並べて撮影できるのが楽しみである。
■
~以下、質疑応答から抜粋~
Q:いいカメラマンと悪いカメラマンの違いは何ですか?
P:いいカメラマンはDecisive moment(決定的瞬間)を知っている。悪いカメラマンは何千枚もやみくもに撮る。まるで動画のようにね。
Q:デジタルとアナログの違い、良し悪しは?
P:個人的にはどちらも同じ。あえて言えばデジタルはフィルム現像などのコストがかからないのがいい。
Q:「決定的瞬間」はどこでわかる?
P:これといって特にはないね。あえて言えば、ロック・ミュージシャンの場合、たいがい高いところに上ったときに何か起こるかな(一同爆笑)。
Q:好きな被写体は?
P:ジューダス・プリーストはよかったね。
■ Paul Natkin: Superstars
8月2日まで。毎日10 a.m.-7 p.m.
場所:Ed Paschke Art Center, 5415 W. Higgins Ave.
CTAブルーライン「ジェファーソンパーク駅」徒歩5分
edpaschkeartcenter.org
■ ポール・ナトキン氏 Website : http://natkin.net/
(そして後日・・・)6月12日、日本からシカゴに遊びに来てくれた古い友人夫妻を、再びこの展示会にお連れした。
ご主人はプロのカメラマン。アーティストを撮影することも多いとのことで、大いに喜んでくれた。