監督 ジョニー・トー 出演 ジョニー・アリディ、アンソニー・ウォン、ラム・カートン、ラム・シュー
「エグザイル/絆」がヒットしたから、同じようなものでもう一稼ぎ--ということなのだろう。ちょっと見え透いていますねえ。男の信義、というのもなんだねえ、そんなおおげさなものじゃなくて、金をもらったからその仕事をする、というだけのことだね。
なぜ、わざわざ父親がフランス人なのか。フランス資本がからんでいるから。理由は、それだけ、というのも寂しい。フランス人が殺人を依頼してはいけないというのじゃないけれど、それなりに「伏線」がないと、なぜ?という疑問しか残らない。
依頼主がだんだん記憶を失っていくという設定はおもしろいが、そのことによってストーリーがねじれていくというわけでもない。単なる飾り。日本語のタイトルそのまま、こけおどし。
クライマックスの雨のシーンも、中途半端。記憶を写真でたしかめるのだけれど、写真に書いてある名前だけで、どうしてそれが敵か味方かわかる? 名前は覚えているが、顔は忘れてしまう。そんな便利な記憶障害ってあっていいのかなあ。
文字ではなく、映像、肉体の動き、肉体にしみついた何かが記憶を揺さぶり、人間を動かすという具合じゃないと、映画じゃないよ。雨のなかで最初に出会った、そのときのコートの濡れ具合、歩く歩幅、アスファルトに移る銃の影……とかさ。
写真と顔と文字を見比べるなんて、なんとも間抜けなシーンである。
唯一おもしろいのは、銃の試し撃ちをするとき、4人で自転車をねらうところかな。自転車に弾があたる。反動で自転車が動く。その動きが無人のまま自転車が走るシーンにつながる。かっこいいじゃないか。夕暮れの空気まで、きざで、美しい。歩く4人のシルエットも。それから、なぜかその前(スクリーンの前景という意味だけれど)を横切る自転車の動きも。かっこよけりゃ、それでいい、という美学が潔くていいなあ。
でも、あとは、ほんとうにダメ。殺し屋3人を見つけたあと、その殺し屋からの食事の差し入れ、それを食べるかどうか。フランス人の父親が「娘を殺した奴のつくったものなんか食べられるか」ということばで、わざわざ説明するところなんて、最悪だね。ハードボイルドだろ? そんなセンチメンタルなことばを聞かないと、父親の心情がわからないやつらに信義がわかるもんかねえ。
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