限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

百論簇出:(第57回目)『寒帯ポーランドのバイオマス』

2010-04-24 13:09:44 | 日記
先ごろ、『ポーランド印象記』、および『ポーランド印象記(その2)』に書いたように 3月初旬に一週間ばかり、ポーランドに滞在した。

その時、ポーランド科学アカデミーの担当官と同国の科学技術、とりわけ大学での産学のありかたについて議論した。その席で、現在世界的規模で問題となっている二酸化炭素削減の取り組みについて次のような話を聞いた。
【1】 二酸化炭素削減は一大テーマである。削減はポーランド政府の義務でもあり、無視できないテーマである。削減の一部は、石炭の排ガスのクリーン化によって達成する。
【2】 しかし、それだけではなくガソリンの代替エネルギーを得るためのバイオマス(新エネルギー植物)の研究もしている。その植物の名前は、ポーランド語で wierzba という。この植物は背丈が低いが油性成分が多い。将来的には、エネルギー消費の1%から2%はこの植物でまかないたい。

この植物の名前であるが、担当者は英語での名前を知らなかったので、後日もどって調べると、 wierzba とは柳(willow、やなぎ)であると判明した。



ローマの博物学者、プリニウス(Pliny)の『博物誌』 Vol.16, Seciton 175 では、柳が種々の工芸品に使えるといった有用性を指摘したあと、成長に関して次のように述べている。

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柳は他のどんな木より手間のかからない、繁殖しやすい木である。また天候にも成長が全く左右されない

non, ut remur, in novissimis curanda arbore. nullius quippe tutior reditus est minorisve inpendi aut tempestatium securior.

【英訳】It is a tree, which, in my opinion, deserves to be placed by no means in the lowest rank of trees; for there is none that will yield a more certain profit, which can be cultivated at less expense, or which is less liable to be influenced by changes in the weather.

出典:Pliny the Elder, The Natural History (eds. John Bostock, M.D., F.R.S., H.T. Riley, Esq., B.A.)
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一方、中国では、韓非子が、柳(楊)は生え易い木である比喩を巧みにつかって、王宮での身の処し方について次のように説いている。

陳軫が魏王に重用された。そのことを聞いた恵子は陳軫に忠告した。『王のとり巻き連中にも腰を低く仕えなさい。例えば楊というのは、横に植えても、逆さに植えても折って植えてもはえてくる。しかしだ、十人が頑張って植えても、わずか一人が抜いていってしまえば、さすがの楊も育たない。なぜか?それは、樹は植えるのには苦労するが、抜くのは簡単だからだ。それと同様、たとえ王一人に気に入られても、数多くの取り巻きに嫌われたら、追い出されてしまいますぞ。』

陳軫貴於魏王,恵子曰:『必善事左右,夫楊横樹之即生,倒樹之即生,折而樹之又生。然使十人樹之而一人抜之,則生楊至。以十人之衆,樹易生之物,而不勝一人者何也?樹之難而去之易也。子雖工自樹於王,而欲去子者衆,子必危矣。』

ちなみに、この陳軫とは、『蛇足』の成句の作者である。

閑話休題

さて、ポーランドは飛行機からでも鉄道の車窓からでも、その広大で平坦な平地が望めた。確かにここ一面に柳を植えれば、低廉なエネルギーが取れるように感じたが、日本の起伏の多い地形では、果たしてコストが合うか、疑問に感じた次第である。

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最後に、先ごろ(2010年4月10日)の飛行機墜落事故で亡なられた、ポーランドのカチンスキ大統領はじめ89人の方々のご冥福をお祈り申し上げる。
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