漢方処方と漢方の証の相違

漢方的病理の把握の仕方により漢方処方が違ってきます。

18.発黄

2007年10月16日 | Weblog

発黄というのは、身体が黄色くなり、白い眼の部分までが黄色くなっている事です。
疸という字には既に黄病の義を有していますが、あえて黄という文字と共に黄疸と表現しています。
更に「素問」に「湿熱相交わり、民多く癉を病む」とあります。

発黄に対して傷寒論・金匱要略より条文を取り出してみますと

傷寒論の「平脉法第二」の第39条に
●寸口の脉、微にして濇、微なる者は衞氣衰へ、濇なる者は榮氣不足す、衞氣衰ふれば面色、榮氣不足すれば面色あおし、榮を根となし衛を葉と為す、榮衛倶に微なれば則ち根葉枯槁して寒慄、欬逆、唾腥、沫涎を吐するなり。

傷寒論の「辨痙暍脈證第四」の第8条と
金匱要略の「痙暍病脈證第二」の第15条に
●濕家の病たる一身盡く疼み発熱し身の色熏黄の如くなり。

熏黄の証があり、若し一身尽く痛みを兼ねれば、これは濕病であって疸の病ではありません。当然、濕に従って治すべきであります。このことが
傷寒論の「辨陽明脈證併治第八」の第81条に
●傷寒汗を発し已り身目、をなす、然る所以の者は、寒濕,
裏に在りて解せざるを以っての故なり。もって、下すべからざると為すなり、寒濕中において之を求む。

ここの黄は、熱鬱より発する黄ではなく、裏の濕熱が外の寒に妨げられて外発することが出来ないで生じた黄であります。要するに、此れは熱實の黄ではありませんので下してはいけないのであります。その治療法は、寒を除き、濕を逐うにあります。だから、於寒濕中求之といっているのであります。

病が表に属している場合 

金匱要略の「黄疸病脈證併治第十五」の第18条に
●諸病黄家は、但だ其の小便を利す、假令脈浮なるは、當に汗を以って之れを解すべし、宜しく桂枝加黄耆湯之れを主るべし。

金匱要略の「水氣病脈證併治第十四」の第5条に
●裏水の者は、一身面目黄腫、其の脈沈、小便不利、故に水を病ましむ。假如、小便自利すれば、此れ津液を亡う、故に渇せしむるなり。越婢加朮湯之れを主る。

金匱要略の「黄疸病脈證併治第十五」の第26条に
●千金麻黄醇酒湯は、黄疸を治す。

傷寒論の「辨陽明脈證併治第八」の第84条に
●傷寒、瘀熱、裏に在り、身に必ずを発す、麻黄連軺赤小豆湯之れを主る。

金匱要略の「水氣病脈證併治第十四」の第28条に
●問うて曰く、黄汗の病たる身体腫れ、発熱、汗出でて渇し、状ち風水の如く、汗衣を沾ほし、色、正黄なること蘗汁の如く、脈自ずから沈、何によりて之れを得るや、師の曰く、汗出づるに水中に入りて浴し、水汗孔より入るをもって、之れを得たり、黄耆芍薬桂枝苦酒湯之れを主る。

病が半表半裏の少陽に属している場合 

傷寒論の「辨太陽病脈證併治中第六」の第72条に
●病を得て六七日、脈遅浮弱、風寒をにくみ、手足温、醫、二三之れを下し、食する能はず、而して脇下滿痛し、面目及び身黄、頸項強ばり、小便難き者は、柴胡湯を與ふれば、後必ず下重す、本と渇して水を飲み、嘔する者も、柴胡湯は與ふるに中らざるなり、穀を食する者は噦す。


傷寒論の「辨陽明脈證併治第八」の第53条に
●陽明、中風、脈弦浮大にして短氣、腹都て満、脇下及び心痛む。久しく之れを按じて氣通ぜず、鼻乾き汗を得ず、臥するを嗜み、一身及び面目悉く黄、小便難、潮熱在り、時時、噦す、耳の前後腫れ、之れを刺して少しく差ゆ。外解せず、病十日を過ぎ、脉続いて浮なる者、小柴胡湯を与う。脉但だ浮にて余証無き者、麻黄湯を与う。若し尿せず、腹満噦を加うる者は治せず。

金匱要略の「黄疸病脈證併治第十五」の第23条に
●諸の、腹痛して嘔する者、柴胡湯によろし。

傷寒論の「辨陽明脈證併治第八」の第83条に
●傷寒、身黄発熱する者、梔子蘗皮湯之れを主る。

金匱要略の「黄疸病脈證併治第十五」の第17条に
酒黄疸、心中懊憹或いは熱痛するは、梔子大黄湯之れを主る。

金匱要略の「黄疸病脈證併治第十五」の第25条に
一物瓜蒂湯は諸のを治す。
 

金匱要略の「黄疸病脈證併治第十五」の第20条に
黄疸病は、茵蔯五苓散之れを主る。 

病が裏の陽明に属している場合 

傷寒論の「辨陽明脈證併治第八」の第10条に
●傷寒脈浮にして緩、手足自から温なる者は、是れ繋りて太陰に在りと為す、太陰の者は、身當にを発すべし、若し小便自利する者は、を発する能はず、七八日に至り、大便鞕き者は陽明病と為すなり。

傷寒論の「辨陽明脈證併治第八」の第22条に
●陽明病、汗無く小便不利し心中懊憹する者は、身必ずを発す。

傷寒論の「辨陽明脈證併治第八」の第23条に
●陽明病、火を被り額上に微に汗出で小便不利する者は必ずを発す。

傷寒論の「辨陽明脈證併治第八」の第29条に
●陽明病、面合赤色なるは、之れを攻むるべからず、必ず発熱し色いろく小便利せざるなり。 

傷寒論の「辨陽明脈證併治第八」の第57条に
●陽明病、発熱汗出づ、此れ熱越と為す、発黄する能はず、但だ頭汗出で、身汗無し、剤頸而還、小便不利、渇して水漿を引く者、此れ瘀熱裏に在りと為す。身必ず発黄す、茵蔯蒿湯之れを主る。 

傷寒論の「辨陽明脈證併治第八」の第82条に
●傷寒七八日身黄橘子色の如し、小便不利、腹微満する者、茵蔯蒿湯之れを主る。 

金匱要略の「黄疸病脈證併治第十五」の第21条に
黄疸、腹満、小便不利して赤く自ら汗出づ、此れ表和し裏實と為す、當に之れを下すべし、大黄消石湯によろし。 

金匱要略の「黄疸病脈證併治第十五」の第16条に
黄家、日晡所発熱して反って惡寒するは、此れ女労、之れを得るとなす。膀胱急、少腹満、身盡く黄、額上黒く、足下熱し、因って黒疸を作す。其の腹脹り水状の如く、大便必ず黒く時に溏す、此れ女労の病、水に非ざるなり、腹満する者は、治し難し。消石礬石散を用い之れを主る。

金匱要略の「黄疸病脈證併治第十五」の第19条に
諸黄は、猪膏
髪煎之れを主る。 

傷寒論の「辨太陽病脈證併治中第六」の第102条に
●太陽病、身黄、脈沈結、少腹鞕く、小便利せざる者は、血無しと為すなり、小便自利し、其の人狂の如き者は、血證たること諦かなり、抵當湯之れを主る。

病が陰に属している場合

金匱要略の「黄疸病脈證併治第十五」の第24条に
●男子、小便自利するは、當に虚労小建中湯を與うべし。

金匱要略の「黄疸病脈證併治第十五」の第22条に
黄疸病、小便色變らず、自利せんと欲し、腹満して喘するは、熱を除くべからず、熱を除けば必ず噦す、噦する者、小半夏湯之れを主る。

金匱要略の分類 
         Ⅰ.  黄汗
         Ⅱ.  黄疸       
         Ⅲ.  穀疸        
         Ⅳ.  酒疸        
         Ⅴ.  女労疸      

病が表に属している場合 

   桂枝加黄耆湯・・・・・・・・・諸黄家(頭痛悪風自汗出)
   ●越婢加朮湯・・・・・・・・・・・一身面目黄腫
   ●麻黄醇酒湯・・・・・・・・・・・黄疸
   ●麻黄連軺赤小豆湯・・・・身目黄と為す
   ●黄耆芍薬桂枝苦酒湯・・正黄なること蘗汁の如く

病が半表半裏の少陽に属している場合 

   ●小柴胡湯・・・・・・・・・・一身及び面目悉く黄・面目及び身黄・諸黄腹痛
   ●梔子蘗皮湯・・・・・・・・身黄
   ●梔子大黄湯・・・・・・・・酒黄疸
   ●一物瓜蒂湯・・・・・・・・諸黄
   ●茵蔯五苓散・・・・・・・・発黄(発黄小便不利或いは渇して余證なし)

病が裏の陽明に属している場合

   ●茵蔯蒿湯・・・・・・・・・・身必ず発黄・身黄橘子色・黒疸(大便通ぜざる)
   ●大黄消石湯・・・・・・・・黄疸(腹満小便不利)
   ●消石礬石散・・・・・・・・身体尽く黄(腹脹大便必ず黒く時に溏す)
   ●猪膏髮煎・・・・・・・・・・諸黄
   ●抵當湯・・・・・・・・・・・・身黄
(身黄、脈沈結、少腹鞕く、小便利せざる)

病が陰に属している場合 

   ●小建中湯・・・・・・・・・・黄、小便自利(腹中拘急)
   ●小半夏湯・・・・・・・・・・黄疸小便色変ぜず(嘔逆)

  ①表は発汗させる
  ②半表半裏は之れを涼す
  ③裏は之れを下す    
 の基本的治療法によらなけねばなりません。



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