★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

赤面逆上的混乱苦痛とともに、誤謬の訂正的発狂状態が起る(坂口安吾)

此ノ郎等、聞テ泣ケリ。馬ノ口ニ付タル者共モ泣ニケリ

2018-06-05 21:46:58 | 文学


「露錯タル事モ無ケレドモ、前ノ世ノ宿世ニテ、既ニ命ヲ召シツ。痛ク歎キ給ハデ御マセ。此ノ童ニ至テハ、自然ラ人ノ子ニ成テモ有ナム。嫗共何カニシ給ハムズラムト思フナム、殺サルル堪ヘ難サヨリモ増テ悲キ。今ハ、早ウ入給ヒネ。今一度御顔ヲ見奉ラムトテ参ツル也」ト云ケルヲ、此ノ郎等、聞テ泣ケリ。馬ノ口ニ付タル者共モ泣ニケリ。母ハ、此レヲ聞テ迷ヒケル程ニ、死入タリケリ。而ル間、郎等、此テ有ルベキ事ニ非ネバ、「永事ナ云ヒソ」ト云テ、引持 行ヌ。然テ、栗林ノ有ケル中ニ将入テ、射殺シテ頸取テ返ニケリ。


公文書偽造だかなんだかの事件を聞いて、『今昔物語集』の「日向守、書生ヲ殺ス語」を想起した人は少なくないであろう。これは国司が、引き継ぎの文書を部下の書生に書き換えさせたが不安に駆られ、その書生を部下を使って殺害する話である。

面白いのは、上の場面である。殺しを命じられた部下達は、母親に会いたいと願う書生の頼みを聞き、――母への言葉にもらい泣きするが、その母親はショックのあまり卒倒?してしまう。すると、彼らは、さて時間ですとばかり任務を遂行する。――これが淡々と書かれている。

しかし、最後は、「詐テ文ヲ書スルソラ尚シ罪深シ。况ヤ書タル者ヲ咎無クシテ殺サム、思ヒ遣ルベシ。此レ重キ盗犯ニ異ナラズトゾ、聞ク人悪ミケルトナム語リ伝ヘタルトヤ。」であって、これは淡々としすぎている。結局、この国司がどのような悪事を隠蔽しようとしていたのか分からんし、彼が罪に問われたのか問われていないのか分からないのである。

今も昔も、肝心なところが分からないところで、「国司死ね」、「藤原氏やなかんじ」とか盛り上がっていたのであろう。

要するに、われわれの文書を書き換えて平気な文化は、そもそもまともな記録を残せない文化と表裏一体なのである。キチンと詳細に記述する訓練がないのに、偽造だなんだかんだいっても、もともと正確に記録していないのだからしょうがない。――なわけはないが、われわれの足下をよくみよと言いたいのである。大学にいれば、今の政治家やら官僚やらの言葉のいい加減さなんか、まじめな学生のまじめなレポートにさえ存在していることが明らかだ。別に悪意はないのである。能力的に、正確さが実現できないに過ぎない。

商人達はべつにいいのである。根本的にコソ泥みたいなところがないといけないひとたちだから。わたくしの知り合いでもいるが、――グローバルな商人というのはほぼ気がフレているレベルなのである。――だが、国民国家に仕える役人とか事務職はそれではだめだと思う。まあ、要するに、彼らが商人じみてきた訳であった。
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