「本が好き」献本に応募して頂きました。
家の近所の本屋に本書が創元新訳で並んでいるのを見かけ「クィーンの国名シリーズ懐かしいなー」と気になっていたので今回頂けてありがたかったです。
普通なら多分買わなさそうだし、買ってもすぐには読まなさそう。
しばらく前から海外小説は「新訳」ばやりのようでクィーンの国名シリーズも角川文庫などから新訳出ているのを認識していたのですが、今回は「創元推理文庫」の新訳。
私の中での国名シリーズは昔から「創元推理文庫」のイメージで、私くらい以上の年代の多くの人にはそんなイメージが有るのではないかと思います。
そんな「スタンダード」な旧訳は1930年代という原書が書かれた時代を考えると「味わい深い」と評価する人も多かったようですが、新訳出るのも時代の流れでしょうねぇ。
私のクィーン体験は中学生頃(30年位前)にドルリー・レーンシリーズ(X,Y,Zの悲劇、最後の事件、クイーンでなくバーナビー・ロス作という話もありますが…)から入り、国名シリーズを何作か読んで挫折したというありがちなもの。
(解説の辻真先氏も同様なことを書いている)
国名シリーズは第一作にして作家エラリー・クィーンのデビュー作「ローマ帽子の謎」第二作の「フランス白粉の謎」を読み「ニッポン樫鳥の謎」を「ニッポン」に惹かれて創元推理文庫で読んで終わり。
(今回調べたら「ニッポン樫鳥の謎」は国名シリーズに入れるかどうか微妙なようですが)
「フランス白粉の謎」などは緻密な構成に感心した記憶はあるのですが、当時の私にはどうも面白みがわからなかったような記憶があります。
エラリー・クィーンよりもドルリー・レーンの方が「耳の不自由な名優」というわかりやすいキャラクター設定の名探偵ですし、どことなくオドロドロしいところが中学生にもわかりやすかったんでしょうね。
4作で1つの謎を仕込んで完結させるスタイルもかっこいいですし。
エラリー・クィーンの人気は日本では特別に高いようで、’12年週刊文春ミステリベストでも6作(100作中)クィーン作品がランクインしています。
(英米ではそれほど評価が高くないようですが…)
文春のベストでも「Yの悲劇」が2位、「Xの悲劇」が14位と比較的ドルリー・レーンものの人気が高いようです、やはり一般受けするんでしょうね。
レーンシリーズを除くと「ギリシャ棺の謎」はクィーン作品として一番上の23位にランクインしており国名シリーズの中でとても評判の高い作品かと思いますが未読でした。
発刊が1932年と「Xの悲劇」、国名シリーズで42位にランクインしている「エジプト十字架の謎」と同年です。
「Yの悲劇」も翌年の1933年に発刊と、ロスとクィーンが同一作家とは思えないほど次々傑作を書いていた油の乗り切った時期の作品ですね。
「ギリシャ棺の謎」は国名シリーズとしては4作目、ただし大学を卒業したばかりのエラリーの活躍を書いており時系列的には一番前という位置づけの作品です。
内容(裏表紙記載)
盲目のギリシャ人美術商ハルキスの葬儀が厳粛におこなわれた直後、遺言書をおさめた鋼の箱が屋敷の金庫から消えた。警察による捜索が難航する中、クイーン警視の息子エラリーが意外なありかを推理する。だが、捜査陣がそこで見つけたのは、身元不明の腐乱死体だった―“国名シリーズ”第四作は、若き名探偵が挑む“最初の難事件”にして、歴史に残る傑作である。
本書を読む前SFばかり読んでいたので、久々に思いっきり「本格」の本道である国名シリーズ…読み出し初めはなんだかクラクラしました。
(「誰の死体」はいわゆる「本格」志向ではない気がする。)
SFは「拡散」型で話が展開していいきますが、本格ミステリーは基本的に事実に向かい「収束」しようというベクトルがありますね。
ただ、さすが「名作」かつ訳がいいのか、しばらくすると昔国名シリーズを読んだ時感じた「もやもや感」なくすっと作品世界に入って行けました。
これまた解説にも同様のことが書いてありましたが、昔は子供すぎて良さがわからなかったんだろうなぁ。
登場人物各々もミステリーの登場人物として過不足なく魅力的に書かれており、二転三転する「意外な展開」と「奇妙」な謎の数々にすっかり引きこまれてしまいました。
変に「文学っぽくしよう」という色気がなく、ただひたすら「謎解き」を楽しむためにどういった人を出し、どういったプロットにしたらいいかということを純粋に考えて書いたんじゃないかなーと思います。
クィーン自身も「こうすれば読者をこう振り回せるだろう」というのをかなり楽しんで書いている気がしました。
本作でのサンプソン地方検事の立場が丁度読者の立ち位置にいる感じで「いいから速く謎解きしろよ」とか犯人が指摘されたときの「前から怪しいと思っていたんだ」というような場面はまさに読者=私と同じ感想。(笑)
とにかく純粋に謎解き物語なので、変に説教臭い感じもなく、時代の波にも流されず古びず楽しめる作品になっていると思います。
鑑識の能力の低さとか、タイプライターを同定するところなどはまぁこの頃のミステリー感はありますが、それはしょうがないですね。
作品にある種の「感動」とか「教訓」、「人物ドラマ」を求める人には物足りないかもしれませんがひたすら純粋なまでに「ミステリー」です。
ラストのヒロイン(的な女性)の意外な恋愛成就の場面なども「小説」として考えれば安直なような気もしますが「本格ミステリー」としてみるとなんだかほほえましいです。
女性の魅力もあくまで謎解き物語の「コマ」としてしか使っていない。
ミステリーとしての感想ですが「真犯人」かなり意外感のある人物でした。
この時代のミステリーの場合「一番意外な人物」が犯人だろうと思いながら読んでいたのですが…見事に騙されました。
ちょっと「ずるい」かなぁとも思いましたが、ストーリー展開がうまいんでしょうねぇ、最後の最後までノーマークの人間が真犯人でしたが「なるほど」と感じました。
「すぱっ」と切られたような騙され方でなにやら爽やかさすら感じました。
ただよく考えると推理の論理構成やらちょっと脆い感じもしました。
そういう意味では「論理性」よりも結論の「意外性重視」の作品ともいえるかもしれません。(読み直せば納得できるのかもしれませんが...。)
ここから先は思いっきりネタバレなので未読の方はご注意。
疑問点
○根本的な問題ですが、真犯人は遺言書が消えたことを知りうる立場にいたのに何故、死体を棺に隠したのか?
騒ぎが起こっている状態であれば余計なことをしない方がいいような気がする。
エラリーの遺言書推理の後、棺から死体が見つかるという設定は絵的には最高なんですが…。
○エラリーのまちがった最初の告発
少なくともネクタイの色は目が見えている証拠にならないような気がしました。
弟の色盲を兄が知って指示書を書いていたとすればその方が自然なような…。
紅茶の方はまぁそういうこともあるかなーという所。
エラリーの「若さ」を強調したかったのかもしれませんが...。
○「読者への挑戦状」直後の告発で、確かに怪しいなーと思っていた人物を告発したので「なるほど」と思いましたがその時ブレット女史の犯行可能性を「探偵だから」ということで簡単に否定しています。
この時点で一番怪しそうな気がするのにそんなに簡単に外していいんでしょうか?。
ウォーディス医師との関係もこの時点では謎のままでしたし。
(意図的に残しておいた感じですが…これはフェアなのか?)
○「真犯人は別にいる」としたとき、ノックス氏を「金時計に入っていた1000ドル紙幣を告白」していたから「無実」だというのは弱いような…。
自分のタイプで脅迫状をわざわざ書くか?という方が除外理由としては強そうな気もします。 最初の告発で「狡猾な犯人」像を出していますし…。
ん…伏線だっのか?なるほど。(笑)
エラリーが作中で説明しなかった所も伏線が隠されていてよく読むとなにかがあるのかもしれませんね。(ブレッド女史の件なども)
もう一度読み返してみたくなってきました。
ストレートに読んでも二転三転する謎解き物語に夢中になれる作品ですが、一度全部読んでから見直しても楽しめる作品なのかもしれません。
そういう意味でも名作なんでしょうね。
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家の近所の本屋に本書が創元新訳で並んでいるのを見かけ「クィーンの国名シリーズ懐かしいなー」と気になっていたので今回頂けてありがたかったです。
普通なら多分買わなさそうだし、買ってもすぐには読まなさそう。
しばらく前から海外小説は「新訳」ばやりのようでクィーンの国名シリーズも角川文庫などから新訳出ているのを認識していたのですが、今回は「創元推理文庫」の新訳。
私の中での国名シリーズは昔から「創元推理文庫」のイメージで、私くらい以上の年代の多くの人にはそんなイメージが有るのではないかと思います。
そんな「スタンダード」な旧訳は1930年代という原書が書かれた時代を考えると「味わい深い」と評価する人も多かったようですが、新訳出るのも時代の流れでしょうねぇ。
私のクィーン体験は中学生頃(30年位前)にドルリー・レーンシリーズ(X,Y,Zの悲劇、最後の事件、クイーンでなくバーナビー・ロス作という話もありますが…)から入り、国名シリーズを何作か読んで挫折したというありがちなもの。
(解説の辻真先氏も同様なことを書いている)
国名シリーズは第一作にして作家エラリー・クィーンのデビュー作「ローマ帽子の謎」第二作の「フランス白粉の謎」を読み「ニッポン樫鳥の謎」を「ニッポン」に惹かれて創元推理文庫で読んで終わり。
(今回調べたら「ニッポン樫鳥の謎」は国名シリーズに入れるかどうか微妙なようですが)
「フランス白粉の謎」などは緻密な構成に感心した記憶はあるのですが、当時の私にはどうも面白みがわからなかったような記憶があります。
エラリー・クィーンよりもドルリー・レーンの方が「耳の不自由な名優」というわかりやすいキャラクター設定の名探偵ですし、どことなくオドロドロしいところが中学生にもわかりやすかったんでしょうね。
4作で1つの謎を仕込んで完結させるスタイルもかっこいいですし。
エラリー・クィーンの人気は日本では特別に高いようで、’12年週刊文春ミステリベストでも6作(100作中)クィーン作品がランクインしています。
(英米ではそれほど評価が高くないようですが…)
文春のベストでも「Yの悲劇」が2位、「Xの悲劇」が14位と比較的ドルリー・レーンものの人気が高いようです、やはり一般受けするんでしょうね。
レーンシリーズを除くと「ギリシャ棺の謎」はクィーン作品として一番上の23位にランクインしており国名シリーズの中でとても評判の高い作品かと思いますが未読でした。
発刊が1932年と「Xの悲劇」、国名シリーズで42位にランクインしている「エジプト十字架の謎」と同年です。
「Yの悲劇」も翌年の1933年に発刊と、ロスとクィーンが同一作家とは思えないほど次々傑作を書いていた油の乗り切った時期の作品ですね。
「ギリシャ棺の謎」は国名シリーズとしては4作目、ただし大学を卒業したばかりのエラリーの活躍を書いており時系列的には一番前という位置づけの作品です。
内容(裏表紙記載)
盲目のギリシャ人美術商ハルキスの葬儀が厳粛におこなわれた直後、遺言書をおさめた鋼の箱が屋敷の金庫から消えた。警察による捜索が難航する中、クイーン警視の息子エラリーが意外なありかを推理する。だが、捜査陣がそこで見つけたのは、身元不明の腐乱死体だった―“国名シリーズ”第四作は、若き名探偵が挑む“最初の難事件”にして、歴史に残る傑作である。
本書を読む前SFばかり読んでいたので、久々に思いっきり「本格」の本道である国名シリーズ…読み出し初めはなんだかクラクラしました。
(「誰の死体」はいわゆる「本格」志向ではない気がする。)
SFは「拡散」型で話が展開していいきますが、本格ミステリーは基本的に事実に向かい「収束」しようというベクトルがありますね。
ただ、さすが「名作」かつ訳がいいのか、しばらくすると昔国名シリーズを読んだ時感じた「もやもや感」なくすっと作品世界に入って行けました。
これまた解説にも同様のことが書いてありましたが、昔は子供すぎて良さがわからなかったんだろうなぁ。
登場人物各々もミステリーの登場人物として過不足なく魅力的に書かれており、二転三転する「意外な展開」と「奇妙」な謎の数々にすっかり引きこまれてしまいました。
変に「文学っぽくしよう」という色気がなく、ただひたすら「謎解き」を楽しむためにどういった人を出し、どういったプロットにしたらいいかということを純粋に考えて書いたんじゃないかなーと思います。
クィーン自身も「こうすれば読者をこう振り回せるだろう」というのをかなり楽しんで書いている気がしました。
本作でのサンプソン地方検事の立場が丁度読者の立ち位置にいる感じで「いいから速く謎解きしろよ」とか犯人が指摘されたときの「前から怪しいと思っていたんだ」というような場面はまさに読者=私と同じ感想。(笑)
とにかく純粋に謎解き物語なので、変に説教臭い感じもなく、時代の波にも流されず古びず楽しめる作品になっていると思います。
鑑識の能力の低さとか、タイプライターを同定するところなどはまぁこの頃のミステリー感はありますが、それはしょうがないですね。
作品にある種の「感動」とか「教訓」、「人物ドラマ」を求める人には物足りないかもしれませんがひたすら純粋なまでに「ミステリー」です。
ラストのヒロイン(的な女性)の意外な恋愛成就の場面なども「小説」として考えれば安直なような気もしますが「本格ミステリー」としてみるとなんだかほほえましいです。
女性の魅力もあくまで謎解き物語の「コマ」としてしか使っていない。
ミステリーとしての感想ですが「真犯人」かなり意外感のある人物でした。
この時代のミステリーの場合「一番意外な人物」が犯人だろうと思いながら読んでいたのですが…見事に騙されました。
ちょっと「ずるい」かなぁとも思いましたが、ストーリー展開がうまいんでしょうねぇ、最後の最後までノーマークの人間が真犯人でしたが「なるほど」と感じました。
「すぱっ」と切られたような騙され方でなにやら爽やかさすら感じました。
ただよく考えると推理の論理構成やらちょっと脆い感じもしました。
そういう意味では「論理性」よりも結論の「意外性重視」の作品ともいえるかもしれません。(読み直せば納得できるのかもしれませんが...。)
ここから先は思いっきりネタバレなので未読の方はご注意。
疑問点
○根本的な問題ですが、真犯人は遺言書が消えたことを知りうる立場にいたのに何故、死体を棺に隠したのか?
騒ぎが起こっている状態であれば余計なことをしない方がいいような気がする。
エラリーの遺言書推理の後、棺から死体が見つかるという設定は絵的には最高なんですが…。
○エラリーのまちがった最初の告発
少なくともネクタイの色は目が見えている証拠にならないような気がしました。
弟の色盲を兄が知って指示書を書いていたとすればその方が自然なような…。
紅茶の方はまぁそういうこともあるかなーという所。
エラリーの「若さ」を強調したかったのかもしれませんが...。
○「読者への挑戦状」直後の告発で、確かに怪しいなーと思っていた人物を告発したので「なるほど」と思いましたがその時ブレット女史の犯行可能性を「探偵だから」ということで簡単に否定しています。
この時点で一番怪しそうな気がするのにそんなに簡単に外していいんでしょうか?。
ウォーディス医師との関係もこの時点では謎のままでしたし。
(意図的に残しておいた感じですが…これはフェアなのか?)
○「真犯人は別にいる」としたとき、ノックス氏を「金時計に入っていた1000ドル紙幣を告白」していたから「無実」だというのは弱いような…。
自分のタイプで脅迫状をわざわざ書くか?という方が除外理由としては強そうな気もします。 最初の告発で「狡猾な犯人」像を出していますし…。
ん…伏線だっのか?なるほど。(笑)
エラリーが作中で説明しなかった所も伏線が隠されていてよく読むとなにかがあるのかもしれませんね。(ブレッド女史の件なども)
もう一度読み返してみたくなってきました。
ストレートに読んでも二転三転する謎解き物語に夢中になれる作品ですが、一度全部読んでから見直しても楽しめる作品なのかもしれません。
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「ギリシャ棺」は国名シリーズで一番好きな作品で、
最初に読んだ時の「びっくり」感は30年以上たった今でも鮮明です。
つっこみどころは多々ありますが、純粋フーダニットの金字塔として崇め奉りたい一作です。
といっても私は大昔の創元推理文庫版で読んだきりで、
最近の新訳はまったく読んでないのですが。
久しぶりに再読してみましょうか。
犯人意外ですよね、読了後1ケ月ですがすでに犯人を忘れかけているぐらいです(笑)
意外感のない犯人の方が、犯人の性格描写をするのには適するかと思いまが本作はおっしゃるように「純粋」フーダニットの謎解き小説で、これはこれで気持ちいいです。
「新訳」他は読んでいませんが少なくとも本作は若きエラリー・クィーン感が出ていて良かったと思います。
お薦めです(^_-)