《試練》――現在史研究のために

日本の新左翼運動をどう総括するのか、今後の方向をどう定めるのか

‘朝鮮半島にもはや戦争はない’と全世界に宣言――南北首脳会談は21世紀の新たな型の民族自決のうねり

2018-05-06 19:39:07 | 韓国・朝鮮問題

‘朝鮮半島にもはや戦争はない’と全世界に宣言

――南北首脳会談は21世紀の新たな型の民族自決のうねり

 

(1)板門店宣言をもって朝鮮半島の平和、繁栄、統一への歩みが始まった

 去る4月27日、韓国・朝鮮の南北首脳会談が開催され、東アジア史上のみならず世界史上も画期的な歴史的転換が印された。文在寅(ムン・ジェイン)大統領と金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長による板門店宣言は、「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店(パンムンジョム)宣言」と題され、「両首脳は、朝鮮半島にもはや戦争はなく、新たな平和の時代が開かれたことを8000万のわが同胞と全世界に厳粛に宣言した」「南と北は、わが民族の運命は自ら決定するという民族自主の原則を確認し、すでに採択された南北宣言とすべての合意を徹底的に履行することで、関係改善と発展の転換的局面を切り開いていくことにした」と高らかに謳いあげている。

 2018年の年内の休戦宣言および停戦協定の平和協定への移行をめざすことが表明された。それは3か条13項の確認をもつ宣言である。「朝鮮半島の非核化」も書き込まれた。その後、北朝鮮は豊渓里(プンゲリ)にある核実験場の閉鎖の動きを示している。

 この板門店宣言で「朝鮮半島の平和と繁栄、統一」が明確に宣言されたことは、言葉で言い表されないほどじつに大きな意義がある。なぜなら、第二次世界大戦後の世界における最大の矛盾点あるいは最後の反動の砦の一つ、朝鮮三八度線=軍事分断線を解消するという問題をついに現実的な日程にのぼせたことを、それは意味するからだ。

 日本帝国主義の植民地統治で苦しめられてきた朝鮮民族をさらにまた南北に分断、対立させ、朝鮮半島を戦場と化し、同族の殺し合い、分断反対への血塗られた鎮圧、膨大な戦死者、被虐殺者、投獄者、家族離散、失郷民、在日の分断、数多のディアスポラの痛恨の犠牲を生みだしている三八度線――。その打破が、少なくとも打破の可能性が宣言されたのだ。ここに朝鮮半島をめぐる諸悪の根源が取り除かれる道が開かれた、と言ってもけっして過言ではない。

 考えてもみよう。

 東西ドイツのベルリンの壁崩壊からソ連崩壊、ニューヨークやワシントンなどでの9・11反米同時ゲリラ戦、それへのアメリカの反テロ戦争、ムスリム人民の世界的規模での決起、そして未曽有の3・11東日本大震災、それにともなう恐るべきメルトダウンと放射性物質拡大・汚染をもたらした福島原発事故、原発安全神話の崩壊をメルクマールとして、戦後世界の支配体制が次々と瓦解してきている。そして今回の板門店宣言の発出は、また一つ大きな衝撃を世界支配体制に与えた。それは、これまでのどの衝撃的事態にもまして、アメリカ一極支配と言われる世界支配体制をその内部からガラガラと突き崩す決定的な転回点となるであろう。

 南北首脳会談とその板門店宣言に、韓国の非常に多くの老若男女が大歓迎していると伝えられている(各種世論調査では80%が賛成もしくは90%が賛成という結果)。ほとんどの在日コリアンが心から感激している様子が伝えられている。北朝鮮における歴代の金世襲党=軍事独裁政権による南北分断支配下で苦しめられてきた北朝鮮人民も、きっとそうであろう。

 日本のわれわれも新しい時代の転換点を目の当たりにしたという、言いようのない感動を抑えることができない。近代以来、朝鮮半島を取り巻く大国の一つとして、朝鮮民族を苦しめるばかりか、長きにわたって直接に植民地支配してきた日本。この日本の労働者人民は、今こそ朝鮮民族に強いてきた今日までの苦難の歴史に思いをいたし、自らの抑圧民族としての加害性を自覚し、その立場から歴史的な南北会談の意義を重く受け止め、ともに喜ぶということではないだろうか。

(2)アメリカの世界支配護持の壁

 だが同時に、板門店宣言はアメリカの世界支配体制護持の全重量と対峙しているのであり、本質的に、それを打ち破ることなしには実現しないものである。なぜなら、一つには、アメリカおよび周辺の大国である日本、中国、ロシアは朝鮮の南北分断を生み出しきた元凶であり、南北分断を是としてきたのであって、けっして朝鮮の南北統一を望んでいないからである。今一つには、実際、南北会談とその板門店宣言は5月末か6月初旬と言われる米朝首脳会談への橋渡しとしての位置を担うものであり、それ自体では自己完結しえないものであるからである。

 ほんの少し前、トランプはその大統領一般教書演説で、北朝鮮を「残虐非道なテロ国家」と声高に糾弾した(1月30日)。また政権発足以来、駐韓大使が不在のままという異常な対韓政策をやっている。最近浮上した駐韓大使案がハリス米太平洋軍司令官という軍人なのであり、軍事的利害と観点からしか朝鮮半島を位置づけていない。

 そのアメリカ・トランプ政権が板門店宣言にどう対応するのか、北朝鮮の核武装の解除をどのように進めようとするのか。それによっては北朝鮮側が硬直化し、それを口実にアメリカが北朝鮮への核先制攻撃を行使しかねないという危機を、この朝鮮半島非核化プロセスは孕んでいる。仮にトランプ・金正恩会談が成立したとしても、それはこのプロセスの一段階にすぎない。今後の過程で、米朝のどちらかが、どこかの段階で、席を蹴って立つ事態もありうる。

 金正恩は対内的には「完全な核戦力を建設し、自力自強の力を確立した」「だから米が交渉に出てこざるをえなかった」と説明しているが、実際には米に対して大きく譲歩する道を選択せざるをえなかった。いったん譲歩した北朝鮮に対して、アメリカはどこまでも北朝鮮を追い詰めるであろう。ボルトン大統領補佐官などはリビア・カダフィ政権を崩壊させた事態を念頭に置いている、と言われている。事実、米側は、ポンペオが5月2日の国務長官就任式で、これまで強調してきた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」に代わって「永久的かつ検証可能で不可逆的な核廃棄(PVID=Permanent,Verifiable,Irreversible Dismantling)」を提示した。「完全な」を「永久的な」に、「非核化」を「核廃棄」に変え、核・ミサイル開発能力を不能化するというもので、核問題交渉のハードルを上げたのである。

 アメリカは従来から北朝鮮の独裁体制の内的危機をにらんでおり、侵略、内政干渉、体制転覆の機会を狙っている。さらに北朝鮮の地下に眠る厖大な鉱物資源の強奪の機会をもうかがっている。

 彼らはすでに対北朝鮮侵略戦争計画を何度も練り直し、対イラク、対リビアの戦争経験を踏まえて、対北朝鮮の核先制攻撃体制を強化してきていることを忘れてはならない。最近ではブラッディ・ノーズ(鼻血)作戦を立案したと言われる。そしてそれは、対韓関係の暴力的な再編とも連動する。

 アメリカの北朝鮮ならびに韓国へのその帝国主義的野望を軽視することはできない。板門店宣言実現に対してアメリカの世界支配護持の力学が大きな壁として存在しているのである。

(3)金正恩の大路線転換の陥穽

 関連していま一つ、ここには金正恩体制の大路線転換が孕む危機があることを見なければならない。

 2018年4月の朝鮮労働党中央委員会7期第3回総会が事実上の党大会として開かれ、そこで、それまでの核軍事力建設と経済建設の並進路線から前者の完成の確認と後者の重点化への移行=転換の決定がなされた。彼らは、一方では、あまりにも過大な軍事力負担にあえいでいる。他方では、資本家的商品経済の採用を徐々に拡大してきたが、いわゆる私的経済分野は今では経済全体の5割におよぶという分析もあり、それはもはやアングラ経済ではなくなってきている。官僚主義的統制経済はまったく行き詰まってしまっているのである。北朝鮮人民の苦境と怨嗟の声はますます強まっている。それゆえ、南の資本力の導入を大きく図ることで、疲弊した経済を立て直そうとするものである。それは北朝鮮式のペレストロイカと言えよう。

 そこには中国による北朝鮮経済への介入、それに対する北朝鮮側の牽制という問題が孕まれており、中朝関係の緊張ある展開をみておかなければならない。

 その大路線転換は、金正恩の想定するような整合的・予定調和的なプロセスをたどることはないだろう。むしろ北朝鮮の体制全体の内的化学変化を引き起こし、体制崩壊への呼び水、瓦解点となる可能性が高いと見なければならない。同時にまた、路線転換した北朝鮮に対しては、アメリカや日本の帝国主義的侵略と内政干渉、体制転覆策動、中国、ロシアを含めた国際的パワーポリティクスの展開が襲いかかるだろう。

 そもそも大路線転換と言っても、金体制は南北統一を果たそうとは決してしない。南北分断の分断国家であるがゆえに成立し、軍事的分断・対立を動機とし目的とする体制として展開してきたのが金日成以来の北の体制なのである。北のヘゲモニーによる武力統一を願望した時もあったが、それが非現実的であることはとっくにわかっている。

 したがって、金正恩の今回の路線転換は予想を超える無慈悲な苦難を、また新たに南北朝鮮人民に強いる事態をもたらすことが考えられる。米朝国交正常化とか日朝国交正常化を謳い文句に、北朝鮮の市場と労働力と資源(厖大な鉱物資源が地下に眠っていると分析されている)を支配せんものと強盗どもが虎視眈々と構えているのだ。

 北朝鮮・金正恩独裁の体制護持と体制崩壊の錯綜したプロセスの到来という要素を考えるならば、平和と繁栄と統一への道はけっして平坦なものではありえない。

(4)文在寅大統領のイニシアと新しい型の民族自決

 しかしまた最も重要なことは、この板門店宣言をもたらした原動力こそ、韓国人民の長年にわたる流血と汗みどろの営々たる民主化運動であるということではないだろうか。とりわけ、1700万人におよぶチョッブルデモを頂点とする韓国人民の闘いが文在寅政権を実現したことが今、東アジアと世界の歴史を動かしている。文政権が短期間のうちに準備に準備を重ねて成し遂げた快挙が板門店宣言であると言ってもいいだろう。南北の実務交渉から南北首脳会談へ、そして米朝会談への一連の政治過程は、明らかに文在寅イニシアティブで進められているのである。

 その文イニシアは、前2回の南北首脳会談と比べても、今回の会談をしてきわめて現実的で重い実質をもつものとしている。と言うのは、板門店宣言は、当日の発表に止まるものではない。韓国の文在寅大統領は、この宣言を閣僚会議審議→大統領批准→国会同意→公布の手続きをとって揺らぐことのない法的効力のある文書にしようとしている。北朝鮮の金正恩国務委員長の側もそれに相当する措置をとるかどうかは不明だが、少なくとも彼は「この合意が、スタートを切っただけで終わった歴代の合意書のように、残念な歴史を繰り返さないよう、私たち二人が緊密に協力し、必ず良い結果が出るよう努力していく」と表明している。これらのことは、今後さまざまな紆余曲折や逆転局面があろうとも、転換の流れを確固たるものにするであろう。

 また文在寅という政治家の特質も小さな要素かもしれないが、重要な意味がある。文大統領の父母は朝鮮戦争の際の北からの避難民である。文氏は父が働いていた巨済島の捕虜収容所で生まれ、貧しい生活の中から苦学し、学生時代も、弁護士になってからも人権弁護士として民主化運動の先頭で闘ってきた。その間、南北分断による軍事独裁、不正腐敗、さまざまな民族の悲劇を身をもって体験してきた。廬武鉉(ノ・ムヒョン)政権の中枢に入った時、せっかく民主化政権が成立したのにそれを踏みにじってしまった政権内外の腐敗という辛酸をなめた。私利私欲に走り、私腹を肥やす大中小の権力者のあり方を忌み嫌ってきた。

 「積弊の清算」という文大統領の政策は、彼自身の人生の信念にほかならない。分断国家ゆえのありとあらゆる弊害を清算しようとするその政策は、確固たる路線である。

 それはまた対外政策に反映されつつある。

 李承晩時代・朴正煕時代以来、周辺の大国に翻弄され、その支配の欲望に抗うことがなかった積弊をまさに清算しようというのである。南北首脳会談と板門店宣言に表わされた「わが民族の運命は自ら決定するという民族自主の原則」に、文政権は死活をかけようとしている。同じく署名した金正恩は、それに引きずられていると見ていいだろう。こうして今、文政権は南北分断とその軍事的対峙の解消に向けて、不退転の歩みを始めたのである。

●民族独立の歴史的伝統を甦らす

 この点で、文大統領の2018年3・1節での演説(別掲参照)は注目すべきものである。そこでは、99年前の3・1独立運動の意義を改めて強調し、3・1以来の数多の民族独立の流血の闘いとその伝統を讃え、その流れの中に昨年のキャンドルデモがあることを表明している。

 そして「私たちには3・1運動という巨大な根があります。解放と国民主権をもたらした民族の根です。……私たちは、これ以上自身を卑下する必要はありません。私たちの力で光復(1945年8・15解放)を作り上げた、誇りあふれる歴史があります。私たちは、自らの平和を創りあげる力があります」と力強く宣言している。

 3・1独立運動の精神と闘いと伝統を21世紀の世界史の中に復権、継承し、その道を進むことに、朝鮮民族の尊厳をかけようと全韓国民に訴えているのだ。文大統領と文政権とは、このように世界史的に独自の輝きを発する存在なのである。

 再び板門店宣言に戻るならば、同族が殺し合う戦争は二度とけっして起こさせない、という必死の思いがそこにはある。これが朝鮮半島と東アジア、ひいてはアメリカや世界を動かす大きな要因となっている。翻ってみれば、南北首脳会談以前の段階では、韓国の新しい政権が世界史を規定する大きなファクターとなっていることを、ほとんどの論者や党派が軽視ないし見誤ってきた。それが間違いであったことはもはや明らかである。

 言い換えれば、今回の南北首脳会談は、歴史的に見れば、21世紀における新しい型の民族自決のあり方を創造しているのではないだろうか。“朝鮮民族の問題は朝鮮民族で解決するのだ”という論理が事態の根本で働いているばかりか、その論理にさしあたってはアメリカ、中国、ロシア、日本など大国が、不協和音を発しつつも、異議を唱えることができないでいる。

 たしかに朝鮮半島の平和と繁栄、統一への歩みは始まったばかりである。だが、今後急速に事態が前に向って進んでいくことは保証されたとみていいだろう。

 大事なことは、「平和」が「繁栄」の前提であり、条件であることが含意されていることである。そして「平和」と「繁栄」の土台の上に「統一」が長期的視野で展望されていることである。

 すなわち、平和、つまり南北の軍事的対峙の解消がなければ、繁栄も、統一=南北分断打破もありえないのである。だから、板門店宣言では、「繁栄」にかかわる事項は控え目であり、「統一」については原則の確認以上ではない。

 21世紀における朝鮮の民族自決の挑戦がこうして始まっている。

 あまりにも大きな世界史的転換であるがゆえに、単純ではない複合的な展開の要素が奥に秘められていることを認識すべきであろう。

●日本の労働者人民を叱咤激励

 いずれにせよ、これはその結果において、日本の労働者人民を根底的に叱咤激励するものではないだろうか。

 沖縄の辺野古基地建設阻止・自衛隊基地建設反対・すべての米軍基地撤去・沖縄差別構造打破を最先頭・最基軸とする戦争反対・日米安保体制打破の闘い、9条改憲阻止、天皇代替わり儀式反対、天皇の国家元首化反対、戦争国家づくり反対、一切の原発廃炉、三里塚農地強奪阻止、裁量労働制・残業代なしの長時間労働などあらゆる労働強化に反対、非正規職撤廃などすべての格差打破を始めとする闘い、さらにはMeeToo運動にとって有利な条件を与えてくれたと言えるのではないだろうか。

 韓国・朝鮮、そして在日コリアンの人々に心からの敬意を表するとともに、日本の闘いの現状を省みて奮起し、韓国・朝鮮・在日人民とともに進撃する決意を新たにしたい。

2018年5月4日

隅 喬史(すみ・たかし)


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