思索の日記 (クリックで全体が表示されます)

武田康弘の思索の日記です。「恋知」の生を提唱し、実践しています。白樺教育館ホームと共に

ベートーヴェンピアノソナタ30~32 ポール・ルイスin王子ホール、健康な人間精神に勝るものなしの証明

2015-12-18 | 芸術

ときにクラシックにありがちな、
教養主義的で権威主義的な臭い、
独我論的閉じこもり、
エリート臭、
固く重いムード、神は偉大なり(笑)みたいなお説教。
もうとっくに時代錯誤な「孤塁を守る」かのような保守性。

そういう世界とはまったく無縁、わたしの心身で感じ、わたしの心身の声を聴き、わたしの内からの善美に従う。深く豊かなよろこびの音楽の湧出。それが、いかに輝かしく、いかに心身を動かし、頭脳を活性化させることか!昨晩のポール・ルイスは、それを見事なまでに証明してくれました。

ベートヴェンの最後のピアノソナタでも、そのようなアプローチが可能であり、否、そう演奏した時にはじめて、表層の複雑さに隠れていたベートーヴェンの真髄が露わになる、なにかしらの権威に従うのとは逆に「自由な人間の人間的な生」をつくり出そうとしたベートーヴェンの意思が明瞭になる、それが現実の演奏で示されたのです。踊り出しそうでした(笑)。

32番の2楽章、ベートーヴェンのピアノソナタの最後ですが、ここにみる革命性は、恐ろしいほどの次元です。それは現代音楽であり、モダンジャズであり、さらにそれらも超えた現代性→未来性をもちます。生涯、既成の世界と闘い続けた革命家(モーツァルトもそうでしたが)である彼の真骨頂です。伝統に囚われている人や特定の思考枠をもつ人では、その凄味を表現するのは不可能です。しがらみのない、因習を持たない真の自由人でなければ、この根源的で独創的な音楽の再創造はできないはず。

ポール・ルイスの演奏は、すこぶるモダン、まるでジャズの即興演奏のようであり、いま創られた現代音楽のようであり、全身で感じ切っての演奏でした。観念の鈍感さとは無縁、

神秘主義や思想や宗教臭さとも無縁、健全で健康な精神をもつすばらしく人間的な情緒と意志と感情に基づく音楽で、生きています。あふれんばかりの生命力で、あらゆる停滞を乗り越えます。ベートーヴェンがここでピアノソナタを閉め、第九をミサソレムニスをディアベリ変奏曲を生みだした訳が分かる演奏です。彼は、「諦念」や「黄昏」をつくったのではないのです。

そして、最後の一音の強い余韻消え、20秒ほど、静まり返り、誰も拍手できません。ルイスが身体を戻すまで、張りつめた静寂が支配しました。
輝く力に満ちた現代の新しいベートーヴェンが誕生した瞬間です。音ではなく、真っ向音楽です。

実に人間的、実に自由、実に生命力のある音楽で、心身も頭も愉悦に満ち、内部から湧き上がるよろこびとパワーを抑えることができません。ルイスに感謝!う~~~~ん、実に見事!

以前に、後期のこの3曲のCDがEUで発売されたとき(日本盤はない)、英国で年間最優秀アルバムに選ばれたことを昨晩知りましたが、CDに聴く解釈は、基本は変わりませんが、その確信の強さと表現意欲は大きく異なり、昨晩の演奏は、迷いのないルイスの絶対の自信に裏打ちされた演奏でした。

昔のビートルズも、サイモン・ラトル(現在、ベルリンフィルの常任)も、新しい世界を拓く人間をいち早く見抜き、称賛する英国の憎たらしさ(笑)。日本の囚われ。

 

演奏会が終わり、サイン会のためにわたしがつくったA3のポスター=ルイスのジャケット写真を真ん中に置き、ベートーヴェンの10枚(32曲全曲CD)のジャケット写真を周りに配置したもの=を持って歩いていると、品の良い明るく聡明そうな初老のご婦人が話しかけてきました。
「わたし、前は、ベートーヴェンはちょっと苦手だったのよ。CDでルイスのベートーヴェンを聴くまではね。でも、今は、ベートーヴェンが一番!いろいろ好きですけど、なんと言ってもベートーヴェンね。今日の演奏、もう、最高~~~」と。階段を下りながら、意気投合してお話しました。「ベートーヴェンってね、固くて、権威的で、とっつきにくかったのに、ルイスさんの演奏だと、まったく違うの。もう素敵なのよ。」

そうです、そ~~なんです(笑)。

人間がつくった「神」とか「悪魔」という観念がありますが、そういう言葉を用いて表現すれば、
【神を上回り、悪魔をもんだいにもしないのは、健全な人間だ】、と言えます。

昨晩12月17日の「王子ホール」には、エロースがムーサ(ミューズ)と共に降り立ちました。ポール・ルイスが、ちょうど生誕245年のベートーヴェン(誕生日)と共にね。ホールにいた300名は何と幸せなことでしょう。

32曲全曲CDについては、クリックしてください。



これ以外の8枚の写真は、FBに載せました。クリックで出ます。
https://www.facebook.com/yasuhiro.takeda.359/media_set?set=a.931044890323214.1073741851.100002531353665&type=3

武田康弘

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1 コメント

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聴いてみたいー (染谷博美)
2015-12-21 17:38:16
タケセン、私も今度機会があったら聴いてみたいです。自宅でよく裕太のオーディオとCDを借りて聴いていますが、生演奏を是非聴いてみたい。まるで文字が生きてるみたいに生き生きありありと感動が伝わってきてブログを読みながら涙があふれてきた私です。なおさら聴いてみたくなるー。(オーディオ選びやCD、カメラなどタケセンの協力とアドバイスのおかげで裕太がよいものを持っているので、ちゃっかり借りて私まで恩恵を受けありがたく思います。感謝です) はぁ~ この写真のルイスも素敵ですね。

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