シニア世代の恋愛作法(白浜 渚のブログ)

シニア恋愛小説作家によるエッセイ集です
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波(2)

2016年02月23日 11時17分15秒 | シニアの恋
波(2)

「退職金を使って車を新しくしようと思うんだがね。」
上岡良樹は、退職後一週間ぐらいは家の近所を散歩したりして過ごしていたが、車を買い替えて妻と新車でドライブに行きたいと思った。退職金の一部を使えば十分買える。
「今の車はもうだめなの?」
「いや、そういうわけじゃないけど、今なら無理なく買えるし、たまにはお前とドライブを楽しみたくてね。」
「ドライブなら今の車でもいいんじゃない。私は満足よ。これからは年金だけで収入は減るんだし、お金は大切に使う方がいいわよ。」
「・・・」

予想通り渋い妻の反応だ。まだ結論は出していないが、考えてみれば確かに妻の言う通りだとも思った。しかし、まだ諦めきれない気持ちが強い。今のカローラも休日のゴルフか、たまに妻とのドライブ以外には使っていないので走行距離も八万キロを少し超えたところでまだまだ快調だ。新車は確かに高価な買い物だが今なら現金で買える。最新のハイブリットを乗り回してもみたい。今買わなければ二度とチャンスはない。そう思うと矢も楯もたまらない気持ちになってくる。

翌日午前中に近くのディーラーに一人で出かけて試乗をしてみた。店員の説明を聞いてハンドルを握ると久しぶりに胸がときめく。新車の匂いを楽しみながら恐る恐るアクセルを踏むと車は音もなく動き出した。アクセルを踏んでも従来のようなエンジン音が無いのがちょっと物足りないような気もするが滑るように加速する感覚が新鮮だ。サーっというタイヤの音と路面の凹凸を拾うにぶい感触だけが伝わってくる。速度を上げていくといつの間にか軽いエンジン音に切り替わっていて違和感はなかった。もともとドライブ好きな良樹はもう内心買うことに決めていた。帰ると昼を少し過ぎている。
「どこへ行っていたの、いつの間にか居なくなっていたからどうしたのかと思ったわ。」
「車の試乗をしてきたよ。ハイブリットはやっぱり良いなぁ。やっぱり買うことに決めたよ。いいだろう。」
「別にいいわよ。あなたが決めたことだから、反対してもどうせ買うんでしょう。それよりお昼にしましょうよ。用意はできてるのよ。」

二週間後にレッド・ボディのカローラアクシオ1500ハイブリッドが来た。ボディカラーは妻の意見も入れて決めた。配送されてきた新車を二人は眩しそうに眺めた。良樹は内心誇らしかった。綾乃もさすがに笑顔を見せ、塵一つない新車のボディに手を当てて見入った。
「早速、試運転を兼ねて買い物に行こうか。」
今まで買い物に自から進んで行こうなど言ったことの無かった夫が言い出したので綾乃は内心やや白けた気分になったが言葉には出さなかった。

次回のテーマは   「波(3)」 です。



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