信州の感染症的な生活

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プレイバック松本エイズパニック in 1986

2009-12-16 | HIV
先々週の長野市で内輪のHIVセミナーを行った際に話題に上がった1986年11月の「松本エイズパニック」同じ場所に暮らす場所に暮らす者として,当時何があったのか整理するために当時の新聞を当たってみました.

当時社会問題となっていた「じゃぱゆきさん」と呼ばれたフィリピンからの出稼ぎ女性の1人がエイズ感染であることが判明(当時はHIV感染と発症どちらもエイズで一括りになっている).彼女が主に松本のスナックで50人程度の男性に売春していたことから,彼女が商売していた店や接触相手が詮索されたり,うわさが独り歩きして,外国人女性であるということだけでスーパーやレストランなどの入店を拒否するところがあったり,松本市民が県外での宿泊を断られたり,松本ナンバーの車が追っかけられたりした,悲しい事件でした.

驚いたのは感染疑いの段階でいきなり実名報道されていること,実名報道されたが故に検査後の結果は公表されていないこと,公表されてはいないがあたかも3次感染を防げと言わんばかりの対策がとられていること,プライバシー保護を唱えつつも当時のバタバタした対応が目に浮かびます.

意外だったのは地元紙はきっちりとした記事になっていますが,全国紙の扱いはごくわずかであり,週刊誌の見出しなどをみると「さわやか信州・松本エイズの里騒動」とかなりはやしたてられていますので格好のワイドショーネタになっていたんだと思います.

自分自身いくつか勘違いしているところがあって,日本でのHIV感染者のお初だと思っていましたが,お初は前年の3月で,この時点で輸血や男性同性愛による感染で21人の感染者が確認されていたようです.「松本事件」は正確には日本での外国人女性のお初で,エイズを性交渉で感染するより身近な病気として世間に認識させた事件だったのかも知れません.(翌年1月に続く「神戸事件」はCSWの日本人女性でのお初だったようです.)

印象的だったのは「同性愛やセックス産業とは無縁な特定疾患患者たちは,エイズ騒ぎの最大の被害者といえる」という記事のくだり,輸血で感染した人は被害者で,性行為で感染した人は自業自得を言わんばかりの論調です.そして20年以上たった今でも感染経路で差別する問題の根っこはあまり変わっていないのかも知れません.

悲しい思いをした松本という場所だからこそ,その思いを風化させないようにしたいと思います.

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