震災漂流物が北米西海岸に到達し、生態系の破壊や、漁業への影響などが心配されています。
米西海岸を襲う「震災漂流物」
日経ビジネス2012年8月6・13日号より 除去費用について書かれた部分を抜粋
財政を圧迫、ボランティア頼み
州政府は、桟橋を地元の漁港で再利用することも検討した。だが、外来種が侵入する危険があるため、解体撤去して、素材だけリサイクルに回す。
問題は、そのコストだ。解体専門業者に州の公園レクリエーション局が支払う額は8万5000ドルに上る。支払い後、局の予算は2013年夏までの1年間、残高3万ドルという逼迫した状況に追い込まれるという。
しかも、「Tsunami Dock」は大量の漂流物のごく一部にすぎない。オレゴン州の海岸線は585kmにも及ぶ。震災の影響で、発泡スチロールやプラスチック容器などが大量に漂着しているため、同局は海岸沿いの32カ所に、漂流物専用のゴミ箱を設置している。この維持費が月1万ドルほどかかる。
また、「津波漂流物ホットライン」も設置した。海岸に漂着した物体の情報をいち早く集め、処理方法を指示・検討するためだ。今後2年間で、1O万ドルの経費を見積もっている。
津波漂流物ホットラインを担当するNPO「211」では、6月末の開設から1ヵ月間で、約200件の問い合わせを受けた。漂流物に油や薬品が含まれているような「危険物」は、すぐに電話を「ナショナル・レスポンス・センター」に転送する対応を取っている。
州の見積もりでは、津波漂流物の処理にかかる費用は今後2年間で、150万~350万ドルにも上るという。米国政府は、津波漂流物の撤去費用として、西海岸のオレゴン、ワシントン、ハワイ、カリフォルニア、アラスカの5州に、それぞれ5万ドルを援助する方針だ。しかし、それでは桟橋の撤去費用にも足りない。
北部のアラスカ州では、海流の影響でオレゴン州をはるかに上回る漂流物が海岸に押し寄せている。アラスカの下院議員は、米国政府に4500万ドルの援助を要求している。
オレゴン州では予算不足を、公共施設の維持費削減で対応することを検討している。だが、米国では州財政の逼迫から、公園や海岸の閉鎖や、職員のリストラも実施されている。「そうした事態だけは避けたい」(州担当者)。
「日本に撤去費用を払わせろ」そう担当者に主張する住民も1人だけいた。だが、2万人が亡くなった国に、そんな要求を出すことは憚られる。
「州の財政は厳しいが、桟橋はギフトだと思う」。州の担当者はそう話す。桟橋を前に、見知らぬ人々までが、日本の津波被害を語り合う姿が見られる。「その光景を見ると、太平洋沿岸に住む者として、他人事とは思えない。災害を考える機会を与えてくれた」。
州の予算不足を補うかのように、漂流物の撤去や清掃に奔走しているのが、ボランティアのメンバーだった。
43年にわたってゴミ拾いを続けるボランティア団体「SOWE」。6~7月の2ヵ月で、津波漂流物を掃除するために5000個の専用ゴミ袋を無料で捉供した。海岸ごとに責任者を決めて、ボランティアを率いて、容器や発泡スチロールを拾って歩く。延べ4万人のボランティアが参加している。
「夏は多くの人が海岸に繰り出してくれる。だが、寒さが厳しい冬が心配だ。漂流物が放置されるのではないか」SOLVEコーディネーターのブリアナ・グッドウィン氏はそう懸念する。
米国やカナダの海岸沿いには、あと2年は、震災の漂流物が打ち上がってくると予測されている。北米大陸西海岸の「震災」は始まったばかりだ。 (長野美穂;在米ジャーナリスト)