児玉真の徒然

峠にたつとき
すぎ来しみちはなつかしく
ひらけくるみちはたのしい
(真壁仁 峠)

質を感じると言うこと(エクセルシオのアウトリーチの話)

2008年08月11日 | 徒然
質というのは主観的なものだから基準にしにくい、と言うことは事実だとしても、最近は質にはあんまり拘らない人が増えているような気がする。まあ、私が若かったときもきっとそう言っていた大人がいたに違いないけれどね。戦後の第一期漫画世代としては、あの頃夢中で漫画やテレビを見ていたのとは、今は違うように感じるが・・・。社会全体が漫画の質というものを考え始めたのはもう少し後のように思われる。

さて、質の話しである。アウトリーチなどをやっていることで、いろいろな質感への感覚が変わってくるということはありそうなことだ。まず、聴く方ではなく当事者側のほうから変調を来してくるのである。だから、自分自身で意識的にそれを思考の俎の上に載せ、検証する気持ちがないと危ないのだ。何しろ、アウトリーチでは、誰も「あんたは下手だ」と言ってくれないし、聴き手の通常の意思表示方法である「来ない」ということをアウトリーチは想定していない訳だから。油断大敵。
演奏の質だけではない、企画の質、というものもある。これは実はもっと難しい感性を求めるかも知れない。しかし、一方ターゲットが明快なアウトリーチ活動は、企画をブラッシュアップして質感を高めるには良いツールでもある。

さて、今年「音活見本市」から格上げされ?、「地域創造フェスティヴァル」になった夏のイベントは、なかなか充実していた。まだ企画としては統一感が充分ではなかったような気もするが、そのことはさておき、今回はその中の講座の一つで「アウトリーチのプログラム(曲目構成と進行案)のブラッシュアップ」を演奏家と話していくということをやってみた。約1時間45分ほどの講座の中で。まず活動を紹介し、ヴィデオを見てもらい、それから架空の進行プランをもとに話しを始めた。ディレクターやコーディネーターが演奏家と「サシで」音楽パフォーマンスについて語る訳である。もちろん、音楽そのものの話しはあんまりしません。性格付けはするけれど・・・。まあ、地域創造では音活フォーラムと言う企画があり、そこではコーディネーターは演奏家と共に実戦的にプログラムづくりをしていくわけだけれど、それは演技指導のようなものになるので、かなりの労力と時間を要求される。今回のは、演奏家とコーディネーターが経験が有り、具体的なイメージを持てる状態であれば、そこのところはオンザテーブルで話せるのではないか、ということなのである。それと共に、ホールの担当者がその役割をすることで、演奏家を知り、音楽を知り、パフォーマンスを知ることができ、それは一種の能力に繋がっていくはずなのだ。

今回付き合って頂いたのは、クァルテット・エクセルシオのセカンドヴァイオリン奏者山田百子さんで、彼女は昨年、今年とエクセルシオのアウトリーチのプログラムを考える担当をしている(これは各メンバーが順番でやってきた)。考えるだけでなく、現場でも聴き手に対する責任をその人が持つ、と言う考え方である。オーボエ奏者のご主人が「うちのは最近、ヴァイオリンを持っている時間よりも、パソコンに向かっている時間の方が長いかも」といっているくらいだから、常に「何をするのか、どうするのか」を考えているのだろう。彼女との対話でも、私が考えていないようなことまで考えている局面が何回かあった。スイッチが入ったときの演奏家の勘の良さは素晴らしい。こういう人は、企画の質感にもきっと気がついているに違いない。エクのアウトリーチプログラムの進歩は、こういうところからも生まれているのだろう。

まあ、最後は演奏が良くないといけないのだけれど、アウトリーチも形を作るだけだと魂は入らないし、形が出来ないと魂を入れることが出来ない、ということだと思う。




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1 コメント

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質の話 (へっぽこ)
2008-08-16 09:15:25
こんにちは。

質の話、ですか。
実は、医療の世界というのも「質」の話が大好きで、今のブームは医療の質を指標化する「臨床指標」のあり方についてだったりします。そもそも日本の医療は、世界的に見て「あまり質が高くない」と言われているのですが、同じ治療をしてもプロセスもアウトカムも医療機関によってバラバラだ、というのは、多くの人が感じていたところでした。その理由を医師に聞けば「うちの患者は重症度が高いんだ」。

質を指標化するということには危うさを伴うのも事実だし、どこまでそれに効果があるかは慎重に見極めることが必要だと思うのですが、臨床指標の話題があつくなるにつれて、医師・病院も独りよがりの「良い医療」では無く、他者からみた「良い医療」を意識するようになる面もある気がします。

アートに「質の指標」を、なーんて非常にしっくりこないですが、マネジメント側には使える考えかもしれないですね。・・・って、もうあるかもしれませんが。
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