児玉真の徒然

峠にたつとき
すぎ来しみちはなつかしく
ひらけくるみちはたのしい
(真壁仁 峠)

アウトリーチの嬉しい話(トリトンアーツネットワーク)

2012年02月19日 | 徒然
NPOトリトンアーツネットワークの桜井さんから嬉しい話。

「嬉しいことがありました!
先日近所の小学校へアウトリーチへ行ったら、音楽の先生に「うちの5年生の男の子でヴァイオリンやってる子がいて、結構コンクールとか入賞して真面目にやってるんだけど、なんときっかけがTANさんのアウトリーチなんだって~!」と言われました。なんでも、保育園でアウトリーチを聴いて、ヴァイオリンやりたいと言い始めたそうです。調べたところそのアウトリーチはなんとボロメオSQではありませんか!そう…それはいい経験したねぇキミ。
今度ボロメオが来日したら会えるきっかけとかあったらいいな~。
第一生命ホールの公演にもよく来てくれているみたいで、なんだか本当に芽が育った!という感じで先生、サポーターとみんなで大喜びしました。」

こう言うのって普通は美しい絵なのだけれど、実際になると本当に嬉しいですねえ(この場合、嬉しいというのがやはり一番の言い方だと思う)。ボロメオSQはいつも直球勝負のアウトリーチをしていて、幼稚園や保育園でも演奏の熱の入りかたが凄いのだけれど、こう言う話を聞くとなるほどねえ、と思う。アウトリーチの目標をそこに置くかどうかは、主催者、演奏家それぞれケースバイケースで同じではないけれど、やはり目標設定の確かさとぶれなさが大事なのだと言うことは肝に銘じないといけないね。やはり

と言うことで、2003年にトリトンでボロメオを招いてアドベントセミナーの人たちに話をしてもらったときの、ボロメオSQのファーストヴァイオリン奏者ニコラス・キッチンの話を再掲する(たぶん以前にも載せたと思うので)。ちなみに上記エピソードはその次の来日の時の話だと思われる。以下。そのときに、ニックが「仕上げていない曲はやるべきではない」といっていたことが非常に強く印象に残っているのだけれど。
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トリトン・アーツ・ネットワークのアウトリーチミーティングでの
ボロメーオ弦楽四重奏団ニコラス・キッチン氏のコメント

1.TANについて
・TANはコンサートの企画・制作だけでなく、アウトリーチ・プログラムのコーディネートにおいても、きちんと運営されていて、組織としての質が大変高い。
・ともすると、コンサートにしろ、アウトリーチ・プログラムにしろ、易きに流されて、コマーシャリズムに押しつぶされがちな昨今、一つ一つのアウトリーチ・プログラムを聴き手の立場に立って、注意深く取り扱っている事は称賛に値する。
・とてもうまくマネジメントされている一例として、一つ一つの演奏する場での対象者についての情報を事細かに事前に奏者に教えてくれていることがあげられる。このことは演奏家にとってはとても大事な事で、「どういう人が聴いてくれるのか、普段はどんな生活をしている人たちで、何に興味を持っているのか」など出来るだけ多くの情報を奏者に教えてくれれば、何を演奏したらよいか、また演奏する際にどんなお話をすれば興味を持ってもらえるのかが分るのだ。
・米国でもレジデンシー・プログラム(演奏する場所に住みついて、コミュニティの一員として生活しながら演奏活動も行なうもの)を行なう事が多いが、誰の為に弾くのかを事前に知る事が難しい
・TANでは事前に下見をするが、これが情報の収集と言う意味で大変、重要なことだ。たとえその場で生活している人たちと一言も話が出来なくとも、見るだけでも大事な事である。(昨年、国立がんセンターに下見に行ってニックがいるか分教室で子どもの作った歌の楽譜を手に入れて、実際にアウトリーチをするまでに弦楽四重奏用に編曲して持っていったことが、患者さんや看護婦さんに大変喜ばれた)
・当日の演奏プログラムを考える際にも、演奏と言う一種のコミュニケーションをする際には、最初に相手からの信頼を得る事が出来れば、雰囲気が柔らかくなり、良い関係を築く事が出来る
・聴き手にとって初めての奏者と相対した時に、その奏者から自分達の事を分ってくれていると思わせる、何かのつながりが予め用意されていると、なじみのないクラシック音楽でも聴き手の心の襞に分け入っていくものだ。
・保育園で演奏した際に、家族が同席したのは良かった。というのも、「これは大変重要な事だ」と子どもに分らせる上では、自分の親が同席してい真剣に聴いていれば子どもも真剣に聴こうとするからだ。
・TANがアウトリーチ・プログラムを上手く運営している事を羨ましいとすら思う。
2.米国での経験から言える事
・中学・高校生は、アウトリーチ・プログラムの対象として大変難しい。というのも、自分がクラシックを好きだと言う事を隠しているケースが多いからだ。
・学校でやる時に演奏後、最初の質問をするその内容が、その後のQ&Aの内容を規定する上で、非常に重要だ。
・ 病院において、生きる事の意味を考えているような、特別な事情を持っている人々にとって、音楽は何か意味のある事をプレゼントできるものだ。

3.TANへの示唆
①アウトリーチ・プログラムを記憶に定着させる上で、もう少し分かり易 い「配り物」があると、その翌年にまた同様なアウトリーチ・プログラムを 企画した際に、記憶が蘇る手助けとなる。
②「配り物」を事前に手渡ししておく事も大事。ワクワク感を作っていく事に役立つ。また、これから来る人の情報を聴き手が持っておく事が期待感の醸成に寄与する。例えば、TANのHPに情報を事前に上げておいて、アウトリーチ・プログラムの聴き手がそれにアクセスするというのも一案だ。Real Player で音のサンプルを作ってあげるとか、絵を見せることも役立とう。
③奏者の気配りとして大事な事を二つ:
i)当日演奏する曲目に対して奏者が興味と持った理由を語る事。何故その音楽を自分が面白いと思うか、好きな曲であれば、その思いを伝えられる可能性が高いものだ。今回、第一生命ホールではバルトークの弦楽四重奏全曲を弾くが、自分が本当にバルトークを美しいと思っていなければ、つまり弾き手として納得していなければ聴き手を引き込む事は出来ない。
ii)クラシック音楽は誰にでもすぐに分ってもらえるものではない。
だからその場で自分の思いが充分に伝わらなくても、すぐに自分の考えを改めて、妥協したりせず、自分の思いを伝える為の努力を惜しまず頑固に自分を変えない事も重要だ。

④聴き手と奏者をつなげる何かを見つける事。だから事前の情報が大事なのだ。

以上