【公式】死神紫郎ホームページ

2018年より死神改め、死神紫郎(読み:しにがみ しろう)に改名。ギター弾き歌手。

人の「必ず」と「大丈夫」ほどあてにならないものはない。

2011-04-03 00:00:00 | 声明文
先月3月5日池袋手刀の公演翌日、
朝一の新幹線で祖父の見舞いに行った。

なんだか危なっかしい状態だから
元気づけてやってほしいと
母に頼まれ見舞いに同行したのだ。

場所は愛知県岡崎市、
近からず遠からず、
かれこれ4、5年振りの再開だ。

以前は孫である私が来るというだけで、
最寄駅でカメラを持って待ち構え、
改札で私の姿を認めるや人目もはばからず、
大声で名を呼び、
手を振り、
シャッターを切るなどする旺盛な祖父であったが、
今日はやはり居ない。

会う前から叔父に、
以前の祖父の姿はないから
覚悟しておいて欲しいと釘を刺された。

それでもやはり、
白髪オールバックにでっぷりとした体格で
豪快に祖母と叔母をこき使い、
孫に溺愛する姿しか想像できない。

祖父の家に着いたが、
どうも慌ただしい。

叔母に客間に通されしばし待機していたが、
雰囲気から察するに面会すらも難しい状況らしい。

母に様子を見てきてもらったが
今日の体調は特に最悪らしい。

詳しく話を聞くと、
私の訪問を何日も前から楽しみにしており、
少しでも長くお喋りをしたり、
健在なところを見せたかったらしく、
当日朝に気合いを入れて、
より効くと処方された新しい薬を飲んだら、
それがまるで体に合わなかったらしい。

せつない。

見舞いもできぬのに
鰻重をご馳走になる。

祖父の近況を聞くと、
目に生気がなくひどく痩せ細っており、
周りのことのほとんどが自力でできないらしい。

が、弱々しいながらも
以前と同じように祖母と叔母をこきつかい、
周囲の言うことなんかもまるで聞かないらしい。

さすが頑固者だ。
その頑固さがあればしばらくは大丈夫に違いない。
と無根拠な大丈夫で自らを落ち着かせ、
祖母と叔母に、
「また来ますんで」
と言い帰り支度をし始めたところ、
叔父から今なら少し話せるかもしれないと声がかかる。

じゃあ挨拶だけでもと寝室に行くと、
私の知っている祖父の半分サイズの祖父が
薄暗い部屋で床に伏して居た。

小さい頃私の兄に、
「りんごをちびちび食べてんじゃない」
と叱り飛ばすなどした豪快な祖父の面影はなかった。

私の顔を認めるや、
しきりに名を呼び、
声にならない声で泣きはじめた。

祖父が泣いているところを初めてみた。

私が近づくとよろよろと手を差し出し、
病人とは思えぬほどの強い力で手を握りしめてきた。

もう片方の手で、私の顔の輪郭、
存在を確かめるように触り続けた。

何を言ってるかよく分からない。

少し伸びたひげが気になっているようだ。

どうしたらよいのか分からず
手を強く握り返し、
不器用に腕や頬や額擦ったりしつつ、
またしても平静を装い、
深刻な表情にならないよう、
「大丈夫、大丈夫だよ」
とヘラヘラし、
日ごろの毒舌はどこへやら
孫らしく振る舞い、

私が今年で28歳になることや、
今日ご馳走になった鰻重は旨かったとか、
今日は仕事が休みだとか、
土産に茶を持ってきたから
落ち着いたら叔母に淹れてもらうといいとか、

それと一応祖母と叔母の言うことは
聞かなきゃ駄目だと忠告したが
それだけ聞こえないふりをされた。

5分ほど話すなどしたが、
電車の時間は無情にも迫る。

心苦しいが、
もう帰らないといけないと告げる。

祖父は全身で悲しみを滲ませ、
またしても声にならない声で泣きはじめた。

なんとも居たたまれない気持ちになる。

私は最後の最後に、
また近いうち必ず見舞い行くから大丈夫。
必ず行くから。
来月か再来月あたり。
これで最後じゃないんだからさ。
また会い行くから大丈夫、大丈夫だよ。
またね。

と言い祖父の家を出た。

そしてその2週間後、
「必ず」は叶わぬことになった。
「大丈夫」は駄目であった。


土産に持っていった茶は封が切られていなかった。


葬儀の前日叔母に、
「きっと飲みたかったでしょうから」
と促され茶を棺に入れた。

飲みやすいか分らないが、
顔の横に置いた。

火葬前、皆で棺を花で一杯にした。
私は腰元や足元にしか花を置かなかった。

「最後に顔を見せてあげて」
と叔母に頼まれ、
祖父の顔の目の前まで行ったが、
腰元や足元ばかり見ていた。

それが精一杯だった。


顔を見るのが辛かった。


人間の必ずは必ずではなく、
大丈夫とは自らを落ち着かせるための大丈夫。

人との約束はできうる限り果たしておきたい、
そう強く思った。
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