・ 叙情的で美しい映像と音楽で描かれたビターなラブ・ストーリー。
独特の感性とストーリー・テイリングから一躍注目を浴びた「ムーンライト」のパリー・ジェンキンス監督が、公民権運動で精神的支柱となった作家ジェームズ・ボールドの小説・「ビール・ストリートに口あらば」を脚色して映画化。
70年代NYハーレムに住む若い黒人カップルの一途な愛と理不尽な差別を描いたラブストーリーで、母親役で好演のレジーナ・キングがオスカー助演女優賞を受賞した。
ビール・ストリートはメンフィスの繁華街だが<アメリカで生まれた黒人はみな、ビール・ストリートで生まれた>という原作の精神は、ジェンキンス監督によって美しく哀しいラブ・ストーリーとして映像化された。
19歳のティッシュ(キキ・レイン)は幼なじみの恋人22歳のファニー(ステファン・ジェームス)と幸せな日々を送っていた。ある日ファニーはティッシュに近づいてきた男をかばい白人警官の怒りを買ってしまい、近くで起きたレイプ事件で容疑者として逮捕され、ファニーは無実を証明するため家族共々奔走するが・・・。
プロローグで静けさと美しい街並みをゆっくりと歩くしあわせそうな二人をカメラがゆっくりと追い、別れ際に真俯瞰のカットで終わった直後、アクリル板に隔たれた留置所の面会シーンにカット変わりしたりするユニークな構成。
なぜ逮捕されたのかが分かるまで徐々に種明かししていく展開は、若いふたりの心情が高まっていくシーンを挟みながら進行していくため、なお一層理不尽さが何倍にも増幅されていく。
ジェンキンス監督は声高に黒人差別を訴える手法ではなく、若い二人を見守る家族や友人・マイノリティたちを通してアメリカ社会の根深い人種差別問題を提起する。
そのためには適材適所のキャスティング、登場人物の感情にリンクした衣装やメロウな音楽、それに美しい街並みや部屋やレストランなどの配色、さらに逆光や一気にクローズアップする映像手法などあらゆる要素を駆使した監督の手腕が発揮されている。
カップルは勿論、それぞれの家族がささやかながら必死で生きていく普通の人々であることがとても切ない。
ティッシュの妊娠を知った家族同士の対立、ユダヤ・イタリア・ヒスパニック系の隣人たちの温かい関わりなどを描きながら、プエルトリコへ帰国した被害者のやるせない対応など、今も変わらぬ困難さがひしひしと伝わってくる。
出番が僅かでセリフも少ない白人ベル巡査(エド・スクレイン)のインパクトの強さが半端ではないのも本作ならでは。
エンディングに流れるビリー・プレストンの「マイ・カントリー・ディス・オブ・スリー」が心に染み入ってくる秀作だが、観終わって理不尽な想いが払しょくされず持って行き所がないのがとてもつらい。
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