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『赤線地帯』 85点

2012-11-23 12:44:23 | 日本映画 1946~59(昭和21~34)

赤線地帯

1956年/日本

巨匠・溝口の遺作は娼婦たちの群像劇

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★☆☆60点

58歳という若さでこの年亡くなった巨匠・溝口賢二監督の遺作は、国会での売春禁止法案審議というテーマを同時進行させた社会問題を絡めた娼婦たちの群像劇だった。このため批評家からは「類型的」との評価が多く、あまり高評価を得られなかった。当時筆者は12歳で、リアルタイムでは観ていないが、溝口監督が日本を代表する監督でヴェネチア国際映画祭で2度賞を獲った有名な監督であるという認識があったくらいだから、若くして巨匠と呼ばれたのは頷ける。日本の5大監督(黒澤・小津・木下・成瀬)としてもっと評価すべきヒトだが、私的には娼婦に背中を切られたとか、好き嫌いが激しいとか何かと問題の多い人だったらしい。
本作は吉原の<夢の里>で働く、やすみ(若尾文子)、ゆめ子(三益愛子)、ハナエ(木暮実千代)より江(町田博子)、ミッキー(京マチ子)の5人を客観的に捉え、女の本質・本能や強かさなどを鋭く描いて魅せる。底辺に生きる女たちにはソレゾレの背景があってドラマの中でオムニバス風に暴いて行く成澤昌茂のシナリオは「西鶴一代女」(52)、「雨月物語」(53)、「山椒大夫」(54)と立て続けに本格時代劇で名を挙げた溝口に新機軸をもたらしただけに、これが遺作になったことは誠に残念だ。
5人のなかでもっとも強かで、観客にある種ホッとさせる?役を演じたのは若尾文子だ。口八丁手八丁で男たちを手玉に取る守銭奴でちゃっかりしている。<性典女優>というありがたくないニックネームを返上したのが「祇園囃子」での溝口作品で、主演の木暮実千代に引けを取らない好演だった。本作ではさらに磨きがかかっていた。その木暮は、イメージとは正反対の病持ちの夫と乳飲み子を抱え働くヤツレタ通いの娼婦役。黒ブチの眼鏡を掛け、「何が文化国家だ!自分は生きてみせる。そして次はどうなるか生きてこの目で見届けてやる」と言う強い女だ。
大女優の2人、三益愛子と京マチ子も娼婦役だ。<悲劇の母親女優>として一世を風靡し、作家で大映の専務・川口松太郎の夫人である三益が、息子に捨てられ気が触れる哀れな娼婦役を演じるというので大いに話題になったという。京マチ子は「羅生門」(50)、「雨月物語」(53)、「地獄門」(53)で<グランプリ女優>と呼ばれた大スター。出番はそれ程多くないがタイトルではトップに名前が出る所以である。父に反抗してズベ公になる楽天家ぶりはとても32歳とは思えないバイタリティ溢れる現代娘ぶり。もうひとり普通の主婦に憧れ、して結婚するが、女中替わりに使われ出戻りする町田博子。
5人にはその背景を見せる修羅場があって溝口得意の長廻しとなる。つまり5人が主役の作品である証明である。
脇を固める夢の里の経営者夫婦に進藤英太郎と沢村貞子が上手い。あるじは「政治が行き届かないところをカバーする社会事業だ」と必要悪を説き、女将は「吉原は300年続く商売だからそんなに簡単にはなくならない」と本音を言う。半世紀過ぎた今日姿かたちは変わっても現存する風俗営業の現実を言い当てている。客に現れる男たちの本音を十朱幸雄・田中春男・多々良純など達者な俳優が演じているのも懐かしい。絶賛されたラスト・シーンは、可もなく不可もなく感じた。



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