ル・アーヴルの靴みがき
2011年/フィンランド=フランス=ドイツ
ミスマッチ風テーマをメルヘンとして描いたカウリスマキ
shinakamさん
男性
総合 85点
ストーリー 80点
キャスト 80点
演出 85点
ビジュアル 85点
音楽 85点
フィンランドの巨匠アキ・カウリスマキの「過去のない男」(02)、「街のあかり」(06)に続く敗者3部作。絶えず貧しい市井の人々を優しい眼差しで見つめる監督がときには残酷な結末を用意していたりするが、今回はフランスの移民問題という一見ミスマッチのテーマを現代のメルヘンとして描いている。
舞台は世界文化遺産に選ばれたノルマンディ地方の港町ル・アーヴル。主人公は靴磨きをしているマルセル・マルコス。元はパリのボヘミアンで溝に落ちてケガをしているところをアルレッティに救われここで暮らしている。カウリスマキファンなら主人公はパリのボヘミアンたちの群像劇映画「ラヴィ・ド・ボエーム」(92)のマルセルの20年後だと分かる。全編フランス語だが、いつものフィンランドのような色調でくりひろげられ、飄々としたユーモアが随所に醸し出される監督独自のスタイルは変わっていない。小津を尊敬する監督の世界は、無表情で寡黙な人々を正面から捉えた映像から、その哀しみ・喜び・怒りなどを斬りとって見せる。長年のコンビ、ティモ・サルミネンの哀愁漂う映像も健在だ。
夫婦は貧しいけれど愛犬ライカと暮らす日々は幸せだった。そんななか事件が起きる。ひとつはアルレッティの病。検査の結果は不治の病で余命宣告を受けるが夫には内緒にして欲しいと医師に頼む。もうひとつは港にコンテナが漂着し、なかにはガボンから密航してきた人々がいてイドリッサという少年がロンドンにいる母に会うため脱走する。この少年のため、警察の目から守り何とかお金を工面してロンドンへ密航させようと奮闘努力するマルセル。パブのママやパン屋・八百屋など近所人々の善意は、愛妻を失う孤独なマルセルに対する思いやりだと窺える。
20年前マルセルを演じたアンドレ・ウィルムスは靴磨きに誇りを持つ元ボヘミアンを好演。妻のアルレッティ役はカウリスマキ作品には欠かせないヒロイン、カティ・オウティネン。無表情ながら<哀しみに堪え幸せを求める女>を演じたら右にでる者はいない。ほかにもエリナ・サロ、イヴリヌ・ディディなどの常連がシッカリと脇を固め、監督の愛犬ライカもパルムドッグ審査員特別賞を受賞して貢献している。
もっとも役得だったのはモネ警視役のジャン=ピエール・ダッサン。世界遺産となった年のワインとカルヴァドスを愛する法の番人である。ほかにジャン=ピエール・レオが謎の密告者で出演しているが、もったいないほどのチョイ役。
不法滞在の少年を救う作品に「君を想って海をゆく」(P・リオレ監督、V・ランドン主演)があるが、感動的なタッチはここでは見られない。監督曰く「非現実的な映画」で思いもよらない結末が待っているのだが、ひっそりと咲く若木の桜が象徴するようなこころ温まるエンディングだ。日本の下町人情劇を想わせる設定ながら、お涙頂戴とは一味違う気候風土を感じた作品だった。
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